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第一章
10:ロビーの交渉? その2
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ECN社と連絡を取り終えたセンター長が、確かに君の言う通りだったとロビーに告げた。
「……そういうことだ。就職支援センターは自分のところの優秀でかわいい学生を卒業した日から路頭に迷わせる気か?」
ロビーがそれ見ろと言わんばかりにセンター長の前でふんぞり返ってみせた。
「そんなことはない。全力で代わりの案件を探すから安心しなさい」
ECN社がロビーの言う通り数十名の学生を不採用にしたことを認めた以上、センター長はロビーの言葉を無視できなくなったのだった。
「できないね! 卒業と同時に寮を追い出される身体の不自由な奴がいるんだぞ! 家族も身寄りも無い奴が! そいつを路頭に迷わせるつもりか?!」
ロビーが言っているのは勿論セスのことである。
「それは理解できるが、寮はもう新しい入居者が決まっている。ルールには従ってもらう」
すると、ロビーの拳がカウンターに叩きつけられた。
ほぼ同時に女性職員が「ひゃっ!」と消え入りそうな声をあげて、身体を小さくした。
「障がい者にのたれ死ねというのか! ふざけるな!」
「だから、全力で代わりの案件を探すと言っているだろう!」
センター長の答えにロビーは急に人の悪そうな笑みを浮かべた。
「そうですか……それが間に合わず障がい者の卒業生が路頭に迷うことになったら、就職支援センターの対応のまずさを責められる事は必至ですね。
センター長の首くらいで済めばいいですが、卒業生が死ぬようなことでもあったら、さぞかしセンター長も寝覚めが悪いでしょうね……」
「マスコミに伝える気か?」
「いや~、マスコミ関係も視野に入れて求職活動をしなければならないですからね……」
ロビーの答えを聞いたセンター長の表情が青ざめた。
ECN社を受けた学生に身寄りの無い車椅子の者が一人いたことを思い出したからだ。
不採用になった生徒が車椅子の生徒であるとするならば、確かにロビーの言うとおり、就職できずに寮を追い出されれば路頭に迷う可能性は十分にある。
それをマスコミに知られれば、彼のセンター長としての立場も危うくなるだけではなく、職業学校全体の面子に関わることになる。
「……車椅子の生徒が不採用になったのは確かか?」
「間違いない」
「そうか……」
センター長はその場で女性職員に命じて寮の空きがないかを調べさせる。
「住むところだけじゃ意味無いぜ。働き口もな。確か、学校で職員を募集していたよなぁ……」
「あれは実務経験者向けの案件だぞ」
「なら、俺は資格あり、だな。ついでに二人ばかり確保できる。よかったじゃないか、足りなかった職員が確保できるぞ」
ロビーがばん、とセンター長の肩を叩いた。
二人の間にはカウンターと女性職員が挟まれているのだが、ロビーの長い腕が相手ではそれらは障害として機能しなかった。
本人の言葉通り、ロビーには二年の就業経験がある。
職業学校には義務教育を終えた一五歳で入学するのが一般的ではあるが、一度仕事に就いてから勉強するために進学する者もわずかには存在する。
ロビーもそのクチで、義務教育を終えてから地元の製本業者で約二年働いていた。
「しかしだな、既に一般向けの募集広告を出しているしな……」
「内部に優秀な人材がいるんだ、ラッキーじゃないか」
ロビーのあまりの調子のよさに、センター長は内心頭を抱えていた。
すると、入口の自動ドアから二人の青年が入ってくるのが見えた。
遠くて顔はよく見えないが、確かに一人は車椅子である。
彼らが追いつくのに時間を要したのは、単に門から事務の窓口までかなり距離があったからだ。職業学校は広い。
二人ともこちらの方に向かってくるのがわかる。
どうやら目の前にいる長身の生徒が車椅子の青年について言っていることは事実のようだ。
車椅子の生徒が路頭に迷うのは問題である。
寝覚めが悪いこともさることながら、このことをマスコミに知られるのは都合が悪い。
誰でも簡単に情報を仕入れられる世の中では、必然的に他人のチェックの目が厳しくなる。
今回のケースでは、当然学校側が悪者にされるであろう。
幸い、職員の募集に関しては就職支援センターにも権限がある。
就職支援センターは、学生に就職を斡旋するだけではなく、職業学校に雇用される教員以外の採用に関する権限を持っているからだ。
今回、ECN社に落ちた学生全員を臨時職員として一時的に雇用するのであれば、就職支援センター長の権限でも十分に対応できる。
これが決め手となった。
「……わかった……職員として採用するよう検討してみよう」
「それは採用を約束する、という意味だな? それでないと意味がない」
「……そう思ってもらっていいだろう」
センター長が力なく答えた。
そこに車椅子の青年と横幅の広い青年とがやってきた。
「ロビー、どうだった?」
「セス、モリタ、喜べ! 学校の職員として採用されることが決まったぞ!」
ロビーが親指を立ててみせた。
「本当に?」
モリタはやや疑わしげだ。
「本当だ、な、センター長さん?」
ロビーの言葉はまるで自分の友人に話しかけるようである。
「……そう思ってもらって間違いない」
「ほら見ろ」
ロビーが胸を張った。
「さすがはロビーだね。交渉ごとはロビーにお願いするに限るよ」
「よくやるよ、本当に……」
モリタがセスにだけ聞こえるような声でボソリと言った。
そのやり取りを見て、カウンターの反対側にいた女性職員が口を押さえて笑っていた。
三人が職業学校で仕事を得るまでには、このようなやり取りがあったのである。
「……そういうことだ。就職支援センターは自分のところの優秀でかわいい学生を卒業した日から路頭に迷わせる気か?」
ロビーがそれ見ろと言わんばかりにセンター長の前でふんぞり返ってみせた。
「そんなことはない。全力で代わりの案件を探すから安心しなさい」
ECN社がロビーの言う通り数十名の学生を不採用にしたことを認めた以上、センター長はロビーの言葉を無視できなくなったのだった。
「できないね! 卒業と同時に寮を追い出される身体の不自由な奴がいるんだぞ! 家族も身寄りも無い奴が! そいつを路頭に迷わせるつもりか?!」
ロビーが言っているのは勿論セスのことである。
「それは理解できるが、寮はもう新しい入居者が決まっている。ルールには従ってもらう」
すると、ロビーの拳がカウンターに叩きつけられた。
ほぼ同時に女性職員が「ひゃっ!」と消え入りそうな声をあげて、身体を小さくした。
「障がい者にのたれ死ねというのか! ふざけるな!」
「だから、全力で代わりの案件を探すと言っているだろう!」
センター長の答えにロビーは急に人の悪そうな笑みを浮かべた。
「そうですか……それが間に合わず障がい者の卒業生が路頭に迷うことになったら、就職支援センターの対応のまずさを責められる事は必至ですね。
センター長の首くらいで済めばいいですが、卒業生が死ぬようなことでもあったら、さぞかしセンター長も寝覚めが悪いでしょうね……」
「マスコミに伝える気か?」
「いや~、マスコミ関係も視野に入れて求職活動をしなければならないですからね……」
ロビーの答えを聞いたセンター長の表情が青ざめた。
ECN社を受けた学生に身寄りの無い車椅子の者が一人いたことを思い出したからだ。
不採用になった生徒が車椅子の生徒であるとするならば、確かにロビーの言うとおり、就職できずに寮を追い出されれば路頭に迷う可能性は十分にある。
それをマスコミに知られれば、彼のセンター長としての立場も危うくなるだけではなく、職業学校全体の面子に関わることになる。
「……車椅子の生徒が不採用になったのは確かか?」
「間違いない」
「そうか……」
センター長はその場で女性職員に命じて寮の空きがないかを調べさせる。
「住むところだけじゃ意味無いぜ。働き口もな。確か、学校で職員を募集していたよなぁ……」
「あれは実務経験者向けの案件だぞ」
「なら、俺は資格あり、だな。ついでに二人ばかり確保できる。よかったじゃないか、足りなかった職員が確保できるぞ」
ロビーがばん、とセンター長の肩を叩いた。
二人の間にはカウンターと女性職員が挟まれているのだが、ロビーの長い腕が相手ではそれらは障害として機能しなかった。
本人の言葉通り、ロビーには二年の就業経験がある。
職業学校には義務教育を終えた一五歳で入学するのが一般的ではあるが、一度仕事に就いてから勉強するために進学する者もわずかには存在する。
ロビーもそのクチで、義務教育を終えてから地元の製本業者で約二年働いていた。
「しかしだな、既に一般向けの募集広告を出しているしな……」
「内部に優秀な人材がいるんだ、ラッキーじゃないか」
ロビーのあまりの調子のよさに、センター長は内心頭を抱えていた。
すると、入口の自動ドアから二人の青年が入ってくるのが見えた。
遠くて顔はよく見えないが、確かに一人は車椅子である。
彼らが追いつくのに時間を要したのは、単に門から事務の窓口までかなり距離があったからだ。職業学校は広い。
二人ともこちらの方に向かってくるのがわかる。
どうやら目の前にいる長身の生徒が車椅子の青年について言っていることは事実のようだ。
車椅子の生徒が路頭に迷うのは問題である。
寝覚めが悪いこともさることながら、このことをマスコミに知られるのは都合が悪い。
誰でも簡単に情報を仕入れられる世の中では、必然的に他人のチェックの目が厳しくなる。
今回のケースでは、当然学校側が悪者にされるであろう。
幸い、職員の募集に関しては就職支援センターにも権限がある。
就職支援センターは、学生に就職を斡旋するだけではなく、職業学校に雇用される教員以外の採用に関する権限を持っているからだ。
今回、ECN社に落ちた学生全員を臨時職員として一時的に雇用するのであれば、就職支援センター長の権限でも十分に対応できる。
これが決め手となった。
「……わかった……職員として採用するよう検討してみよう」
「それは採用を約束する、という意味だな? それでないと意味がない」
「……そう思ってもらっていいだろう」
センター長が力なく答えた。
そこに車椅子の青年と横幅の広い青年とがやってきた。
「ロビー、どうだった?」
「セス、モリタ、喜べ! 学校の職員として採用されることが決まったぞ!」
ロビーが親指を立ててみせた。
「本当に?」
モリタはやや疑わしげだ。
「本当だ、な、センター長さん?」
ロビーの言葉はまるで自分の友人に話しかけるようである。
「……そう思ってもらって間違いない」
「ほら見ろ」
ロビーが胸を張った。
「さすがはロビーだね。交渉ごとはロビーにお願いするに限るよ」
「よくやるよ、本当に……」
モリタがセスにだけ聞こえるような声でボソリと言った。
そのやり取りを見て、カウンターの反対側にいた女性職員が口を押さえて笑っていた。
三人が職業学校で仕事を得るまでには、このようなやり取りがあったのである。
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