ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第一章

17:降りかかる火の粉

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 セスやロビーがレストランを脱出した頃、OP社社長のエイチ・ハドリの姿は自社の本社ビルにあった。
 社内はパニックになっており、呆然とその場に立ち尽くす者、あても無く逃げ惑う者で溢れていた。
 しかし、ハドリは両足を広げ、床を踏みしめるようにして直立していた。

「メンテ部! 何をやっている! 施設を見に行かないか!」
「は、はいっ!」「今行きます!」「承知しました!」
 ハドリの声に十数名が反応し、慌てた様子で部屋を出て行く。

「他もつっ立ってないで、修復作業に行かんか!」
 ハドリの声は彼の普段の声を知っている者ならば、普段より落ち着いた様子だと思っただろう。
 彼が本当に怒っているとき、彼の声はかえって静かなものになる。

 ただ、声に込められた威圧感は、むしろ増幅されるのだが。

 ハドリは内線電話をかけ、セキュリティ・センターのセンター長を呼び出した。
 セキュリティ・センターとは、従業員や発電施設を暴力から守る守衛部隊のようなものである。ただし、一般的な守衛と比較して遥かに多くの戦闘訓練を積んでいるのだが。

 ハドリが窓をのぞきこむようにして外を見る。
 外から狙撃されることを警戒しているのか、窓に身体を晒さないような位置に立っているのがわかる。

 (ECNの跳ね返りの奴らか……? それとも、他の連中か……?)
 ハドリの視線の先には、銃や鉄パイプのような武器を持った大勢の人間がある建物目指して進んでいく姿があった。

 その先にあるのは、飲食店が集まった高層ビルである。OP社本社とは目と鼻の先だ。OP社本社ビルに向かう人影は無い。
 (俺のところではない……? そういえば、あのビルは新人どもが宴会をやっていたはずだったな……)

 そのビルは先ほどまでセス、ロビー、モリタの三人が夕食を楽しんでいたレストランのあるビルだった。
 上層階は要人が出席するパーティーや結婚式などで使われるホテルとなっている。
 OP社では毎年、新入社員歓迎パーティーをこのホテルで実施しており、今日がそのパーティーの日だった。

「社長、セキュリティ・センター部隊到着しました!」
 ハドリの前に、セキュリティ・センター長が到着した。
 センター長はオオカワという整えられた銀髪の中年男で、ハドリより頭半分ほど背が高い。

「あれはどういうことだ?」
 ハドリはセンター長を睨みつけて詰問した。
「あ、あれは……」
「判らないのか?」
「は、はい。まだ調査中です。」
 オオカワが額に汗を浮かべながら答えた。相当なプレッシャーを受けていることが見てとれる。

「調査中だと? お前は何をしている?! あの建物には新人どもがいる。お前のすることは何だ?」
「は、すぐに行きますっ!」
 センター長はそう言って、駆け足で出て行った。

 オオカワはハドリより一〇歳ばかり年上であるが、ハドリには頭が上がらない。
 ハドリの迫力の前に抗し得る者は、少なくともOP社の内部には存在しないようであった。

 センター長オオカワが去った後、ハドリはもう一度窓の外を覗きこんだ。
 すると、外のスピーカーを通じて声が聞こえてきた。

「我々は、ここ、惑星エクザロームを愛する『エクザローム防衛隊』である。
 オーシャン・パワース社(OP社)・社長を語る犯罪者、エイチ・ハドリに告ぐ!
 貴様は不当に電力を独占し、人々が本来得るものを奪った略奪者である!
 我々は人民の利益の代表者として、貴様のあらゆる活動から人民を救うためのあらゆる活動を行うものである!
 貴様がとるべき手段は、ただちにオーシャン・パワース社の社長を辞し、不当に蓄積した利益を人民に還元することである! 繰り返す……」

 ハドリはこのメッセージを無表情で聞いていた。
 すると、社員から声があがった。

「社長、大変です。これを……」
 ハドリが社員が指差すモニタを覗き込んだ。モニタには、ポータル・シティ内の情報公開掲示板やマスコミのニュース情報などが表示されている。

 それらは、OP社を非難する内部告発の情報で埋め尽くされていたのだ。
 内容は事実が八割、残りの二割が虚偽のものといったところだろう。
 ハドリから見れば事実の八割とて負け犬の戯言でしかないのだが。

 また外のスピーカーから声が聞こえてくる。
「ハドリよ、貴様の悪行はすべて社員が知るところだ。彼らは今、自責の念に駆られて、それらを白日のもとにさらしている。貴様も早く過ちを認め、潔く身を引くがよい」

 ハドリは無言だった。そしてモニタから離れておもむろに歩き出す。床を踏みしめるように、ゆっくりと。

 彼は身長一六〇センチに満たない小柄な男なのだが、その歩く姿は堂々としており隙がないので、身長よりはるかに大きく見える。無駄な肉はないが、がっしりした体型であることも身体を大きく見せている理由のひとつだ。

 ハドリのいる部屋には社員が数人いたが、ハドリに声をかけることのできる者は一人としていなかった。

 ハドリは階段を使ってゆっくりと下へ降りていく。やがて一階にたどり着くと、本社ビルの外へ出た。そして、警戒を怠ることなく彼の敵、「エクザローム防衛隊」が立てこもっていると思われるビルへと進む。

 ビルの近くにたどり着くと。彼は物陰に身を隠した。その右手には銃が握られている。彼は常に銃を携帯しており、その身から銃を離したことない。
 そして彼は隙なく周辺の様子をうかがった。
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