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第二章
67:簒奪交渉
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LH四九年二月二日、ポータル・シティの「有力者」と呼ばれる者一〇名がOP社本社を訪れていた。
「……では、弊社がポータル市内の警備をあなた方から委託する、ということですね」
「そういうことです」
有力者一〇人に対するOP社側の応対者は一人の中年男性だけである。
この男性、姓名はフトシ・ウノという。
OP社内での役職は本社広報チームのリーダーだ。
有力者達は出てきた者の役職が低そうなことに不安を覚えたものだ。
しかし、中の一名がOP社は社長のハドリが圧倒的に高い地位にあるだけで、他の者はそれほど高位な名称の役職にないことを思い出した。
何人かの有力者は社長が出るべきだろうとOP社の対応に不満を持ったが、今の彼らにはOP社と正面きって戦う力は無い。
この有力者達はポータル・シティの各エリアで、住民の管理や徴税などを行ってきた者たちだった。
彼らは統治者というには程遠いが、比較的裕福な者が多く、広大な土地を持っていた。
宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」が惑星エクザロームに不時着し、居住地を求めて人々が彷徨っていた時期に彼らは先頭に立って居住できる土地を開拓した。
そして開拓した土地の所有権を主張した。
彼らは持っている (と主張した)土地を人々に提供し、その代わりに居住者を管理し、地代の代わりに徴税を行っていたのだ。
こうした結果、住民同士の揉め事や紛争に介入し、調停役を務めることも多々あった。
このような有力者達がポータル・シティの治安を担っていた訳だが、近年、急速に犯罪の広域化や凶悪化が進み、このような有力者達が活躍できる場が減ってきていた。
むしろ、治安の悪化に住民達は有力者に対して不満を持つことが増えてきたのである。
ここに登場したのがハドリ率いるOP社である。
はじめは地域インフラを担う小企業に過ぎなかったが、今やポータル・シティをはじめとした各都市の治安維持・改革の役割まで担っている。
OP社の活動はハドリ個人の意思によって展開されているものであるが、その成果は目覚しいものがある。
特に治安改革活動に関しては、その成果が著しい。
半年前と比較して、目に見えて犯罪が減少しており、以前では当たり前のように見られた街中での乱闘などもほとんど見られなくなってしまった。
窃盗事件なども激減している。
政府の存在しないエクザロームであるため、公式な統計はないが、OP社が発表する数字では彼らの成果は明らかであった、また、人々の体感もOP社の発表に近いものであった。
更に昨年一一月の「エクザローム防衛隊」殲滅もOP社にとってプラスに働いた。
「犯罪に屈しない強い企業」
このイメージがポータル・シティやその周辺住民に植え付けられたのである。
「エクザローム防衛隊」がLH四八年五月に起こした事件で、OP社の従業員を中心に五千名以上の生命が失われた。
OP社はその犯人を地の果てまで追い詰め、死をもって断罪したのである。ポータル・シティでは、今まさにこうした強い姿勢が望まれていたのだ。
こうした中、ポータル・シティの有力者達もOP社の功績を認めざるを得なくなっていた。
OP社に抵抗するよりも、OP社に権限を引き渡すことで自分達のメンツを守ろうとしたのである。
「御社にとっても悪い話ではないと思いますが」
有力者の一人がウノにそう持ち掛けた。
ウノは少し緊張している様子だったが、落ち着いて答えている。
「条件があります。その条件をあなた方が受諾してくれれば受けましょう」
有力者達は顔を見合わせる。
ウノはそれを無視して話を続ける。
「一つ目は、弊社が司法警察権、すなわちあなた方を含めて犯罪者を逮捕する権利、刑罰を決定する権利、刑罰を与える権利、これら全てを弊社が持つこと。そしてあなた方がこれを認めることです」
有力者達からは返す言葉も出ない。
更にウノは続ける。
「二つ目はあなた方が管理している住民の情報、それらを弊社が管理することです。弊社が一括管理することでより有効に犯罪抑止のために活用できるでしょう」
ウノは比較的冷静にこれらの言葉を言ったように見えた。
しかし、本人は緊張し通しであった。
話し合いの様子を別室でハドリがチェックしているからだ。
この部屋には隠しカメラとマイクが仕掛けてあり、話の内容はハドリには筒抜けなのだ。
それだけではなくウノの右耳には補聴器に似せた無線機があった。
ハドリは無線機を通じてウノに指示を出していたのである。
ウノはハドリを恐れていた。ウノ自身はハドリより十歳ばかり年長なのだが、ハドリを見るだけで冷や汗が吹き出し、その場から逃げ出したい衝動に駆られるのだ。
しかし、ウノの身体は彼の意思に反し、常にハドリに従順でかつ優等生的な言動をとるのであった。
それをハドリに見込まれたのか、今回の交渉を担当することになってしまったのである。
「……」
有力者達は無言であった。ウノも無言である。
すると今まで声が入ってこなかった無線機からハドリの声が聞こえた。
「何をしている。早く奴らに決断を迫れ」
その声にウノは姿勢を正し、言葉を発した。
「……時間はありません。今すぐこの場で結論を聞かせてください」
「……では、弊社がポータル市内の警備をあなた方から委託する、ということですね」
「そういうことです」
有力者一〇人に対するOP社側の応対者は一人の中年男性だけである。
この男性、姓名はフトシ・ウノという。
OP社内での役職は本社広報チームのリーダーだ。
有力者達は出てきた者の役職が低そうなことに不安を覚えたものだ。
しかし、中の一名がOP社は社長のハドリが圧倒的に高い地位にあるだけで、他の者はそれほど高位な名称の役職にないことを思い出した。
何人かの有力者は社長が出るべきだろうとOP社の対応に不満を持ったが、今の彼らにはOP社と正面きって戦う力は無い。
この有力者達はポータル・シティの各エリアで、住民の管理や徴税などを行ってきた者たちだった。
彼らは統治者というには程遠いが、比較的裕福な者が多く、広大な土地を持っていた。
宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」が惑星エクザロームに不時着し、居住地を求めて人々が彷徨っていた時期に彼らは先頭に立って居住できる土地を開拓した。
そして開拓した土地の所有権を主張した。
彼らは持っている (と主張した)土地を人々に提供し、その代わりに居住者を管理し、地代の代わりに徴税を行っていたのだ。
こうした結果、住民同士の揉め事や紛争に介入し、調停役を務めることも多々あった。
このような有力者達がポータル・シティの治安を担っていた訳だが、近年、急速に犯罪の広域化や凶悪化が進み、このような有力者達が活躍できる場が減ってきていた。
むしろ、治安の悪化に住民達は有力者に対して不満を持つことが増えてきたのである。
ここに登場したのがハドリ率いるOP社である。
はじめは地域インフラを担う小企業に過ぎなかったが、今やポータル・シティをはじめとした各都市の治安維持・改革の役割まで担っている。
OP社の活動はハドリ個人の意思によって展開されているものであるが、その成果は目覚しいものがある。
特に治安改革活動に関しては、その成果が著しい。
半年前と比較して、目に見えて犯罪が減少しており、以前では当たり前のように見られた街中での乱闘などもほとんど見られなくなってしまった。
窃盗事件なども激減している。
政府の存在しないエクザロームであるため、公式な統計はないが、OP社が発表する数字では彼らの成果は明らかであった、また、人々の体感もOP社の発表に近いものであった。
更に昨年一一月の「エクザローム防衛隊」殲滅もOP社にとってプラスに働いた。
「犯罪に屈しない強い企業」
このイメージがポータル・シティやその周辺住民に植え付けられたのである。
「エクザローム防衛隊」がLH四八年五月に起こした事件で、OP社の従業員を中心に五千名以上の生命が失われた。
OP社はその犯人を地の果てまで追い詰め、死をもって断罪したのである。ポータル・シティでは、今まさにこうした強い姿勢が望まれていたのだ。
こうした中、ポータル・シティの有力者達もOP社の功績を認めざるを得なくなっていた。
OP社に抵抗するよりも、OP社に権限を引き渡すことで自分達のメンツを守ろうとしたのである。
「御社にとっても悪い話ではないと思いますが」
有力者の一人がウノにそう持ち掛けた。
ウノは少し緊張している様子だったが、落ち着いて答えている。
「条件があります。その条件をあなた方が受諾してくれれば受けましょう」
有力者達は顔を見合わせる。
ウノはそれを無視して話を続ける。
「一つ目は、弊社が司法警察権、すなわちあなた方を含めて犯罪者を逮捕する権利、刑罰を決定する権利、刑罰を与える権利、これら全てを弊社が持つこと。そしてあなた方がこれを認めることです」
有力者達からは返す言葉も出ない。
更にウノは続ける。
「二つ目はあなた方が管理している住民の情報、それらを弊社が管理することです。弊社が一括管理することでより有効に犯罪抑止のために活用できるでしょう」
ウノは比較的冷静にこれらの言葉を言ったように見えた。
しかし、本人は緊張し通しであった。
話し合いの様子を別室でハドリがチェックしているからだ。
この部屋には隠しカメラとマイクが仕掛けてあり、話の内容はハドリには筒抜けなのだ。
それだけではなくウノの右耳には補聴器に似せた無線機があった。
ハドリは無線機を通じてウノに指示を出していたのである。
ウノはハドリを恐れていた。ウノ自身はハドリより十歳ばかり年長なのだが、ハドリを見るだけで冷や汗が吹き出し、その場から逃げ出したい衝動に駆られるのだ。
しかし、ウノの身体は彼の意思に反し、常にハドリに従順でかつ優等生的な言動をとるのであった。
それをハドリに見込まれたのか、今回の交渉を担当することになってしまったのである。
「……」
有力者達は無言であった。ウノも無言である。
すると今まで声が入ってこなかった無線機からハドリの声が聞こえた。
「何をしている。早く奴らに決断を迫れ」
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