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第二章
58:罪人の刻印
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職業学校に入学し、一六歳になったばかりのメイにとって母親の自殺だけでも衝撃的だったのだが、更に強烈な衝撃がメイを襲った。
厄介だったのはこれらの衝撃は「正義」の名のもとに繰り出されたものであり、悪意のないものが少なくない割合を占めていたことであった。
生徒の保護者達の中には一連の事件についての結末に納得しない者も多数いた。
その中には、同じような事態が繰り返されてはならない、と考えた者達がいた。
彼らは再発を防止する対策が必要である、とした。
これならやりようによっては、メイもこれほど深く傷を負うことはなかったかもしれない。
しかし、不幸なことに彼らの中に具体的な対策を立てられる者はなかった。
一方で責任を負うべき者を正しく罰することが必要だと考えた者たちもいた。
彼らは正しく罰するために、次のような言葉を発した。
曰く
「教師が死んでも生徒達が心や身体に負った障害はもとに戻らない」
「教師は一生かけて生徒達を償うべきだった。死んだのは自己満足で無責任な行動である」
「親が責任を果たさず死へ逃げたのであれば、責任は娘が追うべきだ」
メイは自責の念からか、亡くなった母の生命保険から得たお金とわずかにあった貯金の全額を両生徒の両親へ送った。
しかし、この行動も裏目に出てしまった。
「金ですべてが解決すると思ったら大間違いだ」
「親の不始末は娘が一生をかけて償うべきだ」
自宅にメイの母親やメイ自身を責める文書が届けられたり、興味本位で彼女のアパートを見に来る者もあった。
甚だしきは外から彼女に罵詈雑言を浴びせたり、石や空き缶、空き瓶などを彼女の部屋へ向けて投げ込む者の存在だった。
これには近所の人々や、アパートの持ち主も辟易し、遠まわしながらメイにアパートを出るように伝えてきた。近隣住民も教師であったメイの母親はともかく、人見知りで自分の殻に閉じこもりがちなメイにはあまり良い印象を持っていなかったのだ。
公的な警察組織を持たないエクザロームでは、メイが相談すべき相手もいなかった。
土地の有力者が治安維持のための活動を行うことはあったが、有力者とのつながりを持たないメイが駆け込んだところで、相手にされる可能性はない。
おまけにメイには兄弟がなかったし、父親は彼女が幼いときに家を去っている。
また、頼れる親戚や知人も無かったから、彼女が家を出ても行く場所は無かった。
それでも居たたまれなくなり、彼女は家を出た。
街往く人々の視線がメイの身体に罪人であることを示す印を彫り込んでいるように彼女は感じていたのだ。
もともと人付き合いの苦手な彼女は、あても無く絶望的な気分で街を彷徨った。
(もう、世界に私が許してもらえる場所はないんだ……)
そう思えてきて、この世に在ろうとする気持ちが完全に折れてしまった。
考えるのは死ぬことばかりである。
メイに対して同情的な声が無かったわけではない。
ただ、彼女の耳にそれらの声は届かなかった。それらの声は大きくも多くもなかったからだ。
メイを責める声が大きいところで、その反対の意見を大声で言うのは困難を伴う。
メイ自身にも自分に対する同情の声を受ける心の余裕は無かったのだ。
厄介だったのはこれらの衝撃は「正義」の名のもとに繰り出されたものであり、悪意のないものが少なくない割合を占めていたことであった。
生徒の保護者達の中には一連の事件についての結末に納得しない者も多数いた。
その中には、同じような事態が繰り返されてはならない、と考えた者達がいた。
彼らは再発を防止する対策が必要である、とした。
これならやりようによっては、メイもこれほど深く傷を負うことはなかったかもしれない。
しかし、不幸なことに彼らの中に具体的な対策を立てられる者はなかった。
一方で責任を負うべき者を正しく罰することが必要だと考えた者たちもいた。
彼らは正しく罰するために、次のような言葉を発した。
曰く
「教師が死んでも生徒達が心や身体に負った障害はもとに戻らない」
「教師は一生かけて生徒達を償うべきだった。死んだのは自己満足で無責任な行動である」
「親が責任を果たさず死へ逃げたのであれば、責任は娘が追うべきだ」
メイは自責の念からか、亡くなった母の生命保険から得たお金とわずかにあった貯金の全額を両生徒の両親へ送った。
しかし、この行動も裏目に出てしまった。
「金ですべてが解決すると思ったら大間違いだ」
「親の不始末は娘が一生をかけて償うべきだ」
自宅にメイの母親やメイ自身を責める文書が届けられたり、興味本位で彼女のアパートを見に来る者もあった。
甚だしきは外から彼女に罵詈雑言を浴びせたり、石や空き缶、空き瓶などを彼女の部屋へ向けて投げ込む者の存在だった。
これには近所の人々や、アパートの持ち主も辟易し、遠まわしながらメイにアパートを出るように伝えてきた。近隣住民も教師であったメイの母親はともかく、人見知りで自分の殻に閉じこもりがちなメイにはあまり良い印象を持っていなかったのだ。
公的な警察組織を持たないエクザロームでは、メイが相談すべき相手もいなかった。
土地の有力者が治安維持のための活動を行うことはあったが、有力者とのつながりを持たないメイが駆け込んだところで、相手にされる可能性はない。
おまけにメイには兄弟がなかったし、父親は彼女が幼いときに家を去っている。
また、頼れる親戚や知人も無かったから、彼女が家を出ても行く場所は無かった。
それでも居たたまれなくなり、彼女は家を出た。
街往く人々の視線がメイの身体に罪人であることを示す印を彫り込んでいるように彼女は感じていたのだ。
もともと人付き合いの苦手な彼女は、あても無く絶望的な気分で街を彷徨った。
(もう、世界に私が許してもらえる場所はないんだ……)
そう思えてきて、この世に在ろうとする気持ちが完全に折れてしまった。
考えるのは死ぬことばかりである。
メイに対して同情的な声が無かったわけではない。
ただ、彼女の耳にそれらの声は届かなかった。それらの声は大きくも多くもなかったからだ。
メイを責める声が大きいところで、その反対の意見を大声で言うのは困難を伴う。
メイ自身にも自分に対する同情の声を受ける心の余裕は無かったのだ。
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