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第二章
57:社長秘書の過去
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「エクザローム防衛隊」の残党をOP社が殺害した事件について、オイゲンはネットで人々の声を調べていた。
その中で驚いたのは、「エクザローム防衛隊」に関係のない二人が巻き添えになったことについて、OP社の責任を問う声よりも二人の責任を問う声が多く報じられていたことだった。
二人はOP社の治安改革活動に反対していたそうだから、OP社のシンパから批判を浴びる可能性は否定できない。
しかし、批判の量がオイゲンの想像を超えて多かった。
曰く
「治安改革活動に反対するのは自分達に後ろめたいことがあるからだ」
「犯罪を防止する活動に反対していたのだから、犯罪に巻き込まれなかっただけでも御の字。彼らは犯罪に巻き込まれたときにどうするつもりだったのか?」
「他者の行動に反対するだけで自分が動かない卑怯者なのだから、このくらいの措置はあってしかるべき」
「結果的に今回の処置は手ぬるいものとなってしまっている。本来ならば、犯罪に巻き込まれて生命を奪われるべきだったのだ」
「このような者たちは、犯罪で大切なものを失わなければ、自分たちの愚かさが理解できないのであろう」
ということのようである。
さすがにオイゲンも気分が悪くなった。
「さすがに言うことが無茶じゃないかな。どう思う、カワナさん?」
オイゲンが後ろに座っているメイに向けて言葉を発したが、答えはない。
代わりに背中の方から震えが伝わってくる。
画面の近くに寄った結果、メイの両手がオイゲンの背中に触れるような格好になっていたのである。
オイゲンが振り向くと、メイの目は恐怖で大きく見開かれおり、身体が震えている。
メイはオイゲンが振り向いたのに気づくと、椅子ごとよたよたと後ずさった。
背中が壁にぶつかると今度は目から涙を流し始め、両手で顔を覆ってしまう。
「カワナ……さん?」
オイゲンには何が起こったのかも理解できない。反射的に声をかけてみたものの、どうしていいか見当もつかなかった。
「すみません!すみません……」
メイはただ「すみません」を繰り返すばかりだ。
(あの時と同じ……)
メイはニュースの映像から五年前の忌まわしい出来事を思い出していた。
メイの母は学校の教師だった。
五年前、彼女が受け持つ生徒同士で乱闘騒ぎがあり、一人が障害を抱えるようになるほどの大怪我をしてしまった。
彼女は加害側の生徒を連れて被害側の生徒宅へ謝罪に行った。
これが事態を悪い方向へ展開させた。
謝罪の翌日、加害側の生徒が自殺未遂事件を起こしたのだ。幸い一命は取り留めたものの、生徒は別人のように変わってしまった。
彼女は一連の出来事により、生徒の保護者や地域住民から責められることとなった。
学校が謝罪したものの、学校側も彼女の責任を認めてしまった。
孤立無援となった彼女は自らの命を絶った。それ以外の選択が許されないような状況であった。
彼女は加害側の生徒に謝罪させたことについて、正しい判断だったという確信を持っていた。
厳しい判断であったかもしれないが、直接相手に謝罪させることで、自らの犯した罪の重さを肌で感じて欲しいと考えていたのである。
そして、その想いは確かに加害側の生徒に伝わったはずだった。
ただ、その度合いが彼女の想いより遥かに重かったことで、加害側の生徒を追い詰めてしまったのかもしれないと彼女は考えた。
また、加害側の生徒は心のさじ加減を上手に見極められなかったのかもしれない。
被害側の生徒は障害を負うほどに傷つけられたのだし、自身も自らを殺めることでメイの母親の想いに応えようとしたのだから……
自殺未遂事件から数日後、加害側生徒の父親が学校へ怒鳴り込んできた。
当然、メイの母親の指導を責めるために。
「何故、うちの子が自ら命を絶つようなマネをしなければならなくなったのか? 何が現場で起きたのか? 学校と先生は、誠意を持って真実を伝えて欲しい」
メイの母親は自分のやったことをすべて伝えた。
それだけではなく、知る限りの情報を統べて伝えた。
結果的に加害側の生徒は自殺未遂事件を起こしてしまったが、被害側の生徒に謝罪させたこと自体は誤りではないという信念を持っていたからだ。
「それでうちの子が命を絶とうとしたのか? このような結果になったのは、被害側の生徒の性格か、先生の指導に問題があったからだ。問題がなければ、うちの子がそのようなマネをするわけがない!」
これが加害側生徒の父親がたどり着いた結論だった。
一方、それとは別にこのやり取りを知った被害側生徒の母親が学校へ抗議にやってきた。
加害側、被害側双方からの責めに板ばさみになった学校には、メイの母親を守る力が無かった。
彼女を守れば学校が「身内には甘い」「隠蔽体質」などと責められたであろうから……
彼女は命を絶つ前日、学校長にこういい残したという。
「自ら責任を取るということを学校が教えられなくなったら……教育は間違いなく成り立たなくなるでしょう」
そして、彼女は自らの責任を果たすため、生命を絶たなければならなくなったのだった。
乱闘騒ぎに関わった二人の生徒への責任、そして最後まで思うように育て上げられなかった愛娘への責任を負ったまま……
その中で驚いたのは、「エクザローム防衛隊」に関係のない二人が巻き添えになったことについて、OP社の責任を問う声よりも二人の責任を問う声が多く報じられていたことだった。
二人はOP社の治安改革活動に反対していたそうだから、OP社のシンパから批判を浴びる可能性は否定できない。
しかし、批判の量がオイゲンの想像を超えて多かった。
曰く
「治安改革活動に反対するのは自分達に後ろめたいことがあるからだ」
「犯罪を防止する活動に反対していたのだから、犯罪に巻き込まれなかっただけでも御の字。彼らは犯罪に巻き込まれたときにどうするつもりだったのか?」
「他者の行動に反対するだけで自分が動かない卑怯者なのだから、このくらいの措置はあってしかるべき」
「結果的に今回の処置は手ぬるいものとなってしまっている。本来ならば、犯罪に巻き込まれて生命を奪われるべきだったのだ」
「このような者たちは、犯罪で大切なものを失わなければ、自分たちの愚かさが理解できないのであろう」
ということのようである。
さすがにオイゲンも気分が悪くなった。
「さすがに言うことが無茶じゃないかな。どう思う、カワナさん?」
オイゲンが後ろに座っているメイに向けて言葉を発したが、答えはない。
代わりに背中の方から震えが伝わってくる。
画面の近くに寄った結果、メイの両手がオイゲンの背中に触れるような格好になっていたのである。
オイゲンが振り向くと、メイの目は恐怖で大きく見開かれおり、身体が震えている。
メイはオイゲンが振り向いたのに気づくと、椅子ごとよたよたと後ずさった。
背中が壁にぶつかると今度は目から涙を流し始め、両手で顔を覆ってしまう。
「カワナ……さん?」
オイゲンには何が起こったのかも理解できない。反射的に声をかけてみたものの、どうしていいか見当もつかなかった。
「すみません!すみません……」
メイはただ「すみません」を繰り返すばかりだ。
(あの時と同じ……)
メイはニュースの映像から五年前の忌まわしい出来事を思い出していた。
メイの母は学校の教師だった。
五年前、彼女が受け持つ生徒同士で乱闘騒ぎがあり、一人が障害を抱えるようになるほどの大怪我をしてしまった。
彼女は加害側の生徒を連れて被害側の生徒宅へ謝罪に行った。
これが事態を悪い方向へ展開させた。
謝罪の翌日、加害側の生徒が自殺未遂事件を起こしたのだ。幸い一命は取り留めたものの、生徒は別人のように変わってしまった。
彼女は一連の出来事により、生徒の保護者や地域住民から責められることとなった。
学校が謝罪したものの、学校側も彼女の責任を認めてしまった。
孤立無援となった彼女は自らの命を絶った。それ以外の選択が許されないような状況であった。
彼女は加害側の生徒に謝罪させたことについて、正しい判断だったという確信を持っていた。
厳しい判断であったかもしれないが、直接相手に謝罪させることで、自らの犯した罪の重さを肌で感じて欲しいと考えていたのである。
そして、その想いは確かに加害側の生徒に伝わったはずだった。
ただ、その度合いが彼女の想いより遥かに重かったことで、加害側の生徒を追い詰めてしまったのかもしれないと彼女は考えた。
また、加害側の生徒は心のさじ加減を上手に見極められなかったのかもしれない。
被害側の生徒は障害を負うほどに傷つけられたのだし、自身も自らを殺めることでメイの母親の想いに応えようとしたのだから……
自殺未遂事件から数日後、加害側生徒の父親が学校へ怒鳴り込んできた。
当然、メイの母親の指導を責めるために。
「何故、うちの子が自ら命を絶つようなマネをしなければならなくなったのか? 何が現場で起きたのか? 学校と先生は、誠意を持って真実を伝えて欲しい」
メイの母親は自分のやったことをすべて伝えた。
それだけではなく、知る限りの情報を統べて伝えた。
結果的に加害側の生徒は自殺未遂事件を起こしてしまったが、被害側の生徒に謝罪させたこと自体は誤りではないという信念を持っていたからだ。
「それでうちの子が命を絶とうとしたのか? このような結果になったのは、被害側の生徒の性格か、先生の指導に問題があったからだ。問題がなければ、うちの子がそのようなマネをするわけがない!」
これが加害側生徒の父親がたどり着いた結論だった。
一方、それとは別にこのやり取りを知った被害側生徒の母親が学校へ抗議にやってきた。
加害側、被害側双方からの責めに板ばさみになった学校には、メイの母親を守る力が無かった。
彼女を守れば学校が「身内には甘い」「隠蔽体質」などと責められたであろうから……
彼女は命を絶つ前日、学校長にこういい残したという。
「自ら責任を取るということを学校が教えられなくなったら……教育は間違いなく成り立たなくなるでしょう」
そして、彼女は自らの責任を果たすため、生命を絶たなければならなくなったのだった。
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