ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
53 / 436
第二章

50:「タブーなきエンジニア集団」決起す

しおりを挟む
 一〇月一日、「タブーなきエンジニア集団」の結成式兼ウォーリーの快気祝いのイベントは、ポータル・シティ近郊のイベントホールで盛大に行われた。

 ウォーリーを慕って「タブーなきエンジニア集団」に身を投じた者は三千名強にも達していたので、レストランやホテルを会場に使うことはできなかった。
 そこでウォーリーは一計を案じた。歌手のコンサートなどに利用されるイベントホールを借りきり、そこに自分が調べ上げた飲食店の料理をケータリングで持ってこさせることにしたのだ。
 ウォーリーが興味を持った飲食店はひとつやふたつではなかった。彼は自分が気に入った店すべてから料理を持ってこさせたのである。

 ウォーリーはホールのステージに立ち、結成式の参加者に向かって呼びかけた。
「集まってくれたみんな! 俺の『タブーなきエンジニア集団』の構想に賛同してくれてありがとうっ!」
 参加者達からはウォーッという賛同の声があがった。まるでロック歌手か何かのコンサート会場のようである。

 ウォーリー自身この手のノリは嫌いではない。むしろ好きなほうだ。
 ECN社でウォーリーを嫌う者たちが口々に言う言葉が「出たがり」なのであるが、確かにこの評価は否定できないであろう。

 ウォーリーの演説は続く。
「俺がいたECN社はかつて、システムや機器の扱いに困った客がいたら、どんなメーカーの製品を使っていても駆けつけた会社だった!」
 そう叫んだ後、ウォーリーは下を向いて首を横に振ってみせた。
 一瞬にして会場が静まり返る。

「……だが、今のECN社は残念ながらOP社の手下に成り下がってしまった! 奴らは自分のところの製品しか面倒を見ない! 近いうちECN社もそうなるだろう。それが俺には嘆かわしいっ!」
 ウォーリーが顔をしかめた。
 しかし、実はウォーリーの演説のこの部分、必ずしも正しくはなかった。
「どんなメーカーの製品でも面倒を見る」という点はオイゲン率いるECN社もかなり健闘していたのだ。
 OP社から指摘が入るたびに頭を下げてオイゲンが謝罪しながらも、とぼけたフリをしてこの点だけは守っていたのである。
 ただ、ECN社にとって、ウォーリーの部下が半数程度流出したことは非常に痛手だった。ECN社の中でもトップレベルの技術集団が抜けたのである。ECN社の技術力低下は否めない状況であった。

 ウォーリーはこのような事情は露知らず、演説を続けている。
「だから、俺は、いや俺たちは困っている人々のために立ち上がった! 『タブーなきエンジニア集団』だ! ECN社の製品でもOP社の製品でも俺たちは対応するんだ!
 他社製品を扱うな、というタブーとは無縁でいようぜ!」
 そう言ってからウォーリーはステージ脇に立っている数名にステージ上に上がるように促した。

「俺が療養していた間、俺やみんなを支えてくれたメンバーに、是非礼が言いたい。右から、ノリオ・ミヤハラ! ECN社時代のTMだ。これからも『タブーなきエンジニア集団』の幹部として、集団を支えてもらう。ミヤハラには副代表を務めてもらう!
次は……」
 このように『タブーなきエンジニア集団』の幹部が順番に紹介されていった。

 最後にウォーリーはこう締めくくった。
「これから俺たちが進もうとしている道は、必ずしも平坦じゃないかもしれない。だが、俺たちが協力して事に当たれば、必ずお客様は満足してくれるはずだ! 俺たちに乗り越えられない壁は無い!
 今日は集まってくれてありがとう! これから全員で頑張っていこう!」
 再び歓声が沸き起こる。イベントホールの空気がビリビリ音を立てるほどの大きさだ。

 実際、マイクを通したウォーリーの大声で壁が振動し、壁に寄りかかっていた者を少なからず驚かせていた。ホールが防音設計でなかったら、近隣住民から苦情が出ていたかもしれない。

 そして、いつしかホールから「歌え!」コールが沸き起こった。
 ウォーリーの歌の上手さには定評があり、パワフルなボーカルが彼の部下に人気だった。
 いったんはステージから降りたウォーリーだったが、「歌え」コールの前に再びステージへ上がった。
「ま、望まれちゃ仕方ないな。
 じゃ、俺が入院していたときによく聴いた曲を歌うわ。
 これからの俺たちの状況をよく言い表している歌だ。それじゃ、いくぜ!」
 そう言って、ウォーリーはマイクを手にして歌いだした。何時の間にかカラオケのセッティングも済ませている。
 
「Maddy Days」

 飛び込んだ 新しいこの地で
 何かを求めて 地図を描く

 誰も見ぬ  未開地フロンティア思い
 内なるボルテージ 盛り上がれ

 まだ見ぬ地の待ち人 応えようその想いに
 地面踏みしめ 最初スタートの一歩を踏み出す

 地を叩く雨の鞭を 身体に浴びても
 何もかも 乗り越えられる気がした

 希望あふれ 満ちる想いを感じて 
 ただ前へ


 黒く染まる 低く沈んだ空
 身体を押しつぶす 重い大気が

 湧き上がる 灰色の霧が
 俺と希望の仲を 引き裂いていく 

 進む道に未来さきは見えない 答えよう闇の試練に
 地を這いずり 動かぬ身体を引きずる

 絶望の戒めに 抗う心も
 地に押しつぶされ 苦いそいつをかみ締め

 泥にまみれ 恐怖の縄絡んでも
 ただ前へ


 まだ見ぬ地の待ち人 応えようその想いに
 内なる敵を 叩き潰せ

 霧に隠れた まだ見ぬゴールを目指して
 ただ前へ 未来さきはある


 決起大会が終わった後の打ち上げでウォーリーは満足げな様子だった。
 好きなだけ話し、歌ったのだから当然という説もあるのだが。

 ミヤハラやサクライは「やれやれ」といった顔を見せていたが、ウォーリーはそんなことはお構いなしのようだ。
 これらすべてがウォーリー・トワという人間を構成する要素なのだ。
 人によってはこのようなウォーリーの言動に辟易する者もいたのだが、ミヤハラやサクライは表向きそのような様子を見せなかった。

 また、このようなウォーリーの言動が好きで彼についていっている者も多数いる。
 「タブーなきエンジニア集団」に馳せ参じた者は何だかんだいっても皆、ウォーリーが好きなのだ。

 ウォーリーがミヤハラとサクライの間に割って入ってきた。
 その手にはビールのジョッキがあった。

「ミヤハラもサクライもお疲れ。とりあえずは上手くいった、というところだろう」
 酔っている、というほどではなかったが、ウォーリーの口調はやや興奮気味だった。
 ミヤハラやサクライは冷静に「お疲れ様でした」と答えている。
 彼らはウォーリーと比較すると感情が表に出ないようだ。
 もっとも、ウォーリーに感情過多な面があることは否めないのだが。

「ただ、今日の決起集会でひとつだけ不満なことがあるんだな、これが」
 ウォーリーの言葉にサクライが反応した。
「どこに不満が?」

 サクライからすれば、「あれだけワンマンショーをやって、どこに不満があるのだろうか?」といった気分である。
 ただし、サクライもウォーリーが半年ぶりに病院の外に出てきたという事情を知っているので、彼にはやや同情的ではある。
 ミヤハラは静かにチューハイを飲んでいる。この男にはビールよりもチューハイが似合う。それよりも日本酒の方が合いそうだという説もある。

「あー、それなんだが、ステージの下にいた君達にはわかるまい」
 ウォーリーの言葉に二人とも反応しなかったが、ウォーリーは構わず続ける。
「俺が必死になって選んでいたのに、ステージに上がりっぱなしのせいでほとんど料理を食えなかったんだよな、まったく……」
 ウォーリーの愚痴にミヤハラもサクライも冷ややかな目線で応じた。
 それにしても食い物の恨みは恐ろしいようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...