ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
59 / 436
第二章

56:社長秘書の仕事

しおりを挟む
 ウォーリーの後任ヘンミの様子を確認した翌朝、オイゲンは早めに起きていったん自宅へと向かった。
 シャワーと着替えを済ませて、再び社に戻る。
 彼は着替えを社長室のロッカーに置いていたのだが、メイが作業中だったので何となく気が引けたのだった。

 オイゲンが社長室に入ると、消え入りそうな声でメイが
「社長、できました」
 とオイゲンに記録ディスクを手渡した。
 オイゲンはメイの姿をみてぎょっとする。
 目の下にクマをつくっており、着ているスーツはシワだらけ、おまけに腰近くまである長く黒いストレートヘアはボサボサになっていたのだ。明らかに徹夜明けの状態だ。
 何故か前髪はいつも通り真ん中で綺麗に分けられていたのだが。

 とても二一歳のうら若き女性とは思えない。もとから化粧っ気がまるでないので、顔色の悪さも隠しようがなく、いつもよりかなりやつれて見えた。
 普段はその化粧っ気のなさが彼女の清楚さを引き出しているのだが、このような状態では逆効果である。
 やつれて見えて年相応に見えるのは、彼女が比較的童顔だからであろう。

「あ、あの……今日、業務がないなら明日の朝まで自宅待機でいいです……」
 メイの姿に思わずオイゲンはそう言ってしまった。

 しかし、メイは資料の内容を説明する必要があると抵抗して引き下がらない。
 引き下がらないといっても、「今報告します」とだけしか言わないのだが。

 これを振り切れないのがオイゲンという人物なのだ。
 彼は彼なりにメイのことを気遣ってそうしている。
 ここで強い言葉で彼女の申し出を断れば、彼女が嫌な思いをするだろうと考えているのである。こうした思いを他人にさせるのは、気が進まない。

 これは相手がメイの場合に限ったことではなく、大抵の相手に対してオイゲンはこのように考えてしまうのだ。
 特にメイの場合は、繊細な女性だと思っているから非常に気を遣うのである。

 メイは数回「今報告します」を繰り返した後、ついには何か物悲しげな瞳で遠くを見つめるのである。どこか焦点が合ってないようにも見える。
 彼女としては意識してやっている訳ではない。ごく自然な感情なのだが、これをやられるとオイゲンとしても辛い。
 これは説明を聞いたほうが得策だと思い、オイゲンはメイに資料の説明を依頼した。

「まずは、一つ目の資料です。該当のアパートは爆破されたことがほぼ確実です。事件後にわが社の社員が回線の修復工事を行っていますが、資料はそのときの情報をまとめたものです。該当のアパートからは爆発物と見られる破片が複数見つかっています。また、現場近くの住民の方からも『アパートが一瞬で吹き飛んだ』という複数の証言が得られています……
 事故の可能性は否定できませんが、アパートが破壊される前にOP社の武装した従業員が周辺を包囲していたという情報もあります」
 メイの報告は落ち着いた口調であり、事実を丁寧に伝えている。
 このような緻密で正確性が要求される作業について、オイゲンはメイにかなりの信頼を置いている。オイゲンがメイを秘書として評価している点のひとつがこれであった。

 メイの説明が続く。
「……二番目の資料です。これはOP社がわが社に通信記録の提出を求めた書類です。わが社の対応ですが、求められた通信記録をすべて提出しました。提出した通信記録に先程のアパートから発信された記録、及び……」
 メイは資料の内容を説明しただけで具体的な論評はしなかった。
 ただ、データが広範かつ詳細に集められていたので、オイゲンにも事件の裏側の予想はつく。

 (ハドリ氏は意識的に派手にやったな……)
 OP社の動きを見るとかなり周到に準備を進めていたことが予想される。
 ここまで周到に準備を進めていれば、何も建物ごと爆破する必要は無かったはずだ。
 相手の不意をついて拘束することも十分可能だったはずだからだ。

 更に疑問点がある。
 この事件では爆発の関係で同じアパートに居住していた「エクザローム防衛隊」に関係無い住民が二名犠牲になっていたのだ。
 OP社からの発表にもその事実は含まれていた。自社に不利になりかねない情報をOP社は何故出したのか……?

 オイゲンはメイにこの点について意見を求めたが、メイにも判断がつかないようだ。
 OP社はこの事実を発表しても自社にとって不利にならないと判断したのではないか、とは答えたのだが。

 オイゲンはそうかもなぁ、と答えながらニュースを検索する。するとひとつのニュース映像が飛び込んできた。
 映像によると犠牲となった二人はOP社の治安改革活動に反対する者で、主にネットで反対活動を展開していたらしい。
 更にオイゲンがニュースを検索すると、この二人には過去にもOP社による海洋発電所の建設に反対するなどの活動暦があったらしいことが報じられていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...