ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第二章

77:オイゲンの代理

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 自身が不在の間、社の指揮を執る者が必要というオイゲンの言葉には、主に役員達から多数の反対意見が出された。

「役員と上級チームマネージャーの会議体で意思決定を行います。特に社長の代理を立てる必要はないでしょう」
「わが社のよいところは、一人の意思ではなく、合議によって意思決定がなされることです。下手に代表を立てると体制が崩れるのでは……?」
「社長がポータル・シティで研修を受けられるとしても、代表の業務は対応可能だと思われます。通常の業務は我々が共同で遂行しますので、特別重要なものだけ社長にご判断頂ければと思います」

 オイゲンもこうした反論があるであろうことは予想していた。
 しかし、別の代表者を立てなければ業務に支障が生じる。
 治安改革センターで研修をしながら社長の業務をこなすのは無理があると思われる。

「私が不在の間、私の代わりに代表として名前を出す人が必要になると思います。誰か代理を立てるべきではないかと思いますが……」
 オイゲンがそう発言すると、役員と上級チームマネージャーの間で「君がやったらどうか」「いや、あなたが」と役の押し付け合いが始まった。

 オイゲンはその様子を静観していたが、そのうち上級チームマネージャーの一人が「ヘンミTMが適任ではないか」と言い出した。
 その声に賛同の声が沸き起こった。

「ちょっと待ってください! 彼はチームマネージャーですよ」
 オイゲンが慌てて口を挟んだ。上級チームマネージャーの一つ下の役職であるチームマネージャーのヘンミにはこの場に出席する資格がないからだ。
 この場にいない者を欠席裁判で自身の代わりに任命するのは無理がありすぎる、とオイゲンは考えている。
 ただ、役員や上級チームマネージャーの中で、自身の代理を引き受けそうな者がいないであろうということはオイゲンも予想していた。

「またとない機会です。若手を抜擢して経験を積ませるのがよいでしょう」
 役員の一人がもっともらしい理由を述べた。
 オイゲンはその言葉を聞いて少し考えた。

(……彼が引き受けるかはわからないが、役員や上級チームマネージャーを指名してもまともに動くことは期待できないか。ならば、選択肢としては考えても良いか……)

「……ヘンミTMの意思を確認しましょう」
 こうしてヘンミが呼び出された。ウォーリーの部下の大量離脱後、彼の部署を引きついだ社員である。

 呼び出されたヘンミはスーツ姿で会議室にやってきた。
「役員や上級チームマネージャーの皆様が出席される会議に、チームマネージャーの私が呼び出されるとは……どういったご用件でしょうか?」

 ヘンミの言葉に役員の一人が答える。
「実はOP社からの要請で、社長がしばらく社を離れられる。その間、社長の代行をする者が必要なのだが……
 折角の機会なので若くて可能性のある人に代表代行を経験してもらおう、ということになった。
 ここにいる役員と上級チームマネージャーの間で協議したところ、ヘンミTM、君がよいのではないかという話になった。
 そこで君にその意思があるかどうかを確認するために呼んだのだ」

 ヘンミは考えるそぶりを見せたが、それも長い時間のことではなかった。
「……私が、ですか?
 役員の方や上級チームマネージャーの方々を差し置いて私などが代表を務めるなどとてもできないように思われます。ご再考いただけますか?」
「役員と上級マネージャーが全面的に君をバックアップする。君を上級チームマネージャーに推薦するために箔をつけたい、ということもあるので、何とか受けてもらえないだろうか」

 (役員と上級チームマネージャーの方々は良いとしても、他の同格のチームマネージャー達はどう思うだろうか……? 私はチームマネージャーの中ではもっとも昇格してから日が浅い。私を妬む人も出るだろう。
 それに、この時期にわざわざ代表の仕事を押し付けるのが怪しい。何かよからぬ仕事でも控えているのだろう)
 ヘンミは役員や上級チームマネージャー達の言葉を聞きながらそう考えた。

 そして、場の人々に問う。
「私を上級チームマネージャーに推薦するために必要な経験、ということでしょうか?」
 役員の一人がその通り、と答えた。
 ヘンミは意を決した。
「わかりました……引き受けさせていただきます。
 ただし、若輩者の私が一人でできることなど限られています。
 皆様あっての私です。よろしくご指導ご鞭撻のほど、お願いいたします」
 そう言ってヘンミは頭を下げた。

 場の雰囲気を確認したところ、ここで申し出を断るのは場を乱す結果になりかねない、と彼は考えたのである。
 場の雰囲気を乱した後でいやいや引き受けた形になってしまっては、この場に居る上職者達にとっては気分が良くないだろう。
 ならば、上職者を立てながら申し出を受けた方が場を乱さずに済む。
 今後、社長代行の業務を進める上で、彼らの協力は不可欠だろう。
 少なくとも彼らの顔を立てておけば、今後の業務を妨害される可能性は低くなるはずだ。

 そう結論が出てしまえば、彼が言うべき台詞は他にあり得なかった。
 ヘンミは具体的な引継ぎは後日、ということにして退室した。

 これで自身が社を離れた際の問題のひとつは解決したと、オイゲンは胸をなで下ろした。
 だが、まだ彼にはやるべきことが残されていた。
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