ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第二章

64:最初の空振り

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 それから一ヶ月、セス、ロビー、モリタの三人は徹底してトニーの授業の助手を務めた。
 トニーが授業で「本質を理解した質問が出来る生徒は、教官にも評価される」といえば、ロビーが授業終了後にトニーに質問に行った。
「できる奴は、授業以外にも自分から勉強するものだ」と言われれば、授業終了後にセスとモリタを引き連れて、資料室で授業の範囲を超えたレベルの学習を進めてしまったのである。

 こうすることで、ロビー、セス、モリタの三人がトニーと接する機会が飛躍的に増加した。
 相変わらずトニー個人に関する情報はほとんど手に入らなかったものの、収穫が無かったわけではない。
 重要な情報としてはトニーが実家暮らしであり、少なくとも父親が健在らしいということであった。

 この時点でトニーがセスの兄である可能性はほぼ消えたといえるだろう。
 セスが生まれた直後に救出された際、彼の父と思われる者は既に事切れていたのだから。

 これを知ってセスは少し落胆したようにも見えたが、表面上はいつもの気の利いた青年だった。

 ロビーに言わせれば、
「セスにとってはこれでよかったんじゃないかな。あのシヴァという先生は人を貶める発言が少し引っかかる。もう少しマシな人間の方がセスのためにもいいだろう」
 ということなのだが。

 更に、
「そんなに簡単に見つかるってものでもないか。まあ、これが世の中だよ。適当に苦労するようにできているものさ」
 などと達観している素振りまで見せたのだ。
 さすがにセスは苦笑、モリタは呆れるしかなかった。

 他にも収穫はあった。トニーが一般のビジネスマン向けに学校で講演をしたとき、パネル討論会のパネリストとして海洋調査の結果分析を担当した学者がいた。
 講演の後トニーを通じて、三人はこの学者を紹介してもらったのである。

 この学者自身は海洋調査船に乗って海へ出たことは無かったが、職業学校にもない海洋調査の情報を多数持っていた。
 老齢のこの学者は「自分が持っているよりも若い研究者が使った方がいいだろう」ということで、自身の持っていた情報をすべて職業学校に寄贈したのだ。
 ただし、犯罪に絡む情報も掲載されているので取り扱いは慎重に、そして管理を厳重にすることが条件であった。

 今、セス達は三人がかりでこの情報を分析している。
「まさか調査員の身元まで載っているとはね。さすがにこれはそうそう簡単に他人に見せられるものじゃないなぁ」
 モリタが感心した様子でつぶやいた。
 何故かいつも最初にこうした分析をするのはロビーかモリタなのだ。この二人が飽きるとセスが分析を始めるというのが常であった

「それにしてもたくさんあるね。そんなに慌てて調べる必要もないだろうけどね」
 セスはそう言いながらモリタとロビーに飲み物を差し出した。
 この三人の中では圧倒的に気が利くのがセスだ。

「今は面白いからいいよ」
 モリタがそう答えた。まだ飽きていない、ということなのだろう。

 ロビーは後ろで横になりながらモリタの操作している画面を見ている。
 そして、
「まあ、一時間もしないうちに飽きるぞ、こいつ」
 と言い放った。

 その四〇分後……
「ああ! 情報量が多すぎるよ。もう無理!」
 四〇分前のロビーの予想通りモリタが画面との格闘を投げ出した。
 ロビーがそれ見たことかという顔をセスに向けた。

 モリタは
「セス、この端末使っていいよ」
 と言ってセスに端末を明け渡した。
 ロビーが何か言おうとするとモリタは、
「あ、飲み物買いに行くけど、ロビーとセスの分も買ってこようか? コーヒーでいいかな?」
 とロビーの言葉を遮った。
 セスとロビーが肯くと、モリタは巨体に似合わない軽やかさで外へと走っていってしまった。

 今度はセスが端末に向かった。
 画面を見ると以前セスの両親の可能性があるとされた四組の夫婦らしき人物の情報が表示されている。
 セスはそのうちトニーと関係あるだろうと思われた「シバ」姓の夫婦の情報を調べ始めた。

「……」「どうだ?」
 セスが無言で画面と格闘していると、ロビーが画面を覗き込んできた。

「さすがにそんなにすぐには解らないよ。僕よりモリタの方が情報の検索は得意だし」
 セスが苦笑いしながらロビーに向けて首を横に振った。
「すまん、少し黙っている」
 セスの邪魔をしたと思ったのか、ロビーが黙って画面を凝視した。
 これはこれでセスにとってはプレッシャーになるのだが。

 十分ほどしてモリタがみっつのコーヒーの容器をぶら下げて帰ってきた。
「セス、ロビー、これ!」
 モリタがそう言ってテーブルの上にコーヒーの容器をトン、と置いた。

「あまり根を詰めすぎるとかえって重要なものを見落としそうだからね。休憩しようか」
 重要だと思われる情報を絞り込めていなかったこともあり、セスはここで休憩を入れることを提案した。
「そうだな。そうするか」
 ロビーがセスの背中を軽く叩いて彼の意見への賛成を表明した。
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