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第一章
36:ロビーの交渉
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コン、コン!
トニーが出た数分後、職業学校理事長室のドアが勢いよくノックされた。
ノックの音が弾んでいるようで、理事長には何故かそれが腹立たしく感じられた。
「誰だ?」
「入りますよ」
バタン!
理事長の許可も得ずにノックの主はドアを開けて理事長室へ入ってきた。
長身でがっしりした体格の男だ。
「臨時職員のロビー・タカミです。理事長、お話がありますっ!」
ノックの主は先ほどまで理事長室の会話を聞いていた、というより盗み聞きしていたロビーであった。
ロビーは人懐っこい笑顔を作りながら理事長に向き直った。
「理事長、学科を新設すると聞きましたが……職員の募集をする必要があるのでは?」
理事長は呆気に取られながらもかろうじて姿勢を正して答える。
「まあ、そういうことだ」
その答えにロビーはニヤリとして、
「ならば優秀な候補が三人ばかりいるのですけどね」
「……それは誰だ?」
理事長が訝し気に尋ねた。
顔もろくに知らない臨時職員がアポも取らずにやって来て「新たな職員の候補がいる」と言われても信用できない。
そもそも学科の新設については正式発表前であり、ごく一部の教官や職員にのみ計画があることが知らされているだけだ。
先ほど元ECN社の関係者とは合意したが、この後学校内で関係者を集めて合意を得てから正式決定となる予定である。
それでも理事長がロビーの話を聞こうとする姿勢を見せたのは、学科新設に伴う職員の増員が必要だと考えたからだ。
新学科の教官となる予定の人物は元ECN社経営企画室のメンバー、それもトップクラスであるため、これを志望する学生が多くなることが予想された。
その対応のためには、現在抱えている職員だけでは不十分ではないかと懸念していた。
「彼らはECN社の内定を取り消された後、当校の臨時職員として勤務しているのですが、残念なことに今月末で契約期限が切れるのですよね」
ロビーが大げさに残念そうな様子をしてみせた。もちろん半分くらいは演技だ。
「図々しい奴だな……」
「そういうことです。私、そしてセス・クルス、タカシ・モリタの三名です。当校の卒業生ですからね。そして、現役の臨時職員でもある。職員にはうってつけですが」
理事長の嫌味もロビーには通用しないようだ。彼には理事長の嫌味が全く聞こえていないようで、自分たちを堂々と売り込んだ。
「……まあいいだろう。確かに職員は補充せねばなるまい。来月から新設学部の正規職員として勤務しなさい。これでいいだろう」
理事長は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
しかし、これは理事長にとっても必ずしも悪い話ではない。
職員増員は理事長も考えていたことだからだ。
それに新設学科はECN社の元経営企画室のメンバーが中心で、学校の業務に精通した者が皆無に近い。
別の学科から職員を異動させるのもそれなりの手間がかかるので、職員の異動は最小限にとどめたい。学科をまたいだ職員の異動となると職員を引き抜かれる学科の教官から反対の声もあがるだろうから、できれば避けたいところだ。
一方でロビーやセスは臨時職員と言っていた。
念のため携帯端末でロビーが挙げた名前を調べたところ、今月末で契約の切れる臨時職員だということは事実であった。
今月末でいなくなる人材なら教官などから文句が出ることもないだろう。理事長はそう考えたのだった。この程度の意思決定なら、教官や他の職員などの許可も必要とせず、理事長一人の裁量で可能だ。
「了解しましたっ! 謹んで拝命しますっ!」
ロビーは大げさに敬礼しながら、理事長室を出て行った。
そして外へと勢いよく走り出したのである。
その背中を見送りながら理事長は「調子のよい奴め」と思わず舌打ちしたのだった。
トニーが出た数分後、職業学校理事長室のドアが勢いよくノックされた。
ノックの音が弾んでいるようで、理事長には何故かそれが腹立たしく感じられた。
「誰だ?」
「入りますよ」
バタン!
理事長の許可も得ずにノックの主はドアを開けて理事長室へ入ってきた。
長身でがっしりした体格の男だ。
「臨時職員のロビー・タカミです。理事長、お話がありますっ!」
ノックの主は先ほどまで理事長室の会話を聞いていた、というより盗み聞きしていたロビーであった。
ロビーは人懐っこい笑顔を作りながら理事長に向き直った。
「理事長、学科を新設すると聞きましたが……職員の募集をする必要があるのでは?」
理事長は呆気に取られながらもかろうじて姿勢を正して答える。
「まあ、そういうことだ」
その答えにロビーはニヤリとして、
「ならば優秀な候補が三人ばかりいるのですけどね」
「……それは誰だ?」
理事長が訝し気に尋ねた。
顔もろくに知らない臨時職員がアポも取らずにやって来て「新たな職員の候補がいる」と言われても信用できない。
そもそも学科の新設については正式発表前であり、ごく一部の教官や職員にのみ計画があることが知らされているだけだ。
先ほど元ECN社の関係者とは合意したが、この後学校内で関係者を集めて合意を得てから正式決定となる予定である。
それでも理事長がロビーの話を聞こうとする姿勢を見せたのは、学科新設に伴う職員の増員が必要だと考えたからだ。
新学科の教官となる予定の人物は元ECN社経営企画室のメンバー、それもトップクラスであるため、これを志望する学生が多くなることが予想された。
その対応のためには、現在抱えている職員だけでは不十分ではないかと懸念していた。
「彼らはECN社の内定を取り消された後、当校の臨時職員として勤務しているのですが、残念なことに今月末で契約期限が切れるのですよね」
ロビーが大げさに残念そうな様子をしてみせた。もちろん半分くらいは演技だ。
「図々しい奴だな……」
「そういうことです。私、そしてセス・クルス、タカシ・モリタの三名です。当校の卒業生ですからね。そして、現役の臨時職員でもある。職員にはうってつけですが」
理事長の嫌味もロビーには通用しないようだ。彼には理事長の嫌味が全く聞こえていないようで、自分たちを堂々と売り込んだ。
「……まあいいだろう。確かに職員は補充せねばなるまい。来月から新設学部の正規職員として勤務しなさい。これでいいだろう」
理事長は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
しかし、これは理事長にとっても必ずしも悪い話ではない。
職員増員は理事長も考えていたことだからだ。
それに新設学科はECN社の元経営企画室のメンバーが中心で、学校の業務に精通した者が皆無に近い。
別の学科から職員を異動させるのもそれなりの手間がかかるので、職員の異動は最小限にとどめたい。学科をまたいだ職員の異動となると職員を引き抜かれる学科の教官から反対の声もあがるだろうから、できれば避けたいところだ。
一方でロビーやセスは臨時職員と言っていた。
念のため携帯端末でロビーが挙げた名前を調べたところ、今月末で契約の切れる臨時職員だということは事実であった。
今月末でいなくなる人材なら教官などから文句が出ることもないだろう。理事長はそう考えたのだった。この程度の意思決定なら、教官や他の職員などの許可も必要とせず、理事長一人の裁量で可能だ。
「了解しましたっ! 謹んで拝命しますっ!」
ロビーは大げさに敬礼しながら、理事長室を出て行った。
そして外へと勢いよく走り出したのである。
その背中を見送りながら理事長は「調子のよい奴め」と思わず舌打ちしたのだった。
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