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第二章
68:屈服
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決断を迫るウノの言葉に有力者の一人が慌てた様子で立ち上がった。
「ちょっと待ってください。このような重大な問題は持ち帰って検討をしないと……」
再び無線機からハドリの声が入る。
「時間を稼がせるな」
ハドリの声にウノはすかさず反応する。
「……この場で今すぐ回答が出ないならば、弊社としてはあなた方の申し出を受けることはできません。お引取りください」
この言葉に有力者達は明らかにうろたえた。
ウノが冷たく彼らの申し出を拒否したように見えたからだ。
有力者達の目には、ウノがハドリの威を借る狐の様に見えていた。
これは完全に誤りであった。
ハドリは話し合いの一部始終を監視し、ウノを通じてその場を完全にコントロールしていた。
しかし、有力者達はそれに気づかず、ウノが独断で対応していると考えていた。
彼らは些末な話は子分に任せ、重要な場にだけ首を突っ込むというやり方を続けてきたからだ。彼らは役職の低いウノが相手として出てきた時点で、ハドリはこの話を些末なものと考えていると判断した。
だが、ウノの言葉ははったりではないように思われる。
過去のOP社のやり方を見れば、あり得ない話ではないからだ。
OP社が彼らの「ポータル市内の警備をOP社に委託する」という提案を受け入れなかった場合、どのような行動に出るのかが見当がつかない。
もし、OP社を敵に回した場合、自分達が「エクザローム防衛隊」の二の舞になる可能性も考えられる。
ウノは「あなた方を含めて犯罪者を」という言い方をした。
ウノ個人の見解なのか、OP社、すなわちハドリの見解なのかは判断がつかないが、有力者達を罪人と考えているようにも思われる。
有力者達はハドリに対してやましいところがあったわけではない。
多少の問題はあったかもしれないが、過去の苦しい時代からポータル・シティを支えてきたのは間違いないのだから。
ただ、「エクザローム防衛隊」殲滅など、ハドリは敵対した者に対して容赦がないことで知られている。自分達が敵の側に回されないとは限らないのだ。
最悪なのはウノがこの話し合いの結果についてハドリに都合の悪い報告をするケースだ。
ハドリが報告を受け入れ、有力者達を敵と認定すれば、彼らに対抗するすべはない。
有力者達は明らかに浮足立っていた。
互いに責任を押しつけあいながらも、最後には、
「分かりました、同意します……」
とOP社の条件を受け入れたのだった。
しかし、彼らはひとつ提案をしてきた。これが彼らができる目一杯の抵抗だったのだ。
「できればこの同意について、調印式のようなものをセットしていただきたいのですが……」
ウノは少し考えて答えた。
「……そのようなことをしている時間が我々には無いのですが」
「そこを何とか……」
「考えてみましょう。今日の要件はこれで終わりでしょうか?」
「ええ、まぁ……」
「では私は失礼します。調印式については後ほど回答いたします」
そう答えてウノは席を立った。
慌てた有力者達がウノを引きとめようとしたが、彼は聞く耳を持たず、そのまま部屋を出た。そして職場に戻り、大きく息をついた。
ウノの本来の性格であれば、有力者達の話を最後まで聞いたはずだ。
そうしなかったのは、ハドリから「これ以上奴らの話を聞く必要はない。調印式については後で答えると伝えて席を立て」と無線機越しに指示が飛んでいたからだった。
職場に戻ったウノに向けて、ハドリから今度は携帯端末の通信で連絡が入った。
安堵に身をゆだねる時間を持つことをハドリは許さない性質なのだ。
「調印式は一六時からだ。一時間後に先方にそう伝えろ。セッティングは任せる。ウノ、お前がサインすればいい。それから通信機は総務に返しておけ」
ウノはわかりましたと返事をし、通信を切った。
そして大きく息をつく。
(ここまではどうにか無事に終わったか……)
この交渉だが有力者達から一週間ほど前に持ちかけられたものであった。
ウノが交渉の席につくようにハドリから命じられたのは三日前のことである。
それから彼はまる一日半かけて想定問答集を作り、同僚に相手をしてもらいながら交渉のシミュレーションまでしていたのである。
昨日も徹夜で想定問答集を復習し、そして今日の交渉に臨んだのであった。
その努力も何とか報われたようだった。
しかし、ハドリからの指示がまだ残っている。
調印式の準備と有力者側への伝達だった。
交渉よりははるかにウノの性に合っている仕事だが、調印式そのものに出席することはウノにとって想定外であった。
人前に出るのが得意ではないのだ。調印式の準備のような堅苦しいイベントの準備は彼が比較的得意とする業務ではあったが。
しかし、OP社においてハドリの命令は絶対である。苦手な業務でも拒否することや失敗することは許されない。
ウノは時計を見た。時刻は一〇時四〇分を回ったところである。
時間的余裕はそれほどない。調印式の会場も押さえていないし、合意文書も未作成なのだ。ウノは、急いで調印式の準備に入ったのであった。
「ちょっと待ってください。このような重大な問題は持ち帰って検討をしないと……」
再び無線機からハドリの声が入る。
「時間を稼がせるな」
ハドリの声にウノはすかさず反応する。
「……この場で今すぐ回答が出ないならば、弊社としてはあなた方の申し出を受けることはできません。お引取りください」
この言葉に有力者達は明らかにうろたえた。
ウノが冷たく彼らの申し出を拒否したように見えたからだ。
有力者達の目には、ウノがハドリの威を借る狐の様に見えていた。
これは完全に誤りであった。
ハドリは話し合いの一部始終を監視し、ウノを通じてその場を完全にコントロールしていた。
しかし、有力者達はそれに気づかず、ウノが独断で対応していると考えていた。
彼らは些末な話は子分に任せ、重要な場にだけ首を突っ込むというやり方を続けてきたからだ。彼らは役職の低いウノが相手として出てきた時点で、ハドリはこの話を些末なものと考えていると判断した。
だが、ウノの言葉ははったりではないように思われる。
過去のOP社のやり方を見れば、あり得ない話ではないからだ。
OP社が彼らの「ポータル市内の警備をOP社に委託する」という提案を受け入れなかった場合、どのような行動に出るのかが見当がつかない。
もし、OP社を敵に回した場合、自分達が「エクザローム防衛隊」の二の舞になる可能性も考えられる。
ウノは「あなた方を含めて犯罪者を」という言い方をした。
ウノ個人の見解なのか、OP社、すなわちハドリの見解なのかは判断がつかないが、有力者達を罪人と考えているようにも思われる。
有力者達はハドリに対してやましいところがあったわけではない。
多少の問題はあったかもしれないが、過去の苦しい時代からポータル・シティを支えてきたのは間違いないのだから。
ただ、「エクザローム防衛隊」殲滅など、ハドリは敵対した者に対して容赦がないことで知られている。自分達が敵の側に回されないとは限らないのだ。
最悪なのはウノがこの話し合いの結果についてハドリに都合の悪い報告をするケースだ。
ハドリが報告を受け入れ、有力者達を敵と認定すれば、彼らに対抗するすべはない。
有力者達は明らかに浮足立っていた。
互いに責任を押しつけあいながらも、最後には、
「分かりました、同意します……」
とOP社の条件を受け入れたのだった。
しかし、彼らはひとつ提案をしてきた。これが彼らができる目一杯の抵抗だったのだ。
「できればこの同意について、調印式のようなものをセットしていただきたいのですが……」
ウノは少し考えて答えた。
「……そのようなことをしている時間が我々には無いのですが」
「そこを何とか……」
「考えてみましょう。今日の要件はこれで終わりでしょうか?」
「ええ、まぁ……」
「では私は失礼します。調印式については後ほど回答いたします」
そう答えてウノは席を立った。
慌てた有力者達がウノを引きとめようとしたが、彼は聞く耳を持たず、そのまま部屋を出た。そして職場に戻り、大きく息をついた。
ウノの本来の性格であれば、有力者達の話を最後まで聞いたはずだ。
そうしなかったのは、ハドリから「これ以上奴らの話を聞く必要はない。調印式については後で答えると伝えて席を立て」と無線機越しに指示が飛んでいたからだった。
職場に戻ったウノに向けて、ハドリから今度は携帯端末の通信で連絡が入った。
安堵に身をゆだねる時間を持つことをハドリは許さない性質なのだ。
「調印式は一六時からだ。一時間後に先方にそう伝えろ。セッティングは任せる。ウノ、お前がサインすればいい。それから通信機は総務に返しておけ」
ウノはわかりましたと返事をし、通信を切った。
そして大きく息をつく。
(ここまではどうにか無事に終わったか……)
この交渉だが有力者達から一週間ほど前に持ちかけられたものであった。
ウノが交渉の席につくようにハドリから命じられたのは三日前のことである。
それから彼はまる一日半かけて想定問答集を作り、同僚に相手をしてもらいながら交渉のシミュレーションまでしていたのである。
昨日も徹夜で想定問答集を復習し、そして今日の交渉に臨んだのであった。
その努力も何とか報われたようだった。
しかし、ハドリからの指示がまだ残っている。
調印式の準備と有力者側への伝達だった。
交渉よりははるかにウノの性に合っている仕事だが、調印式そのものに出席することはウノにとって想定外であった。
人前に出るのが得意ではないのだ。調印式の準備のような堅苦しいイベントの準備は彼が比較的得意とする業務ではあったが。
しかし、OP社においてハドリの命令は絶対である。苦手な業務でも拒否することや失敗することは許されない。
ウノは時計を見た。時刻は一〇時四〇分を回ったところである。
時間的余裕はそれほどない。調印式の会場も押さえていないし、合意文書も未作成なのだ。ウノは、急いで調印式の準備に入ったのであった。
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