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第一章
18:敗北の意味
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ハドリのいる場所から数十メートル先━━「エクザローム防衛隊」が立てこもっているビル━━は戦場になっていた。
OP社のセキュリティ・センターは発電施設や従業員などを守るために結成された警備チームである。
エクザロームには軍需産業は存在せず、主に狩猟用や土木工事用に銃や爆発物が製造されているため、銃などの武器を持った者は少ない。
しかし、OP社セキュリティ・センターは約四千名のメンバーの半分以上が銃で武装している。
セキュリティ・センターの人員はOP社の事業所のある場所に点在しているため、今回の戦闘に参加しているのは四千のうち六割程度だ。
一方、敵である「エクザローム防衛隊」はというと、人数はセキュリティ・センターよりやや多いと思われるものの、銃で武装している者は少ない。
火力では圧倒的にOP社側が有利なはずだが、戦闘は必ずしもOP社優位で進んではいなかった。むしろ一方的に押されているという状況だ。
OP社セキュリティ・センターの警備員は今まで多くの戦闘を経験しているが、今回のような数千名が入り乱れて行う大規模な戦闘の経験が無い。
そもそもOP社設立以降、ここエクザロームで過去に大規模な戦闘が発生するような組織的な暴動などが発生したことがない。
そして、セキュリティ・センターは施設や従業員を守るという性格を持っている。
このため、彼らが行うのは数名の敵を相手に多数で圧倒するという戦闘がほとんどである。
一方で「エクザローム防衛隊」はよく訓練されているようだ。
建物の上層部を占拠しているという優位性を活用し、階段やエレベータなどを使って、効果的にOP社の警備員を分断し、殲滅している。
また、OP社の警備員はこのような戦闘に不慣れなこともあり、パニックに陥って逃げ出したり、その場に立ち尽くしている者もいる。
(何をしている!)
ハドリは戦闘の様子を物陰から覗き込んでいた。彼の腸は煮えくり返っていたが、こういうとき冷静になれるのが彼の強さだ。
彼の近くを二人が通りかかる。「エクザローム防衛隊」の兵士と、兵士に追われるOP社警備員だった。追われているのはセキュリティ・センターの者ではなく、本社ビルの守衛のようだ。
ハドリは冷静に引き金を二度引いた。
パンパンと乾いた音がした。
直後、身体を打ち抜かれた二人が絶命し、その身体が地面に横たわった。ハドリは用心深くあたりを見回してから、倒れた「エクザローム防衛隊」の兵士に近づいた。
そして、その上着を奪い取ると悠然とその場を立ち去った。
ハドリはOP社の本社ビルに戻ると、近くにいた社員に命じて、セキュリティ・センターのセンター長を呼びつけるように命じた。
しばらくして、青ざめた顔のオオカワがハドリの前に姿を現した。
「しゃ、社長……申し訳ございません」
オオカワが汗を飛ばしながらハドリに頭を下げた。忙しく動き回っていたのだろう。
「何をやってるんだ! あの程度の敵に押されるとは!」
「現在はやや劣勢ですが……」
オオカワがタオルで額の汗を拭いた。
「俺が何も見ていないと思ったのか! 一方的に押されているのを俺が知らないとでも思ったか? それとも……お前は戦況が理解できないほど無能者だったか?」
「あ、いや、その……」
ハドリの迫力にオオカワが半歩後ずさる。
「有無を言わさず、ビルごと吹き飛ばせ。それで勝つだけだ」
ハドリが音もなくオオカワに詰めよった。
「し、しかし……ビルには今年の新人が……」
新入社員ともども敵を皆殺しにせよ、というハドリの命令にオオカワがたじろいだ。
エクザロームには警察や軍のような機関はなかったから、たとえここでOP社が社員を犠牲にしたからといってこれを罰することは困難だ。
あえて言えば、市民が立ち上がってこれを咎めることであるが、このような運動はあまり例がない。
それでも何千といった生命、それも自社の新入社員という身内のような者を巻き込んでよいといった考えはオオカワにはない。
「取り残されたのは、奴らが油断していたからだ。常に言っているはずだ。ここに勤務する以上、二四時間すべてが戦闘だ。それを忘れた者が敗北するのは当然のことだということを忘れたか? 敗北とはすなわち、死、だぞ」
オオカワは新入社員が殺されてよいような罪を犯したとは思っていない。
だが、ハドリにとって事件に巻き込まれた上に、それを引き起こした側を罰することができないこと自体が万死に値する罪なのだ。
特に敗北は彼にとって最も重大な罪である。
「そ、それは……」
「二度は言わん。すぐに行け」
「はっ!」
オオカワは早足で戦場へと戻った。ハドリには逆らえない。
社長命令だから、と己に言い訳しながら。
そして、部下に命じて建物の周辺に土木工事用の爆発物を仕掛ける。
その間も戦闘は続いており、数十名の警備員が命を落としたが、爆発物のセットはお構いなしに続けられる。
こうした犠牲も負けること、すなわち「エクザローム防衛隊」なる反逆者どもを処罰できないことに対する罪を処罰するために必要なことである、というのがハドリの考えだ。
今のオオカワは自らの意思を持たず、忠実にハドリの意思を実現するための装置でしかない。
「爆発物の設置、完了しました。しかし、センター長、本当にやるのですか?」
警備員の一人がそう言ったが、オオカワは青ざめた顔で
「社長の命令だ。やるしかない」
とビルの爆破を命じたのだった。
「しかし、中には我が社の新人と、セキュリティ・センターの者が……」
「い、いいからやるんだ。やらなかったらお前が責任を取るのか?」
オオカワの震える声に、仕方ない、といった表情で警備員が爆破スイッチを押す。
数秒後、ビルは轟音とともに崩れ去った。
この戦闘により、「エクザローム防衛隊」を名乗る集団は、千五百名を超える死者を出した。
数百名が負傷しながらも奇跡的に助かったが、そのほとんどはOP社セキュリティ・センターの警備員に身柄を拘束された。
例外的に幸運な十数名だけが逃走に成功しただけだった。
一方、OP社の被害も甚大であった。
新入社員を含めた三千名以上が死亡し、セキュリティ・センターも千名を超える犠牲者を出したのだ。
逃亡したセキュリティ・センターの警備員はすべて放逐された。その結果、セキュリティ・センターの警備員の半数がこの戦闘で失われた。
また、ポータル・シティ沖に設置されていた海流発電設備一六基のうち五基が「エクザローム防衛隊」の手によって破壊されており、OP社は電気の供給事業に大きな支障を出すこととなったのである。
OP社のセキュリティ・センターは発電施設や従業員などを守るために結成された警備チームである。
エクザロームには軍需産業は存在せず、主に狩猟用や土木工事用に銃や爆発物が製造されているため、銃などの武器を持った者は少ない。
しかし、OP社セキュリティ・センターは約四千名のメンバーの半分以上が銃で武装している。
セキュリティ・センターの人員はOP社の事業所のある場所に点在しているため、今回の戦闘に参加しているのは四千のうち六割程度だ。
一方、敵である「エクザローム防衛隊」はというと、人数はセキュリティ・センターよりやや多いと思われるものの、銃で武装している者は少ない。
火力では圧倒的にOP社側が有利なはずだが、戦闘は必ずしもOP社優位で進んではいなかった。むしろ一方的に押されているという状況だ。
OP社セキュリティ・センターの警備員は今まで多くの戦闘を経験しているが、今回のような数千名が入り乱れて行う大規模な戦闘の経験が無い。
そもそもOP社設立以降、ここエクザロームで過去に大規模な戦闘が発生するような組織的な暴動などが発生したことがない。
そして、セキュリティ・センターは施設や従業員を守るという性格を持っている。
このため、彼らが行うのは数名の敵を相手に多数で圧倒するという戦闘がほとんどである。
一方で「エクザローム防衛隊」はよく訓練されているようだ。
建物の上層部を占拠しているという優位性を活用し、階段やエレベータなどを使って、効果的にOP社の警備員を分断し、殲滅している。
また、OP社の警備員はこのような戦闘に不慣れなこともあり、パニックに陥って逃げ出したり、その場に立ち尽くしている者もいる。
(何をしている!)
ハドリは戦闘の様子を物陰から覗き込んでいた。彼の腸は煮えくり返っていたが、こういうとき冷静になれるのが彼の強さだ。
彼の近くを二人が通りかかる。「エクザローム防衛隊」の兵士と、兵士に追われるOP社警備員だった。追われているのはセキュリティ・センターの者ではなく、本社ビルの守衛のようだ。
ハドリは冷静に引き金を二度引いた。
パンパンと乾いた音がした。
直後、身体を打ち抜かれた二人が絶命し、その身体が地面に横たわった。ハドリは用心深くあたりを見回してから、倒れた「エクザローム防衛隊」の兵士に近づいた。
そして、その上着を奪い取ると悠然とその場を立ち去った。
ハドリはOP社の本社ビルに戻ると、近くにいた社員に命じて、セキュリティ・センターのセンター長を呼びつけるように命じた。
しばらくして、青ざめた顔のオオカワがハドリの前に姿を現した。
「しゃ、社長……申し訳ございません」
オオカワが汗を飛ばしながらハドリに頭を下げた。忙しく動き回っていたのだろう。
「何をやってるんだ! あの程度の敵に押されるとは!」
「現在はやや劣勢ですが……」
オオカワがタオルで額の汗を拭いた。
「俺が何も見ていないと思ったのか! 一方的に押されているのを俺が知らないとでも思ったか? それとも……お前は戦況が理解できないほど無能者だったか?」
「あ、いや、その……」
ハドリの迫力にオオカワが半歩後ずさる。
「有無を言わさず、ビルごと吹き飛ばせ。それで勝つだけだ」
ハドリが音もなくオオカワに詰めよった。
「し、しかし……ビルには今年の新人が……」
新入社員ともども敵を皆殺しにせよ、というハドリの命令にオオカワがたじろいだ。
エクザロームには警察や軍のような機関はなかったから、たとえここでOP社が社員を犠牲にしたからといってこれを罰することは困難だ。
あえて言えば、市民が立ち上がってこれを咎めることであるが、このような運動はあまり例がない。
それでも何千といった生命、それも自社の新入社員という身内のような者を巻き込んでよいといった考えはオオカワにはない。
「取り残されたのは、奴らが油断していたからだ。常に言っているはずだ。ここに勤務する以上、二四時間すべてが戦闘だ。それを忘れた者が敗北するのは当然のことだということを忘れたか? 敗北とはすなわち、死、だぞ」
オオカワは新入社員が殺されてよいような罪を犯したとは思っていない。
だが、ハドリにとって事件に巻き込まれた上に、それを引き起こした側を罰することができないこと自体が万死に値する罪なのだ。
特に敗北は彼にとって最も重大な罪である。
「そ、それは……」
「二度は言わん。すぐに行け」
「はっ!」
オオカワは早足で戦場へと戻った。ハドリには逆らえない。
社長命令だから、と己に言い訳しながら。
そして、部下に命じて建物の周辺に土木工事用の爆発物を仕掛ける。
その間も戦闘は続いており、数十名の警備員が命を落としたが、爆発物のセットはお構いなしに続けられる。
こうした犠牲も負けること、すなわち「エクザローム防衛隊」なる反逆者どもを処罰できないことに対する罪を処罰するために必要なことである、というのがハドリの考えだ。
今のオオカワは自らの意思を持たず、忠実にハドリの意思を実現するための装置でしかない。
「爆発物の設置、完了しました。しかし、センター長、本当にやるのですか?」
警備員の一人がそう言ったが、オオカワは青ざめた顔で
「社長の命令だ。やるしかない」
とビルの爆破を命じたのだった。
「しかし、中には我が社の新人と、セキュリティ・センターの者が……」
「い、いいからやるんだ。やらなかったらお前が責任を取るのか?」
オオカワの震える声に、仕方ない、といった表情で警備員が爆破スイッチを押す。
数秒後、ビルは轟音とともに崩れ去った。
この戦闘により、「エクザローム防衛隊」を名乗る集団は、千五百名を超える死者を出した。
数百名が負傷しながらも奇跡的に助かったが、そのほとんどはOP社セキュリティ・センターの警備員に身柄を拘束された。
例外的に幸運な十数名だけが逃走に成功しただけだった。
一方、OP社の被害も甚大であった。
新入社員を含めた三千名以上が死亡し、セキュリティ・センターも千名を超える犠牲者を出したのだ。
逃亡したセキュリティ・センターの警備員はすべて放逐された。その結果、セキュリティ・センターの警備員の半数がこの戦闘で失われた。
また、ポータル・シティ沖に設置されていた海流発電設備一六基のうち五基が「エクザローム防衛隊」の手によって破壊されており、OP社は電気の供給事業に大きな支障を出すこととなったのである。
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