ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第二章

45:ウォーリー、病に勝利する

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 LHルナ・ヘヴンス暦四八年九月二六日……
 現在、惑星エクザローム上で存在が認知されている陸地はサブマリン島ただ一箇所である。
 面積は約三〇万平方キロメートル、その西半分に一二〇万の人々が居住している。
 そのサブマリン島の中西部にジンという小都市がある。

 ジンには「メディット」という巨大医療施設がある。
「メディット」では、史上もっとも有名といわれる患者が退院の時期を迎えていた……

「先生、もうそろそろいいんじゃないかい?」
 病室のベッドの上から一人の若者が医師に声をかけた。
 若者の名はウォーリー・トワ。
 半年前までエクザローム第二の企業、ECN社の幹部だった。
 彼は会社を辞めたその日に病で倒れ、今日まで療養生活を送っていた。
 療養生活の間に誕生日を迎え、二八歳になっていた。

「確かに検査結果も問題ありません。治療のプログラムも完全に完了しています。若干気にかかる点はあるのですが……退院を拒否する理由もありません」
 忌々し気にそう答えたのは担当医のヴィリー・アイネスだった。メディットの副院長という立場でもある。
 通常は副院長の彼が患者を受け持つことはないのだが、問題児でもあるウォーリーを代わりに担当できる医師が最後まで現れなかった。
 結局アイネスがウォーリーを担当し続けざるを得なかったのだ。

「じゃ、もうここを出られるってことか?」
 ウォーリーは人懐っこい笑顔を浮かべながらアイネスの方を見る。
「……そういうことになります。予定通り本日の午後、退院の手続きをとりましょう」
 アイネスはこの答えを後に大いに後悔することになる。

 しかし、このときは退院がどのような結果をもたらすか、アイネスにも判断がつかなかった。
 入院となった症状はほぼ完全に消え去っているし、その原因も取り除いたはずだった。

 彼が「取り除いた」と思っていた原因は、あくまでも別の要因によって発生した事象であって、真の原因ではなかったのだ。
 真の原因を除去できなかったことで、アイネスを責めることはできない。
 それは当時の最高水準の医療技術をもってしても突き止めることのできないものだったからだ。

 当然、そのようなことは知らずにウォーリーは思わず「よっしゃ!」とガッツポーズをとった。
 それでは早速、とばかりにウォーリーは病室内を片付け始めた。
 医学書やら電子新聞、そして彼を慕う者達からの報告など、ウォーリーの病室は散らかり放題散らかっている。
 アイネスから見れば「どこからこれだけの荷物を……」というくらいの荷物があっという間に段ボールに詰められる。

「トワさん、退院後も六ヶ月ごとに検査に来てください。経過観察が重要です」
 アイネスは心配そうにウォーリーに忠告したが、ウォーリーは、
「あー、大丈夫、大丈夫」
 と軽く答えただけだった。アイネスの心配の種は尽きないようだ。
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