ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
12 / 436
第一章

10:ロビーの交渉? その2

しおりを挟む
 ECN社と連絡を取り終えたセンター長が、確かに君の言う通りだったとロビーに告げた。
「……そういうことだ。就職支援センターは自分のところの優秀でかわいい学生を卒業した日から路頭に迷わせる気か?」
 ロビーがそれ見ろと言わんばかりにセンター長の前でふんぞり返ってみせた。
「そんなことはない。全力で代わりの案件を探すから安心しなさい」
 ECN社がロビーの言う通り数十名の学生を不採用にしたことを認めた以上、センター長はロビーの言葉を無視できなくなったのだった。

「できないね! 卒業と同時に寮を追い出される身体の不自由な奴がいるんだぞ! 家族も身寄りも無い奴が! そいつを路頭に迷わせるつもりか?!」
 ロビーが言っているのは勿論セスのことである。

「それは理解できるが、寮はもう新しい入居者が決まっている。ルールには従ってもらう」
 すると、ロビーの拳がカウンターに叩きつけられた。
 ほぼ同時に女性職員が「ひゃっ!」と消え入りそうな声をあげて、身体を小さくした。
「障がい者にのたれ死ねというのか! ふざけるな!」

「だから、全力で代わりの案件を探すと言っているだろう!」
 センター長の答えにロビーは急に人の悪そうな笑みを浮かべた。
「そうですか……それが間に合わず障がい者の卒業生が路頭に迷うことになったら、就職支援センターの対応のまずさを責められる事は必至ですね。
 センター長の首くらいで済めばいいですが、卒業生が死ぬようなことでもあったら、さぞかしセンター長も寝覚めが悪いでしょうね……」
「マスコミに伝える気か?」
「いや~、マスコミ関係も視野に入れて求職活動をしなければならないですからね……」
 ロビーの答えを聞いたセンター長の表情が青ざめた。
 ECN社を受けた学生に身寄りの無い車椅子の者が一人いたことを思い出したからだ。

 不採用になった生徒が車椅子の生徒であるとするならば、確かにロビーの言うとおり、就職できずに寮を追い出されれば路頭に迷う可能性は十分にある。
 それをマスコミに知られれば、彼のセンター長としての立場も危うくなるだけではなく、職業学校全体の面子に関わることになる。

「……車椅子の生徒が不採用になったのは確かか?」
「間違いない」
「そうか……」
 センター長はその場で女性職員に命じて寮の空きがないかを調べさせる。

「住むところだけじゃ意味無いぜ。働き口もな。確か、学校で職員を募集していたよなぁ……」
「あれは実務経験者向けの案件だぞ」
「なら、俺は資格あり、だな。ついでに二人ばかり確保できる。よかったじゃないか、足りなかった職員が確保できるぞ」
 ロビーがばん、とセンター長の肩を叩いた。
 二人の間にはカウンターと女性職員が挟まれているのだが、ロビーの長い腕が相手ではそれらは障害として機能しなかった。

 本人の言葉通り、ロビーには二年の就業経験がある。
 職業学校には義務教育を終えた一五歳で入学するのが一般的ではあるが、一度仕事に就いてから勉強するために進学する者もわずかには存在する。

 ロビーもそのクチで、義務教育を終えてから地元の製本業者で約二年働いていた。
「しかしだな、既に一般向けの募集広告を出しているしな……」
「内部に優秀な人材がいるんだ、ラッキーじゃないか」
 ロビーのあまりの調子のよさに、センター長は内心頭を抱えていた。

 すると、入口の自動ドアから二人の青年が入ってくるのが見えた。
 遠くて顔はよく見えないが、確かに一人は車椅子である。
 彼らが追いつくのに時間を要したのは、単に門から事務の窓口までかなり距離があったからだ。職業学校は広い。

 二人ともこちらの方に向かってくるのがわかる。
 どうやら目の前にいる長身の生徒が車椅子の青年について言っていることは事実のようだ。

 車椅子の生徒が路頭に迷うのは問題である。
 寝覚めが悪いこともさることながら、このことをマスコミに知られるのは都合が悪い。
 誰でも簡単に情報を仕入れられる世の中では、必然的に他人のチェックの目が厳しくなる。

 今回のケースでは、当然学校側が悪者にされるであろう。
 幸い、職員の募集に関しては就職支援センターにも権限がある。
 就職支援センターは、学生に就職を斡旋するだけではなく、職業学校に雇用される教員以外の採用に関する権限を持っているからだ。

 今回、ECN社に落ちた学生全員を臨時職員として一時的に雇用するのであれば、就職支援センター長の権限でも十分に対応できる。
 これが決め手となった。

「……わかった……職員として採用するよう検討してみよう」
「それは採用を約束する、という意味だな? それでないと意味がない」
「……そう思ってもらっていいだろう」
 センター長が力なく答えた。

 そこに車椅子の青年と横幅の広い青年とがやってきた。
「ロビー、どうだった?」
「セス、モリタ、喜べ! 学校の職員として採用されることが決まったぞ!」
 ロビーが親指を立ててみせた。

「本当に?」
 モリタはやや疑わしげだ。
「本当だ、な、センター長さん?」
 ロビーの言葉はまるで自分の友人に話しかけるようである。
「……そう思ってもらって間違いない」
「ほら見ろ」
 ロビーが胸を張った。

「さすがはロビーだね。交渉ごとはロビーにお願いするに限るよ」
「よくやるよ、本当に……」
 モリタがセスにだけ聞こえるような声でボソリと言った。
 そのやり取りを見て、カウンターの反対側にいた女性職員が口を押さえて笑っていた。

 三人が職業学校で仕事を得るまでには、このようなやり取りがあったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...