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第一章
29:監査
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OP社の監査委員がECN社本社に到着した時刻、ハドリは自社の社長室にいた。
社長室はOP社本社ビルの最上階にあり、ポータル市街を見下ろせるようになっている。ポータルを含めたエクザローム内にOP社本社より高い建造物は無い。
(このままではエクザロームが腐る)
ハドリは常に大局を見ていた。
彼から見れば、エクザロームは力のある指導者を持っていないように思われた。指導者が弱い集団は腐る、というのが彼の持論である。
いまや彼が率いるOP社はエクザローム最大の企業で、かつ組織である。
彼は裸一貫からOP社を今の地位にまで押し上げた。すなわち、彼自身こそが現時点でのエクザローム最強の指導者であったのだ。
(俺がこの世界の人間を率いて改革するのだ。腐った世界を変えるのだ)
彼がECN社に監査と称した偵察を送ったのも、この目的を達成するためだった。
ハドリの見るところ、ECN社はトップに難はあるもののかなりの力を有している組織である。
敵対すればそれなりに厄介であるが、ECN社がハドリの指揮下に入れば、彼は更に力を得ることになる。
ECN社のトップが有能であるか、ハドリに対して敵対的であるなら問題も多いが、ハドリの見る限り、オイゲンはつかみ所が無いが凡庸であり、胆力も無さそうなので手下にできそうな人物だった。
ECN社を指揮下に入れるのと同時にハドリに対して攻撃の矛先を向けた「エクザローム防衛隊」の逃亡した首謀者らを拘束し、断罪することも忘れてはならない。
ハドリを裏切った人間、それはすなわちエクザロームの改革に敵対する者、であった。そうした者には力を見せつけ、服従を迫らなければならない。服従しない者に対しては、厳罰、もしくはその存在を消し去ることで処分するのがハドリのやり方だ。
優れた指導者に従わない者は不要なだけではなく、その存在自体が有害でしかない。
有害なものは除去しなければならない。存在を許すことが世界の緩みにつながるからだ。
ハドリを裏切った人間は「エクザローム防衛隊」なる組織の他にもいた。
「エクザローム防衛隊」による事件以降、事件を知ったOP社の社員の中から出社拒否をする者、OP社を去る者が出ていた。彼らもいずれ断罪する必要がある。
しかし、今、彼がもっとも優先すべきと考えていることは、ECN社が有している力を手に入れることなのだ。
彼はECN社に送った監査員の報告を待っている。彼の手足の報告から彼が打てる手はいくらでもあるはずだ。
一方、事件を知り、出社拒否者や社を去る者が出たのはECN社も同様だった。
OP社と異なることといえば、社長に抗議を試みようとした者が多数いたことである。OP社でハドリと正面きって戦える者は誰もいない。そのような者がいたら、ハドリは全力で叩き潰したであろう。
オイゲンはOP社の監査チームの対応に追われていたため、直接抗議を受けずに済んでいた。オイゲンにも状況を知って、監査を理由に逃げた面があることは否めない。
「監査が終わり次第、私が説明に参ります」
オイゲンは抗議者への対応に困った役員からよこされた社員の報告を受けて、小声で答えた。
こういうとき、本来なら社長秘書のメイが対応すべきなのであるが、オイゲンはメイにそのような役割を期待していなかった。
実際のところ、彼女はオイゲンが監査チームの対応に向かった直後、社の建物を飛び出してしまっていたので、役割を果たそうにも果たせない状況にあったのだが。
オイゲンが答えた直後、監査員の一人が答えを聞いて振り向いた。
「社長も元気のいい部下の対応に苦労されているようですね」
そう言った監査員の表情には同情の色さえ見てとれる。
「これも仕事のうちですから。あなたもこういった監査の仕事では苦労されることも多いのではないですか?」
オイゲンは苦笑しながらそう答えた。本質的に人が好いためか、監査員に対しては同情的である。
ちなみにこれらの会話は、すべて録音されている。そして、監査員が録音媒体を持ち帰って、ハドリに渡すのだ。
もちろん、オイゲンの言動につけ入る隙があれば、それを材料にECN社を責めたてるつもりだ。
オイゲンは録音されていることに気づいてはいなかったが、気づいていたところで対応を変えることは無かっただろう。
元来、彼は演技ができる訳ではないし、彼自身そのことを良く知っていた。
だから、「なるようになるしかないさ」と素のままで対応したのだ。
監査はオイゲンの予想に反し、終始和やかな雰囲気で進んでいく。
「社長、こちらの記録を拝見したいのですが」
「どうぞ」
オイゲンは監査員に気前良く記録を見せる。
(隠したところでハドリ氏は納得しないだろうし、どんな手段を使ってでも必要な記録は手に入れるだろうよ。ハドリ氏は逆らう者を許せないだろう。だったら、素直に応じた方が得策だ)
そう考えて、オイゲンは敢えて監査員の求めにすべて応じることにしたのである。
結局、監査は一日がかりとなった。
夕方、監査員が帰った後、オイゲンは地下にあるホールへと向かった。役員からの伝言で、社の方針に抗議するグループへの対応がまだ続いていることを知ったからだ。
社長室はOP社本社ビルの最上階にあり、ポータル市街を見下ろせるようになっている。ポータルを含めたエクザローム内にOP社本社より高い建造物は無い。
(このままではエクザロームが腐る)
ハドリは常に大局を見ていた。
彼から見れば、エクザロームは力のある指導者を持っていないように思われた。指導者が弱い集団は腐る、というのが彼の持論である。
いまや彼が率いるOP社はエクザローム最大の企業で、かつ組織である。
彼は裸一貫からOP社を今の地位にまで押し上げた。すなわち、彼自身こそが現時点でのエクザローム最強の指導者であったのだ。
(俺がこの世界の人間を率いて改革するのだ。腐った世界を変えるのだ)
彼がECN社に監査と称した偵察を送ったのも、この目的を達成するためだった。
ハドリの見るところ、ECN社はトップに難はあるもののかなりの力を有している組織である。
敵対すればそれなりに厄介であるが、ECN社がハドリの指揮下に入れば、彼は更に力を得ることになる。
ECN社のトップが有能であるか、ハドリに対して敵対的であるなら問題も多いが、ハドリの見る限り、オイゲンはつかみ所が無いが凡庸であり、胆力も無さそうなので手下にできそうな人物だった。
ECN社を指揮下に入れるのと同時にハドリに対して攻撃の矛先を向けた「エクザローム防衛隊」の逃亡した首謀者らを拘束し、断罪することも忘れてはならない。
ハドリを裏切った人間、それはすなわちエクザロームの改革に敵対する者、であった。そうした者には力を見せつけ、服従を迫らなければならない。服従しない者に対しては、厳罰、もしくはその存在を消し去ることで処分するのがハドリのやり方だ。
優れた指導者に従わない者は不要なだけではなく、その存在自体が有害でしかない。
有害なものは除去しなければならない。存在を許すことが世界の緩みにつながるからだ。
ハドリを裏切った人間は「エクザローム防衛隊」なる組織の他にもいた。
「エクザローム防衛隊」による事件以降、事件を知ったOP社の社員の中から出社拒否をする者、OP社を去る者が出ていた。彼らもいずれ断罪する必要がある。
しかし、今、彼がもっとも優先すべきと考えていることは、ECN社が有している力を手に入れることなのだ。
彼はECN社に送った監査員の報告を待っている。彼の手足の報告から彼が打てる手はいくらでもあるはずだ。
一方、事件を知り、出社拒否者や社を去る者が出たのはECN社も同様だった。
OP社と異なることといえば、社長に抗議を試みようとした者が多数いたことである。OP社でハドリと正面きって戦える者は誰もいない。そのような者がいたら、ハドリは全力で叩き潰したであろう。
オイゲンはOP社の監査チームの対応に追われていたため、直接抗議を受けずに済んでいた。オイゲンにも状況を知って、監査を理由に逃げた面があることは否めない。
「監査が終わり次第、私が説明に参ります」
オイゲンは抗議者への対応に困った役員からよこされた社員の報告を受けて、小声で答えた。
こういうとき、本来なら社長秘書のメイが対応すべきなのであるが、オイゲンはメイにそのような役割を期待していなかった。
実際のところ、彼女はオイゲンが監査チームの対応に向かった直後、社の建物を飛び出してしまっていたので、役割を果たそうにも果たせない状況にあったのだが。
オイゲンが答えた直後、監査員の一人が答えを聞いて振り向いた。
「社長も元気のいい部下の対応に苦労されているようですね」
そう言った監査員の表情には同情の色さえ見てとれる。
「これも仕事のうちですから。あなたもこういった監査の仕事では苦労されることも多いのではないですか?」
オイゲンは苦笑しながらそう答えた。本質的に人が好いためか、監査員に対しては同情的である。
ちなみにこれらの会話は、すべて録音されている。そして、監査員が録音媒体を持ち帰って、ハドリに渡すのだ。
もちろん、オイゲンの言動につけ入る隙があれば、それを材料にECN社を責めたてるつもりだ。
オイゲンは録音されていることに気づいてはいなかったが、気づいていたところで対応を変えることは無かっただろう。
元来、彼は演技ができる訳ではないし、彼自身そのことを良く知っていた。
だから、「なるようになるしかないさ」と素のままで対応したのだ。
監査はオイゲンの予想に反し、終始和やかな雰囲気で進んでいく。
「社長、こちらの記録を拝見したいのですが」
「どうぞ」
オイゲンは監査員に気前良く記録を見せる。
(隠したところでハドリ氏は納得しないだろうし、どんな手段を使ってでも必要な記録は手に入れるだろうよ。ハドリ氏は逆らう者を許せないだろう。だったら、素直に応じた方が得策だ)
そう考えて、オイゲンは敢えて監査員の求めにすべて応じることにしたのである。
結局、監査は一日がかりとなった。
夕方、監査員が帰った後、オイゲンは地下にあるホールへと向かった。役員からの伝言で、社の方針に抗議するグループへの対応がまだ続いていることを知ったからだ。
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