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第一章
44:ハドリの視界の先にあるもの
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ここで、ハドリの視点から現在の状況を整理してみよう。
ハドリ率いるOP社が従業員数一八万人を誇っており、これがエクザローム最大の勢力である。
二番目の勢力はオイゲンが社長を務めるECN社。こちらは従業員数一一万人。
OP社とECN社は提携しているが、実態はOP社がECN社をその傘下に入れつつある状況である。
その他に従業員数一万人を超える企業はエクザロームにひとつしか存在しない。
ECN社のあるハモネスとサブマリン島中西部のチクハ・タウンとを結ぶ鉄道の運営会社である。
こちらへはOP社から幹部を送り込んでいること、鉄道を動かす電力を百パーセントOP社に依存していることから、ECN社同様傘下に入れているも同然である。
ECN社と比較して規模も小さいので、ECN社よりは御しやすいとハドリは考えている。最低限の注意を払う必要があることはハドリ自身も認識しているのだが。
一万人を超える組織はこれらの他に三つある。
最初にポータル・シティのはるか東、鉄道の終着駅でもあるチクハ・タウンに拠点を構える職業学校が挙げられる。
ハドリからすると彼らの教育は手ぬるいが、人材を少なからず送り込んでくることも承知している。
今のところハドリに敵対する意志は無いように思われるので、監視をする程度でよいと思われる。しかし、いずれはOP社に余裕が出来れば、教育にも手を入れなければならないだろう。
ふたつめはポータル・シティの隣、ジンに位置する巨大医療施設メディットである。
この施設に勤務する者の多くは自己の職務に忠実であり、ハドリに逆らう意志は無いように思われる。
敢えて言えばECN社の労務管理手法を取り入れているせいか、労働環境に関する権利意識が強いのがハドリからすれば問題ではある。
しかし、無理に敵に回して従業員らが医療を受けられなくなる事態は避けたい。
少なくともメディットは、この地の医療に多大なる貢献をしており、この地の医療従事者のほとんどすべてが何らかの形でこの施設と関係を持っている。エクザロームにおいては医療を支える唯一無二の組織だ。
この強力なインフラは有効活用すべきであり、敵対すべき相手ではない。
そして最後に孤児院や学校などを運営する「EMいのちの守護者の会」という慈善団体がある。
こちらはあくまで会員数が多いだけで、中枢はせいぜい数百名という組織である。
しかし、その会員数は脅威だ。ハドリに対して反抗的な意識を持たないよう注視する必要はあるだろう。
資金の流れに不明瞭な点もあるので、ハドリは密かに調査することを決めた。
他にも企業ではないが、フジミ・タウンには数千人の賊が巣食っていると言われている。現在、ハドリにとって最大の脅威となるであろう敵対勢力である。
一方、OP社の従業員の命を多数奪った「エクザローム防衛隊」であるが、こちらは調査の結果、残党は多くても百人に満たないであろう、とされていた。
他の勢力は主に各都市の有力者が有している警察組織であった。警察というより自警団と言った方が実態に近いかもしれない。
その規模は大きなものでも千名に達するかどうか、という水準であるが、OP社の勢力がそれほど強くないエリアもある。
これは必ずしもOP社がエクザローム、すなわちサブマリン島全域をその影響下においているわけではないからだ。
サブマリン島の東半分は未踏地である。当然OP社の影響は及ばない。
人の居住している西半分についても、OP社の影響がほとんど及ばない都市がいくつかある。
その最もたるものはフジミ・タウンであるが、ほかにも職業学校のあるチクハ・タウン、アイネスらが勤務する医療施設「メディット」のあるジンなどもOP社の影響が弱い。
今のところフジミ・タウン以外の都市がハドリに対して抵抗する動きを見せてはいないが、ハドリの動き次第によっては、これらの都市が抵抗する可能性は大いに考えられる。
これらをすべて制圧し、ハドリの指揮下に置いてこそ、エクザロームの未来がある。少なくともハドリはそう考えていた。
ハドリの活動は始動したばかりだ。
ハドリの目の前では二人の彼の部下が店の女性の接待を受けていた。
彼の部下二人は一定の節度を保ちながら高価な酒を楽しんでいるようだ。
節度を保っていたのは、ここではめを外してしまえば、後でハドリから厳しく処罰されることが明白であったからだ。ハドリは泥酔者を忌み嫌っているのである。
また、二人の部下が理解しているかはわからないが、隙を見せればハドリは徹底的にそれを突く性質だ。今のような慰労の場も、半分は隙を見つけ出すために設けている。
店の女性がハドリの部下の相手をする。
ハドリは部下や店の中を油断無く見張りながらグラスを傾けていた。
彼は柱の陰になる席に腰掛けていた。照明の関係もあって、その表情を確認することはできない。
あくまでも彼には油断が無かった。彼の姿をよく観察すれば、彼が左手でグラスを傾けているのがわかるだろう。
右手は常に空いているのである。そして、上着は身に着けたままで店に預けることはなかった。上着には彼愛用の銃が隠されているのだ。常に彼は銃を手に取れる位置に置いている。
世界は常に戦場である。そして、彼はいかなる戦闘にも勝利しなければならなかった。
彼に従わない者、それは彼の敵である。ハドリはこのような者たちに勝利し、屈服させるか打ち倒さなければならなかった。
強さを示し続けなければ、彼が示す正しい道に人々を導くことはできないのだ。
世界が戦場であることを忘れた者、それはすなわち戦いの敗者である。
そして敗れることは死を意味する。少なくともハドリには敗者の側に立ち、死を受け入れるという意思は無い。
勝利するためにはどのような布石も打つ、それがハドリという男である。
ハドリの目には、既に部下や店の中は映っていなかった。
彼の鋭い眼光の先にはこれから彼が勝利すべき、見えない敵の姿だけがあった。
他者からはハドリの表情を読み取ることはできない。
また、その視線の先にあるものも読み取れないだろう。
彼の眼は常に全体を、そして先を見据えていた。
現在、エクザロームにはハドリ以上の広い視野と旺盛な野心を持つ者はいないはずだ。
ハドリは自らの野心のため歩を進め始めた。
「エクザロームの未来は俺の下にあるのだ」
ハドリは、誰にも聞こえないほどの小さな声でそうつぶやいた後、グラスを空にした。
少しして隙の無い動作で席を立ち、店を出ようとする。
店の女性の歓待を受けていたオオカワ、ホンゴウの二人はハドリの動きに細心の注意を払っていたが、ハドリの動作に隙が無かったため、反応が一瞬遅れた。
二人は叱責を覚悟しながらも、立ち上がり、その場でハドリに向かって頭を下げた。
ハドリは構うな、という様子で振り向きもせずただ手を挙げてそれに応えたのみであった。
LH四八年八月、エクザロームの歴史は大きく動き出きだそうとしていた。
しかし、そのことに気づくだけの広い視野を持つ者はまだまだ少なかった。
ハドリ率いるOP社が従業員数一八万人を誇っており、これがエクザローム最大の勢力である。
二番目の勢力はオイゲンが社長を務めるECN社。こちらは従業員数一一万人。
OP社とECN社は提携しているが、実態はOP社がECN社をその傘下に入れつつある状況である。
その他に従業員数一万人を超える企業はエクザロームにひとつしか存在しない。
ECN社のあるハモネスとサブマリン島中西部のチクハ・タウンとを結ぶ鉄道の運営会社である。
こちらへはOP社から幹部を送り込んでいること、鉄道を動かす電力を百パーセントOP社に依存していることから、ECN社同様傘下に入れているも同然である。
ECN社と比較して規模も小さいので、ECN社よりは御しやすいとハドリは考えている。最低限の注意を払う必要があることはハドリ自身も認識しているのだが。
一万人を超える組織はこれらの他に三つある。
最初にポータル・シティのはるか東、鉄道の終着駅でもあるチクハ・タウンに拠点を構える職業学校が挙げられる。
ハドリからすると彼らの教育は手ぬるいが、人材を少なからず送り込んでくることも承知している。
今のところハドリに敵対する意志は無いように思われるので、監視をする程度でよいと思われる。しかし、いずれはOP社に余裕が出来れば、教育にも手を入れなければならないだろう。
ふたつめはポータル・シティの隣、ジンに位置する巨大医療施設メディットである。
この施設に勤務する者の多くは自己の職務に忠実であり、ハドリに逆らう意志は無いように思われる。
敢えて言えばECN社の労務管理手法を取り入れているせいか、労働環境に関する権利意識が強いのがハドリからすれば問題ではある。
しかし、無理に敵に回して従業員らが医療を受けられなくなる事態は避けたい。
少なくともメディットは、この地の医療に多大なる貢献をしており、この地の医療従事者のほとんどすべてが何らかの形でこの施設と関係を持っている。エクザロームにおいては医療を支える唯一無二の組織だ。
この強力なインフラは有効活用すべきであり、敵対すべき相手ではない。
そして最後に孤児院や学校などを運営する「EMいのちの守護者の会」という慈善団体がある。
こちらはあくまで会員数が多いだけで、中枢はせいぜい数百名という組織である。
しかし、その会員数は脅威だ。ハドリに対して反抗的な意識を持たないよう注視する必要はあるだろう。
資金の流れに不明瞭な点もあるので、ハドリは密かに調査することを決めた。
他にも企業ではないが、フジミ・タウンには数千人の賊が巣食っていると言われている。現在、ハドリにとって最大の脅威となるであろう敵対勢力である。
一方、OP社の従業員の命を多数奪った「エクザローム防衛隊」であるが、こちらは調査の結果、残党は多くても百人に満たないであろう、とされていた。
他の勢力は主に各都市の有力者が有している警察組織であった。警察というより自警団と言った方が実態に近いかもしれない。
その規模は大きなものでも千名に達するかどうか、という水準であるが、OP社の勢力がそれほど強くないエリアもある。
これは必ずしもOP社がエクザローム、すなわちサブマリン島全域をその影響下においているわけではないからだ。
サブマリン島の東半分は未踏地である。当然OP社の影響は及ばない。
人の居住している西半分についても、OP社の影響がほとんど及ばない都市がいくつかある。
その最もたるものはフジミ・タウンであるが、ほかにも職業学校のあるチクハ・タウン、アイネスらが勤務する医療施設「メディット」のあるジンなどもOP社の影響が弱い。
今のところフジミ・タウン以外の都市がハドリに対して抵抗する動きを見せてはいないが、ハドリの動き次第によっては、これらの都市が抵抗する可能性は大いに考えられる。
これらをすべて制圧し、ハドリの指揮下に置いてこそ、エクザロームの未来がある。少なくともハドリはそう考えていた。
ハドリの活動は始動したばかりだ。
ハドリの目の前では二人の彼の部下が店の女性の接待を受けていた。
彼の部下二人は一定の節度を保ちながら高価な酒を楽しんでいるようだ。
節度を保っていたのは、ここではめを外してしまえば、後でハドリから厳しく処罰されることが明白であったからだ。ハドリは泥酔者を忌み嫌っているのである。
また、二人の部下が理解しているかはわからないが、隙を見せればハドリは徹底的にそれを突く性質だ。今のような慰労の場も、半分は隙を見つけ出すために設けている。
店の女性がハドリの部下の相手をする。
ハドリは部下や店の中を油断無く見張りながらグラスを傾けていた。
彼は柱の陰になる席に腰掛けていた。照明の関係もあって、その表情を確認することはできない。
あくまでも彼には油断が無かった。彼の姿をよく観察すれば、彼が左手でグラスを傾けているのがわかるだろう。
右手は常に空いているのである。そして、上着は身に着けたままで店に預けることはなかった。上着には彼愛用の銃が隠されているのだ。常に彼は銃を手に取れる位置に置いている。
世界は常に戦場である。そして、彼はいかなる戦闘にも勝利しなければならなかった。
彼に従わない者、それは彼の敵である。ハドリはこのような者たちに勝利し、屈服させるか打ち倒さなければならなかった。
強さを示し続けなければ、彼が示す正しい道に人々を導くことはできないのだ。
世界が戦場であることを忘れた者、それはすなわち戦いの敗者である。
そして敗れることは死を意味する。少なくともハドリには敗者の側に立ち、死を受け入れるという意思は無い。
勝利するためにはどのような布石も打つ、それがハドリという男である。
ハドリの目には、既に部下や店の中は映っていなかった。
彼の鋭い眼光の先にはこれから彼が勝利すべき、見えない敵の姿だけがあった。
他者からはハドリの表情を読み取ることはできない。
また、その視線の先にあるものも読み取れないだろう。
彼の眼は常に全体を、そして先を見据えていた。
現在、エクザロームにはハドリ以上の広い視野と旺盛な野心を持つ者はいないはずだ。
ハドリは自らの野心のため歩を進め始めた。
「エクザロームの未来は俺の下にあるのだ」
ハドリは、誰にも聞こえないほどの小さな声でそうつぶやいた後、グラスを空にした。
少しして隙の無い動作で席を立ち、店を出ようとする。
店の女性の歓待を受けていたオオカワ、ホンゴウの二人はハドリの動きに細心の注意を払っていたが、ハドリの動作に隙が無かったため、反応が一瞬遅れた。
二人は叱責を覚悟しながらも、立ち上がり、その場でハドリに向かって頭を下げた。
ハドリは構うな、という様子で振り向きもせずただ手を挙げてそれに応えたのみであった。
LH四八年八月、エクザロームの歴史は大きく動き出きだそうとしていた。
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