ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第一章

37:戦果報告

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「ロビーの奴、遅いな。何やっているんだろう?」
 モリタがそわそわしながら、職員棟の方を見た。
 ロビーは「ちょっと見てくる」と言って職員棟の方に走っていったが、まだ戻ってこない。
 彼が走っていってから二〇分ほど経過していたから、ちょっとというレベルではないのは確かだ。

「そうだね……あれ?例の集団が動き出した」
 記録ディスクを手にしたセスが答える。
 セスは手持ち無沙汰のとき、必ずといっていいほど兄に関する情報が記録されているこのディスクを手にしている。

 確かにセスの言うとおり、職員棟の前にいた集団が動き出した。
 この集団はECN社の元経営企画室のメンバーだったのだが、セスやモリタが知る由はない。
 実はトニーが理事長との話をつけた後、集団に合流して状況を説明していたのだが、セスやモリタの場所からは話し声は聞き取れなかった。
 トニーの説明が終わって集団が動き出したのだのだが、セスやモリタからは何かを待っていた集団が動き出したようにしか見えなかった。

 集団がゾロゾロと移動していく。その後方から一人の人影がセス達に向けて走ってきた。
「あ、ロビーだ」
 モリタがその姿に気づき、セスも人影の方を向いた。

 ロビーは全速力に近いペースで走ってきた。二人のもとに到着するや否や、両手でセスとモリタの肩を叩いた。
「やったぞ! 来月以降の俺たちの仕事を決めてきた。いや~、人間、いざとなれば何でもできるわけだ」
 セスが目を見開いて、ロビーの方を向く。
「決まったんだ! さすがロビーだね。ところで、何の仕事なの?」
 セスはこちらの意思も聞かずに勝手に決めてきて、などとロビーをなじるような性質ではなかった。だから、素直に仕事の内容だけを尋ねることができた。

「来月、七月から学校に新しい学科ができる。そこの正規職員だ。期間を気にせず安心して仕事できるぞ」
 ロビーが胸を張ってそう答えた。

「その話、本当だろうね? ロビーお得意の空手形じゃないの?」
 モリタはセスと比較するとやや懐疑的だ。
 ただし、「お得意の空手形」はロビーに対して厳しすぎる評価かもしれない。
 少なくとも現在の職を得たのは、ロビーの手柄なのだから。

「今回は理事長の承認だ。心配いらん」
「本当?」
「嫌ならお前の分は断ってもいいんだぞ、モリタ。俺の好意がそんなに嫌か?」
「そういう訳じゃないけど……」
 ロビーとモリタが言い争いになりかけたので、セスが間に割って入った。
「まあまあ、二人とも。ロビーが決めてくれたのだから乗ってみようよ、モリタ。僕らじゃ仕事を見つけていられないのだし」
「……わかったよ。ロビーの説明を聞くよ」
 渋々ながらモリタも説明を聞くことに同意した。

 三人は再び地面に腰を下ろして話を始めた。
 しばらく話をして、モリタもロビーの説明にある程度は納得したようだった。
「わかったよ。とりあえず明日にでも学校に確認してみるよ」
 モリタが疑いを持ったのでロビーは多少不機嫌な顔をしたが、すぐに表情を改めた。

「まあ、いいだろう。とにかく仕事が決まったのはめでたい。もうちょっとしたら三人で飯でもいくか?」
 ロビーの提案にセスとモリタの表情が曇る。
 モリタが先に口を開いた。
「前みたいに事件に巻き込まれるのはゴメンだよ」
 ロビーがしまったという表情を見せた。そして、少し早口になって言う。
「あ、今回は学校の近所にしよう。そんなところで事件を起こす奴もいないだろうよ」
「そうだね、学校の近所なら問題ないと思うよ」
 セスがロビーの意見に同意した。
 モリタも何かを言いかけたが、セスの言葉に口ごもってしまったようだ。

 陽はやや傾きかけていたが、まだ夕食の時間には早い。三人は木陰でしばらく休んでから移動することにした。

 セスは車椅子の横で眠り込んでしまったようだ。
 ロビーは芝の部分に胡坐をかいて、ペットボトルのお茶を飲んでいる。彼は甘いジュースよりもお茶を好むのだ。
 モリタは携帯端末を開いて画面と格闘していた。

「うん?」
 一時間ほどして、モリタが急に身体を起こした。
「雨……かな。音が聞こえるな。まだ遠いと思うけど」
「そうか? 俺にはわからないが」
 モリタには雨の音がかすかに聞こえているようだが、ロビーには音どころか、雨の気配すら感じとれなかった。

「向こうの空が暗くなってきている。一雨来るよ」
 モリタが遠くの空を指さした。
 ロビーがセスを起こす。
「方針変更だ。喫茶店へ移動するぞ、セス」
 その声にセスが飛び起きて、慌てて車椅子に腰かけた。

 その後、モリタは走って、ロビーはセスの車椅子を押して、それぞれ急いで近くの喫茶店へと向かった。
 雨は三人が喫茶店に入った直後になって降りだしてきた。
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