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第二章

61:最初の候補者?

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 トニー率いる「リスク管理学科」に転じたことにより、セス達が得られる情報は格段に増加していた。
 特にセスが兄につながる手掛かりとして知りたがっている海洋調査に関する情報の増加は著しかった。

 トニーのもたらした記録がすべての海洋調査を網羅している訳ではない、ということであったが、手がかりを掴める可能性はある。
 記録によれば、セスの母親が海洋調査に出ていたらしい日付に調査を行っていた調査団は全部で八つあるらしい。
 八つの調査団が五四隻の船で調査をしており、このうち未帰還の船が一一となっている。海洋調査の未帰還率は二割程度とされていたから、これは特別高い数字ではない。

 帰還した船で行方不明者を出しているものの記録は無かったが、未帰還の船に乗っていた者の情報だけでもセスのルーツを探るヒントになるかもしれない。
 未帰還の船に乗っていた者で姓名を確認できるのは百数十名で、ほとんどが調査結果を分析する専門家か、調査隊の隊長クラスである。

 セスが船から発見されたとき、その船には実の両親と思われる二人の姿があったという。
 その状況から同じ調査船にセスの両親が乗り込んでいた可能性が高い。
 姓から判断すると、姓名を確認できる百数十名のうち、六組の夫婦らしき名前が見つかった。
 エクザロームでは夫婦は同姓、別姓のいずれも選択できるが、傾向として同姓を選択する者が多い。
 見つかった六組はすべて同姓の男女の組み合わせであった。もしかしたら別姓を選択している夫婦がいるかもしれないが、記録からはそこまではわからない。

 見つかった六組のうち二組は夫婦ともかなりの高齢であり、子供が生まれる可能性が低いので調査を後回しにした。
 残った四組のうち、セス達の興味はある一組の夫婦に注がれた。ダイ・シバ、アカネ・シバの二名である。

 エクザロームでは自治体や政府が存在していないので、戸籍は各都市の有力者や企業などが個別に管理している状態であった。
 また、戸籍を管理する法律も無かったため、管理が比較的緩い都市では、個人の改名が行われているケースもあった。

 改名のパターンで多かったのが、自分の姓や名前を(二一世紀初頭の日本人が感じるところの)和風なものから欧米風に読み替える、というものだった。
 シバ姓の者がシヴァに改名したという例は比較的よく知られていた。
 セスやロビー、モリタは新しく赴任してきたトニー・シヴァもそうした改名組ではないかと考えたのである。
 トニーに関する情報は多くない。彼は意図的に必要最低限以外のプロフィールを公開していなかったのだ。
 職員名簿によればLH二一年七月一一日生まれの二七歳とある。
 セスの育ての父から得られたセスの兄らしい人物はセスより一〇歳程度年長らしいから、プロフィール的にはセスの兄の可能性はある。

「本人に確認してみてもいいんじゃないか?」
 ロビーが機械を片付ける手を止めてセスにそう言った。
「でも、何か失礼にならないかな? いきなり『僕の兄ですか?』と聞くのも変だよ。変な趣味の持ち主だとか思われたら嫌だなぁ
 あの先生、他人の弱みを掴むとすぐ笑い話のネタにするからね」
 セスが尻込みした。確かにトニーの性格からすると、素直にセスの質問に答えるとは思えないし、セスをからかうネタにしかねない。

「あのな……そのあたりはやり方があるだろう。まあ、俺に任せてくれよ、セス」
 すると、少し離れたところから横槍が入った。
「ロビーが聞くの? ロビーの辞書には『失礼』とか『デリカシー』って言葉がないからなぁ、心配だよ」
 声の主はモリタだった。

「てめぇ、モリタ、今まで片付けサボってどこ行っていた?!」
 ロビーが凄んだ。
「あのね……休憩時間にトイレくらい行かせてよ。サボっていたなんて冗談じゃない!」
「って、てめえいつも片付けのときトイレに行ってるだろうが!」
「だって、講義中にトイレに行くことができないじゃないか!」
 ロビーとモリタが口論に入りそうだったので、セスが間に入る。
「まあ、ね。モリタは戻ってきた訳だし、これが終われば今日の仕事も終わりなんだからさ、片付けちゃおうよ」
「おう、そうだった」
 ロビーが先に片付けに入る。モリタもノロノロとだがそれに続いた。

 機械を片付け終わると、ロビーがセスの車椅子の後ろに回り「行くぞ」という。
「え、えっ?! どこへ?!」
 セスがアタフタするのもお構いなしに、ロビーは車椅子を押していく。
 到着した先は、トニーの教官室であった。
 ロビーがインターホンを押す。
 秘書の女性の声で「どちら様でしょうか?」と返答があった。こちらの秘書はメイと違って応対をするらしい。
 ロビーが「リスク管理科職員のタカミですが、シヴァ先生はいらっしゃいますか?」と答えた。

 そう、ロビーはトニーの教官室に押しかけて直接本人に確認をとろうしたのだ。
 セスとモリタは呆気に取られていたが、これはいつものことであった。

「……まあ、そんな顔するなよ。ちょっと待っていろ」
 ロビーがセスとモリタをちらっと見やってからインターホンへと視線を戻した。
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