ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
70 / 436
第二章

67:簒奪交渉

しおりを挟む
 LH四九年二月二日、ポータル・シティの「有力者」と呼ばれる者一〇名がOP社本社を訪れていた。

「……では、弊社がポータル市内の警備をあなた方から委託する、ということですね」
「そういうことです」
 有力者一〇人に対するOP社側の応対者は一人の中年男性だけである。
 この男性、姓名はフトシ・ウノという。
 OP社内での役職は本社広報チームのリーダーだ。
 有力者達は出てきた者の役職が低そうなことに不安を覚えたものだ。

 しかし、中の一名がOP社は社長のハドリが圧倒的に高い地位にあるだけで、他の者はそれほど高位な名称の役職にないことを思い出した。
 何人かの有力者は社長が出るべきだろうとOP社の対応に不満を持ったが、今の彼らにはOP社と正面きって戦う力は無い。

 この有力者達はポータル・シティの各エリアで、住民の管理や徴税などを行ってきた者たちだった。
 彼らは統治者というには程遠いが、比較的裕福な者が多く、広大な土地を持っていた。
 宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」が惑星エクザロームに不時着し、居住地を求めて人々が彷徨っていた時期に彼らは先頭に立って居住できる土地を開拓した。
 そして開拓した土地の所有権を主張した。

 彼らは持っている (と主張した)土地を人々に提供し、その代わりに居住者を管理し、地代の代わりに徴税を行っていたのだ。

 こうした結果、住民同士の揉め事や紛争に介入し、調停役を務めることも多々あった。
 このような有力者達がポータル・シティの治安を担っていた訳だが、近年、急速に犯罪の広域化や凶悪化が進み、このような有力者達が活躍できる場が減ってきていた。
 むしろ、治安の悪化に住民達は有力者に対して不満を持つことが増えてきたのである。

 ここに登場したのがハドリ率いるOP社である。
 はじめは地域インフラを担う小企業に過ぎなかったが、今やポータル・シティをはじめとした各都市の治安維持・改革の役割まで担っている。
 OP社の活動はハドリ個人の意思によって展開されているものであるが、その成果は目覚しいものがある。

 特に治安改革活動に関しては、その成果が著しい。
 半年前と比較して、目に見えて犯罪が減少しており、以前では当たり前のように見られた街中での乱闘などもほとんど見られなくなってしまった。
 窃盗事件なども激減している。
 政府の存在しないエクザロームであるため、公式な統計はないが、OP社が発表する数字では彼らの成果は明らかであった、また、人々の体感もOP社の発表に近いものであった。

 更に昨年一一月の「エクザローム防衛隊」殲滅もOP社にとってプラスに働いた。
「犯罪に屈しない強い企業」
 このイメージがポータル・シティやその周辺住民に植え付けられたのである。

「エクザローム防衛隊」がLH四八年五月に起こした事件で、OP社の従業員を中心に五千名以上の生命が失われた。
 OP社はその犯人を地の果てまで追い詰め、死をもって断罪したのである。ポータル・シティでは、今まさにこうした強い姿勢が望まれていたのだ。

 こうした中、ポータル・シティの有力者達もOP社の功績を認めざるを得なくなっていた。
 OP社に抵抗するよりも、OP社に権限を引き渡すことで自分達のメンツを守ろうとしたのである。

「御社にとっても悪い話ではないと思いますが」
 有力者の一人がウノにそう持ち掛けた。

 ウノは少し緊張している様子だったが、落ち着いて答えている。
「条件があります。その条件をあなた方が受諾してくれれば受けましょう」
 有力者達は顔を見合わせる。
 ウノはそれを無視して話を続ける。

「一つ目は、弊社が司法警察権、すなわちあなた方を含めて犯罪者を逮捕する権利、刑罰を決定する権利、刑罰を与える権利、これら全てを弊社が持つこと。そしてあなた方がこれを認めることです」
 有力者達からは返す言葉も出ない。

 更にウノは続ける。
「二つ目はあなた方が管理している住民の情報、それらを弊社が管理することです。弊社が一括管理することでより有効に犯罪抑止のために活用できるでしょう」
 ウノは比較的冷静にこれらの言葉を言ったように見えた。
 しかし、本人は緊張し通しであった。
 話し合いの様子を別室でハドリがチェックしているからだ。
 この部屋には隠しカメラとマイクが仕掛けてあり、話の内容はハドリには筒抜けなのだ。

 それだけではなくウノの右耳には補聴器に似せた無線機があった。
 ハドリは無線機を通じてウノに指示を出していたのである。

 ウノはハドリを恐れていた。ウノ自身はハドリより十歳ばかり年長なのだが、ハドリを見るだけで冷や汗が吹き出し、その場から逃げ出したい衝動に駆られるのだ。

 しかし、ウノの身体は彼の意思に反し、常にハドリに従順でかつ優等生的な言動をとるのであった。
 それをハドリに見込まれたのか、今回の交渉を担当することになってしまったのである。

「……」
 有力者達は無言であった。ウノも無言である。

 すると今まで声が入ってこなかった無線機からハドリの声が聞こえた。
「何をしている。早く奴らに決断を迫れ」
 
 その声にウノは姿勢を正し、言葉を発した。
「……時間はありません。今すぐこの場で結論を聞かせてください」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...