ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第一章

16:金曜夜の異変

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 三人は仕事を終えてポータル・シティの海岸に近いビルの二階にあるレストランにいる。この日は金曜日で翌日が休みだったため、三人は時間を気にせず食事や酒を楽しんでいた。

 もっとも、飲酒していたのはロビーだけである。ポータル・シティでは慣習的に飲酒は二〇歳以上からとされている。
セスとモリタの二人は一八歳であり、飲酒が認められていないのだ。ロビーだけは彼らより二歳年長の二〇歳であり、飲酒に問題はない。

 金曜ということもあり、中は満席に近い。レストランといっても小じゃれた居酒屋との中間的な業態の店だったため、若者の客が多いようだ。

 セスがモリタの方を見るとモリタが心配そうに窓の外を見ている。
「モリタ、何か見えるの?」
「う~ん、海側に光が見えるんだよね……何をやっているんだろう?」
「発電設備の整備かなんかだろう。別に心配するようなことじゃないだろ」
 ロビーがそう切って捨てた。

「でも、変じゃない? 発電設備の整備なら作業しやすいようもうちょっと明るくすると思うけど。モリタもそう思わない?」
 セスが光の方を凝視して浮かない顔をしている。

「うん。何か危ないことになったら嫌だなぁ……今日はここで解散した方がいいんじゃないかな」
 モリタもセスと同じよう光の方を見ている。

「お前ら心配性だなぁ。心配したところでメシがまずくなるだけだぞ」
「ロビーの言う通りかもね。でも、何かあったら嫌だなぁ」
 セスはそう言って席に残った。
 突然モリタは席を立った。ロビーがどこへ行くのかと問うと「トイレ」とだけ答えたのだった。

「……ったく、神経質な奴だなぁ。なあセス、俺らは今のうちにあるもの食っとこうぜ。何かあればあったで、そのとき何とかすりゃいいんだし」
 ロビーの言葉にセスはうなずきながらも窓の外を見たり、入口を確認したりと落ち着きが無い様子だった。

「やっぱ、店を出た方がいいんじゃないかな?」
「おい、セスまでそんな事言うのか?」
 ロビーが露骨に嫌そうな顔を見せた。

「いや、その、仕事を持ち帰っているから、早めに戻った方がいいだろうし、それに……」
「土日と休みなんだから、そこまで慌てる必要ないだろうが」
「それもそうなんだけど、その、ロビーも残した仕事あるだろうし」
「俺は仕事なんて持ち帰ってないぞ」
「ロビーのことだから、やり忘れとかあるかも知れないし……」
「おい、いい加減にしてくれよ」
 ロビーの言葉に少し怒りの調子が入った。
 セスには必要以上に心配性の面があって、ロビーにはこれが腹立たしくなることがある。

 (あ、まずい。これ以上言うとロビーが怒るな。でも、モリタの言うことももっともだし……
 だけど、ロビーを怒らせて店で暴れられでもしたら、出入り禁止になりそうだし……)
 
 セスがそう考えていると、窓の外が急に明るく光った。
 セスとロビーが外を見る。直後、レストランの床が波打ち照明が落ちた。
 セスは自分の身体が浮き上がり、車椅子から投げ出されるのを感じた。

 振動が静まってからロビーが立ち上がる。
「セス、大丈夫か?! ……ん?」
 そう言ってセスの車椅子があると思われる位置に手を伸ばしたが、ロビーの手に手ごたえが無い。

 (どこ行った? あいつ?!)
 ロビーが慌てて携帯端末を開く。携帯端末をライト代わりに使うのだ。

 セスの姿はすぐに見つかった。床に這いつくばって、キョロキョロしていたからだ。
「おい、落ち着け」

 ロビーがそう言った直後、セスは床を這いずって逃げようとした。
 しかし、彼はロビーにつまみ上げられて、車椅子に乗せられてしまった。
 
(普段は落ち着いているくせに……こういうときに限って、セスの奴、急にパニックになるからなぁ……)
 ロビーはセスの車椅子を押して出口へ向かおうとした。しかし、出口側から多くの人が悲鳴をあげながらなだれ込んできて、出口にまでたどり着くことができない。
 それどころか、人の波に押され、店の奥に押し込まれる始末である。

「おい、車椅子の奴がいるんだぞ! クソっ! 一体どうなっているんだ!?」
 ロビーが叫んだが、その声はまわりの悲鳴にかき消されてしまった。

 悲鳴は段々大きくなり、階下からは銃声のような音まで聞こえてくる。
 (このままじゃラチがあかん!)

 ロビーは近くにあった椅子を窓ガラスに投げつけた。窓ガラスが音を立てて割れる。
 そして何度か椅子をガラスに叩きつけて、人が立って通れるくらいのスペースを作った。

「セス! 行くぞ!」
 ロビーはセスを車椅子から引っ張り上げ前に抱きかかえるようにした。そして、割れた窓ガラスの隙間から外へ向けて飛び出したのだった。

 セスが暴れたためロビーはしりもちをついてしまったが、何とか無事に建物の外に出ることができた。

 セスは走ることができないので、ロビーがセスをおぶって走り出す。すると、目の前に三人の人影が現れた。
 三人とも作業服姿の男で、手には鉄パイプのようなものを持っている。

「お前ら、どこへ行くつもりだ?」
 一人人がそう言って、ロビーの前に立ちはだかった。
 ロビーが後ろを振り返ると、後ろにも二人仲間らしい者たちが道を塞いでいるのが見えた。

「お前ら、ハドリのところの社員だな? ここから逃げられては困る」
「ち、違うってば……」
 セスは相手の問いを否定したが、相手は信用しなかったようで、じりじりと包囲の輪を狭めていく。

「おい! 違うって言ってるだろ! いい加減にしてくれ!」
 ロビーも否定するが相手は聞く耳を持たないようで、包囲の輪は狭まる一方だ。

「……言ったところでわかるような連中じゃねえな。セス、しっかりつかまってろよ!」
 ロビーはそう言うと、姿勢を低くして正面の作業服の男目掛けてダッシュした。
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