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第一章
6:ウォーリー出奔す
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「経営企画室はどう判断しているのか、話を聞かせてくれ」
先ほどよりは冷静さを取り戻したウォーリーが不機嫌さを隠さない様子で尋ねた。
先ほどの会議が物別れに終わってから四時間が経過していた。
ECN社の会議室では、予定通りOP社の申し出に対する対策会議が再開された。議論が収束する見込みは立っていないのだが、早急に対応を決める必要がある。OP社に対する返事を引き延ばすにも限度があるからだ。
参加者の多くにとって気乗りのしない会議のためか、会議室内の空気が淀んでいるように感じられる。
相変わらず最初に口火を切ったのはウォーリーだった。その矛先は社長のオイゲンではなく、経営企画室に向いている。ECN社の幹部でこのような場合に最初に口を開くことができる者はそう多くないが、ウォーリーは例外であった。
ウォーリーの問いに、経営企画室長が挙手して発言を求めた。
社長のオイゲンが発言を許可し、経営企画室長が問いに答える。
「あくまでも最後は社長の判断だが、経営企画室としては申し出を受ける方がベターだと考えている。理由はOP社と敵対してお互いが消耗するよりも、お互いの足りない部分を補う方が我々にとってもOP社にとってもメリットがあると判断できるためだ」
経営企画室長の答えに、納得できないとウォーリーが反論する。
「引退が近いアンタはそれでも良かろう。アンタが引退するまでの時間くらいは稼げるだろうしな。だが、若い社員はどうするんだ? ECN社の社風が好きで仕事をしている社員達はどうなる?」
「実際のところ、OP社の給与水準は我が社より高い。それに見合うだけの利益も出ている。OP社のグループに参加した方が社員の待遇が良くなる可能性が高い」
「……金だけは、な。ただ、俺はあのハドリとか言う社長の下で働く気は無い。うちの社長もときどきイライラするが、それでもあのハドリよりはマシだ!」
「トワ君、口が過ぎるぞ!」
ウォーリーの暴言にたまらず年配の社員が注意するが、オイゲンがそれを制した。
注意した社員は明らかに不服そうであった。その顔には「トワの態度は先輩に対して失礼だ」と書かれていた。
しかし、オイゲンはそれを敢えて無視してウォーリーの方を向いた。
「トワさん、続けて」
ウォーリーは注意した社員の方を睨みつけてから、話を続けた。
ウォーリーの主張はこうであった。
ECN社は社長のオイゲンの性格もあり、比較的自由な社風である。
一方、OP社は従業員の管理が厳しく、四六時中行動を監視されている。
OP社のグループにECN社が参加した場合、ECN社の独立性はある程度維持されるにしても、OP社の管理が入り込むのはほぼ間違いない。
OP社的な従業員監視をECN社の大多数の従業員は望まないに違いない。
もちろん、ウォーリー自身はそのような社風の会社にいるつもりは無い。
OP社の従業員管理が厳しいのはある意味事実であったが、ウォーリーの意見は感情論に偏っていると判断されても仕方なかっただろう。
オイゲンもそう思った一人であったが、一方で彼はこの議題を感情論で判断することを必ずしも誤りだとは思っていなかった。
このため、オイゲンは会議の中で決定的な意見を言うことができず、OP社グループへの参加の可否は参加者の多数決で決められることになった。
「多数決の結果を受けて判断しましょう。私は議決には参加しないので、他の皆さんで賛成か反対の挙手をお願いします」
オイゲンがこう宣言し、多数決が取られた。
賛成が六割ほど、残りの四割は反対と棄権が半分ずつだ。賛成多数により、ECN社はOP社のグループに参加することが決定した。
「……わかりました。OP社には私の名前でグループに参加すると回答しましょう」
オイゲンが力なく宣言すると同時に、ウォーリーが立ち上がった。
「俺は今日限りでここを辞めさせてもらう。OP社の傘下になった会社で仕事をするつもりはないっ!」
そうまくし立ててウォーリーは会議室から出ていき、扉を叩きつけるようにして閉めた。
先ほどよりは冷静さを取り戻したウォーリーが不機嫌さを隠さない様子で尋ねた。
先ほどの会議が物別れに終わってから四時間が経過していた。
ECN社の会議室では、予定通りOP社の申し出に対する対策会議が再開された。議論が収束する見込みは立っていないのだが、早急に対応を決める必要がある。OP社に対する返事を引き延ばすにも限度があるからだ。
参加者の多くにとって気乗りのしない会議のためか、会議室内の空気が淀んでいるように感じられる。
相変わらず最初に口火を切ったのはウォーリーだった。その矛先は社長のオイゲンではなく、経営企画室に向いている。ECN社の幹部でこのような場合に最初に口を開くことができる者はそう多くないが、ウォーリーは例外であった。
ウォーリーの問いに、経営企画室長が挙手して発言を求めた。
社長のオイゲンが発言を許可し、経営企画室長が問いに答える。
「あくまでも最後は社長の判断だが、経営企画室としては申し出を受ける方がベターだと考えている。理由はOP社と敵対してお互いが消耗するよりも、お互いの足りない部分を補う方が我々にとってもOP社にとってもメリットがあると判断できるためだ」
経営企画室長の答えに、納得できないとウォーリーが反論する。
「引退が近いアンタはそれでも良かろう。アンタが引退するまでの時間くらいは稼げるだろうしな。だが、若い社員はどうするんだ? ECN社の社風が好きで仕事をしている社員達はどうなる?」
「実際のところ、OP社の給与水準は我が社より高い。それに見合うだけの利益も出ている。OP社のグループに参加した方が社員の待遇が良くなる可能性が高い」
「……金だけは、な。ただ、俺はあのハドリとか言う社長の下で働く気は無い。うちの社長もときどきイライラするが、それでもあのハドリよりはマシだ!」
「トワ君、口が過ぎるぞ!」
ウォーリーの暴言にたまらず年配の社員が注意するが、オイゲンがそれを制した。
注意した社員は明らかに不服そうであった。その顔には「トワの態度は先輩に対して失礼だ」と書かれていた。
しかし、オイゲンはそれを敢えて無視してウォーリーの方を向いた。
「トワさん、続けて」
ウォーリーは注意した社員の方を睨みつけてから、話を続けた。
ウォーリーの主張はこうであった。
ECN社は社長のオイゲンの性格もあり、比較的自由な社風である。
一方、OP社は従業員の管理が厳しく、四六時中行動を監視されている。
OP社のグループにECN社が参加した場合、ECN社の独立性はある程度維持されるにしても、OP社の管理が入り込むのはほぼ間違いない。
OP社的な従業員監視をECN社の大多数の従業員は望まないに違いない。
もちろん、ウォーリー自身はそのような社風の会社にいるつもりは無い。
OP社の従業員管理が厳しいのはある意味事実であったが、ウォーリーの意見は感情論に偏っていると判断されても仕方なかっただろう。
オイゲンもそう思った一人であったが、一方で彼はこの議題を感情論で判断することを必ずしも誤りだとは思っていなかった。
このため、オイゲンは会議の中で決定的な意見を言うことができず、OP社グループへの参加の可否は参加者の多数決で決められることになった。
「多数決の結果を受けて判断しましょう。私は議決には参加しないので、他の皆さんで賛成か反対の挙手をお願いします」
オイゲンがこう宣言し、多数決が取られた。
賛成が六割ほど、残りの四割は反対と棄権が半分ずつだ。賛成多数により、ECN社はOP社のグループに参加することが決定した。
「……わかりました。OP社には私の名前でグループに参加すると回答しましょう」
オイゲンが力なく宣言すると同時に、ウォーリーが立ち上がった。
「俺は今日限りでここを辞めさせてもらう。OP社の傘下になった会社で仕事をするつもりはないっ!」
そうまくし立ててウォーリーは会議室から出ていき、扉を叩きつけるようにして閉めた。
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