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第一章
13:ウォーリー、目覚める
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(ん? ……どこだここは?)
ウォーリーが目を開くと、白っぽい天井が視界に入ってきた。
自分の部屋と異なる光景に、理解が追いつかない。
彼の顔には口と鼻を覆うようにマスクのようなものが装着されている。また、よく見ると身体中に点滴のようなチューブが打たれている。
(……病院か?!)
ウォーリーはマスクのようなものを外して、勢いよく身体を起こした。部屋にはウォーリー以外に誰もいないようだ。
するとドアが開き、白衣を来た女性が入ってきた。どうやら看護師のようだ。
「動いてはいけません。あなたは絶対安静なのですよ、トワさん」
「ここはどこなんだ?」
「ジンのメディット、でお分かりになるでしょうか。その第三ICU (集中治療室)です」
(やっぱり病院か……誰がここまで……?)
ジンはエクザローム最大の都市ポータル・シティに隣接する医療都市で、メディットはその中心となる医療従事者育成施設兼病院である。
ウォーリーの自宅はポータルにある。ウォーリーが自力でメディットに来た記憶は無いので、誰かがここまで運んできたということになる。
「誰が俺をここに連れてきた?」
「私どもの病院の副院長です。もうじきここに来ますわ」
看護師がそう言った直後、ICUのドアの脇の壁が規則正しく三回ノックされた。
ICUの壁はガラス張りなので、ドアの前に立っている者の姿は丸見えであるにも関わらず、である。
「どうぞ」
ドアを開けて入ってきたのは、シワ一つ無い白衣を来た長身の医師だった。年は四〇代半ばといったところか。背筋が伸びており、どこか堅苦しくも見える。頭髪もきちんと分けられており、髪の一本すら乱れたところがない。
「おはよう。具合はいかがですか?」
医師が静かに尋ねた。
「……俺は一体どうなった?」
「三月二六日の夜に倒れているところをポータル・シティの病院に運ばれた、と聞いています。その病院で手に負えないという連絡があり、ここに転送されてきたのです」
「……一体今日は何月何日なんだ?」
「四月一日。あなたはまる五日半、眠っていたのです」
(こうしちゃいられんっ!)
まさか五日も経っているとは思ってもいなかったウォーリーが慌ててベッドから飛び出そうとする。
しかし、ウォーリーを看護師が止める。
「絶対安静だといったはずです!」
看護師が医師の方をチラッと見やった。
「冗談じゃない、俺はこんなところでのうのうと寝ていられるほど暇じゃねぇ!」
そう怒鳴ってウォーリーが看護師の制止を振り切り、チューブを引きずったままドアの方へと向かおうとする。
「待ちなさい、今治療を止めたらあなたは助かりません」
そう言って医師がドアの前にすっと立った。何としてもウォーリーを止める、という目をしている。
「それがどうした? 俺を待っている奴らがいるんだっ! 生きるの死ぬだの言ってられる場合じゃねぇ!」
「私は医師として、あなたの治療を止めることができません。助かる人を見捨てることは、私にはできません。私は医師です」
「……何が言いたい?!」
ウォーリーが医師を睨みつける。
「今のあなたには考える時間が必要だと思います。何が一番大切なのか……考えてみるべきでしょう」
医師の言葉にウォーリーの動きが一瞬止まる。
さらに続けて医師が言う。
「これを預かっています。あなたに面会を希望された人たちですが、容態が容態なのですべてお断りしました」
医師がウォーリーの目の前に分厚い紙の束を差し出した。
ウォーリーが紙の束を受け取り、一枚一枚めくって見る。
それはウォーリーを見舞おうとしてかなわなかった者たちの名刺であった。
名刺の裏にはウォーリーの全快を望むメッセージや、ウォーリーが事業を立ち上げた際に参加する意思表示のメッセージなどが書かれているものもあった。
(ミヤハラにサクライにエリック……あいつら……)
ウォーリーの中に熱いものがこみ上げてくる。
「あなたの回復を待っている人がこれだけいます。あなたは自分がすべきことを考える必要があるのでは?」
そう言って医師はICUから出ようとする。
ウォーリーは下を向いて何かを堪えながら言った。
「……待ってくれ、俺が治るまでどのくらいかかる?」
「順調に行って一年といったところです」
そう言い残して医師はICUを出た。そして早足でセカセカと歩き去っていく。
観察力のある者が見ていれば、彼が出る直前に床に落ちていたゴミを拾っていたことに気づいたかもしれない。
しかし、ウォーリーの目はその様子をとらえておらず、ただ目の前にある紙を見つめていた。
(一年か……いや、俺は半年でここを出てみせる!)
密かにウォーリーが決意した。
「ところであの医者、何ていうんだ?」
ウォーリーが看護師に尋ねた。先ほどのやり取りから並の医師ではない、と思ったからだ。
「副院長のヴィリー・アイネスです」
「そうか、そのアイネスとかいう医者に言ってくれ。半年で退院できるプログラムを組んでくれ、と。俺はどんな治療でも耐えてみせる!」
「……一応伝えてみます」
看護師の答えに、こりゃダメだ、という表情を見せながらもウォーリーは諦めない。
「で、俺は病室の外に出ることはできないのか?」
「当分の間はICUから出すことはできないと言われています。何かあれば私どもに」
「しょうがねーな。ならば……」
ウォーリーは看護師に三つの頼み事をした。
一つ目は、見舞いに来た人たちに「半年で退院するから当分の間耐えてくれ」と伝言すること
二つ目は、ECN社を不採用となった若者たち━━「面倒を見る」と言った━━の面倒を見るよう、信頼しているECN社時代の元部下に伝言すること
そして三つ目は、ウォーリーの病状や治療方針がわかる医学書や資料をできるだけ大量に調達すること
であった。
ウォーリーが目を開くと、白っぽい天井が視界に入ってきた。
自分の部屋と異なる光景に、理解が追いつかない。
彼の顔には口と鼻を覆うようにマスクのようなものが装着されている。また、よく見ると身体中に点滴のようなチューブが打たれている。
(……病院か?!)
ウォーリーはマスクのようなものを外して、勢いよく身体を起こした。部屋にはウォーリー以外に誰もいないようだ。
するとドアが開き、白衣を来た女性が入ってきた。どうやら看護師のようだ。
「動いてはいけません。あなたは絶対安静なのですよ、トワさん」
「ここはどこなんだ?」
「ジンのメディット、でお分かりになるでしょうか。その第三ICU (集中治療室)です」
(やっぱり病院か……誰がここまで……?)
ジンはエクザローム最大の都市ポータル・シティに隣接する医療都市で、メディットはその中心となる医療従事者育成施設兼病院である。
ウォーリーの自宅はポータルにある。ウォーリーが自力でメディットに来た記憶は無いので、誰かがここまで運んできたということになる。
「誰が俺をここに連れてきた?」
「私どもの病院の副院長です。もうじきここに来ますわ」
看護師がそう言った直後、ICUのドアの脇の壁が規則正しく三回ノックされた。
ICUの壁はガラス張りなので、ドアの前に立っている者の姿は丸見えであるにも関わらず、である。
「どうぞ」
ドアを開けて入ってきたのは、シワ一つ無い白衣を来た長身の医師だった。年は四〇代半ばといったところか。背筋が伸びており、どこか堅苦しくも見える。頭髪もきちんと分けられており、髪の一本すら乱れたところがない。
「おはよう。具合はいかがですか?」
医師が静かに尋ねた。
「……俺は一体どうなった?」
「三月二六日の夜に倒れているところをポータル・シティの病院に運ばれた、と聞いています。その病院で手に負えないという連絡があり、ここに転送されてきたのです」
「……一体今日は何月何日なんだ?」
「四月一日。あなたはまる五日半、眠っていたのです」
(こうしちゃいられんっ!)
まさか五日も経っているとは思ってもいなかったウォーリーが慌ててベッドから飛び出そうとする。
しかし、ウォーリーを看護師が止める。
「絶対安静だといったはずです!」
看護師が医師の方をチラッと見やった。
「冗談じゃない、俺はこんなところでのうのうと寝ていられるほど暇じゃねぇ!」
そう怒鳴ってウォーリーが看護師の制止を振り切り、チューブを引きずったままドアの方へと向かおうとする。
「待ちなさい、今治療を止めたらあなたは助かりません」
そう言って医師がドアの前にすっと立った。何としてもウォーリーを止める、という目をしている。
「それがどうした? 俺を待っている奴らがいるんだっ! 生きるの死ぬだの言ってられる場合じゃねぇ!」
「私は医師として、あなたの治療を止めることができません。助かる人を見捨てることは、私にはできません。私は医師です」
「……何が言いたい?!」
ウォーリーが医師を睨みつける。
「今のあなたには考える時間が必要だと思います。何が一番大切なのか……考えてみるべきでしょう」
医師の言葉にウォーリーの動きが一瞬止まる。
さらに続けて医師が言う。
「これを預かっています。あなたに面会を希望された人たちですが、容態が容態なのですべてお断りしました」
医師がウォーリーの目の前に分厚い紙の束を差し出した。
ウォーリーが紙の束を受け取り、一枚一枚めくって見る。
それはウォーリーを見舞おうとしてかなわなかった者たちの名刺であった。
名刺の裏にはウォーリーの全快を望むメッセージや、ウォーリーが事業を立ち上げた際に参加する意思表示のメッセージなどが書かれているものもあった。
(ミヤハラにサクライにエリック……あいつら……)
ウォーリーの中に熱いものがこみ上げてくる。
「あなたの回復を待っている人がこれだけいます。あなたは自分がすべきことを考える必要があるのでは?」
そう言って医師はICUから出ようとする。
ウォーリーは下を向いて何かを堪えながら言った。
「……待ってくれ、俺が治るまでどのくらいかかる?」
「順調に行って一年といったところです」
そう言い残して医師はICUを出た。そして早足でセカセカと歩き去っていく。
観察力のある者が見ていれば、彼が出る直前に床に落ちていたゴミを拾っていたことに気づいたかもしれない。
しかし、ウォーリーの目はその様子をとらえておらず、ただ目の前にある紙を見つめていた。
(一年か……いや、俺は半年でここを出てみせる!)
密かにウォーリーが決意した。
「ところであの医者、何ていうんだ?」
ウォーリーが看護師に尋ねた。先ほどのやり取りから並の医師ではない、と思ったからだ。
「副院長のヴィリー・アイネスです」
「そうか、そのアイネスとかいう医者に言ってくれ。半年で退院できるプログラムを組んでくれ、と。俺はどんな治療でも耐えてみせる!」
「……一応伝えてみます」
看護師の答えに、こりゃダメだ、という表情を見せながらもウォーリーは諦めない。
「で、俺は病室の外に出ることはできないのか?」
「当分の間はICUから出すことはできないと言われています。何かあれば私どもに」
「しょうがねーな。ならば……」
ウォーリーは看護師に三つの頼み事をした。
一つ目は、見舞いに来た人たちに「半年で退院するから当分の間耐えてくれ」と伝言すること
二つ目は、ECN社を不採用となった若者たち━━「面倒を見る」と言った━━の面倒を見るよう、信頼しているECN社時代の元部下に伝言すること
そして三つ目は、ウォーリーの病状や治療方針がわかる医学書や資料をできるだけ大量に調達すること
であった。
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