ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第一章

12:半歩前進、だが……

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「……話しにくいけど、セス、ちょっと聞いてくれないかな」
 モリタがディスクの解析結果を説明し始めた。

 モリタの解析結果は次のようなものであった。

 ・記憶ディスクの中でデータが解析できたのはほんの一部で、他の大部分のデータは壊れてしまっており、復元ができない。
 ・見ることのできるデータは海図と思われるものと、日記と思われるものだった。
 ・日記は数日分だけしか見ることができなかったが、その中にセスと思われる赤ん坊の誕生が記されていた。
 ・セスと思われる赤ん坊の生年月日とセスが公称している生年月日は一致している。

 これらのことから、セスの両親と思われる人物は海洋調査の仕事に従事しているものと思われた。
 エクザロームの海は尋常とは思えない速度の海流があり、その流れも複雑で、普通の者は絶対に海には出ない。そうした海を航行するのは、海洋調査隊の船だけなのだ。

 こうした状況にも関わらず、海を調査しようとするのは、輸送手段と居住地域が不足しているというエクザローム独自の事情があった。

 惑星エクザロームには、現在のところサブマリン島以外の陸地は発見されていない。
 この西半分に人が居住しているわけだが、西半分も多くは湿地帯や乾燥した砂地で人の居住できる地域はほんのわずかである。地盤が軟弱な土地が多く、居住に適した建物すら建てられないのが実情だ。

 一部の大都市を除いて、居住可能地域に都市を造り人が点在しているわけだが、こうした都市間の交通の便も非常に悪い。
 鉄道は地盤の良い都市間のみ走っているが、それ以外の都市間の移動は、基本的に徒歩である。都市内では自転車を使って移動するケースもあるが、材料不足が原因となって自転車の普及も進んでいない。

 また、今のところ石油や石炭、天然ガスのような化石燃料もエクザロームでは見つかっていなかった。
 その代わりに農作物や生ゴミなどから燃料を生産しているが、業務用の需要を満たすのにも不十分な量であり、一般の市民がこうした燃料を入手することは不可能に近かった。
 辛うじて電力だけは速い海流を活用した発電がなされており、これがエクザロームの住民の多くにとって唯一のエネルギーであった。

 これらの事情があいまって、有力者たちは海にその解決手段を求めたのだ。
 しかし、エクザロームの海は船の航行には非常に厳しい環境である。

 そこで、有力者たちが考えたのは、犯罪者への刑罰として海洋研究家のもとで海洋調査をさせ、その調査結果を利用することであった。

 自ら志願して海洋調査隊に入る者もいたが、その数は少数であった。入れば食うに困ることはなかったが、とりたてて高給でもステータスの高い仕事でもなく、おまけに命の危険が多々ある。

 いつでも人員は不足していたため、志願すれば入隊は容易であった。モリタが海洋調査隊に入れられるのを (冗談とはいえ)恐れていたのは、このような事情があったからだ。

 日記から推測するに、セスの母親が海洋調査隊の船に乗った時期には既にセスをその身体に宿していた可能性が高い。

 海洋研究家や海洋調査隊の志願者が妊婦の状態で調査船に乗り込むことは考えにくく、これがセスの母親が犯罪者と思われる理由であった。

「学校に情報は沢山あるけど、さすがに犯罪者の情報はないからね。残念だけど、ここで行き詰まっちゃいそうだよ」
 モリタが力なく言った。お手上げといった表情だ。

「そう……そうだよね。モリタ、ロビー、サンキュ……あっ!」
 画面を見ていたセスがいきなり声をあげた。

「どうしたって言うんだ、一体? また、いつもの心配性か?」
「何? どれどれ?」
 ロビーとモリタがそれぞれセスの見ていた画面を覗き込む。

 画面にはニュース速報として、「アース・コミュニケーション・ネットワーク(ECN)社、オーシャン・パワース(OP)社グループに参加」と表示されていた。
「不採用で正解だったかもね。採用されていたら、三人がバラバラにされちゃうところだったよ」
 セスの言葉にロビー、モリタの両者が肯いた。

「世の中信じてりゃ、悪いことなんてそう無いさ。そろそろ時間も時間だし、メシでも行くか? 今日、ネットでいい店見つけたんだ」
「えー、僕に食べられるものあるの、その店?」
 ロビーの提案にモリタが難色を示す。モリタは偏食で野菜がほとんど食べられないのだ。

「お前な……ガキじゃないんだから野菜くらい食えるようになれよ。セスが食える料理がある店なんだから、お前が食えるものくらいあるだろ」
 セスは偏食ではないのだが、車椅子生活の原因ともなっている循環器系の障害から、食事には一定の制限がある。ロビーはそのことを言っていたのだ。

「僕は折角だから行こうかな」
 セスがロビーの後に続いた。
「……わかったよ、セスがそう言うなら行くって」
「別に嫌なら来なくていいぞ」
「じゃ、やめようかな……」
「遠慮してないでモリタもおいでよ。野菜のないメニューくらい探せば見つかるはずだよ」
 セスがそう言うとモリタは慌ててセスとロビーの後を追いかけるのだった。
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