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一年目 二〇五七年
10:第一〇回 六月二日 リーラスの生みの親アルベルト・クレスラー その3
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こんにちは、レコことレスコス・テラーサです!
今回もクレスラーの話の続きです。
前回はアネン地区の住民をラメミリアに呼び戻すところまでをお話ししました。
アネン地区の住民の多くがクレスラーの呼びかけに応じてラメミリアへと移動してきました。
住み慣れた土地を離れられないと残った人もいましたが、ごく少数でした。
アネン地区を占拠しているキサデア王国は、当時マナの収集のため国民に負担を強いていたといわれています。
これが多くの人がラメミリアに移ってきた要因だとされています。
クレスラーは移り住んできた者たちの中から一人の少年に目をつけました。
エア・セルの血を引くこの少年を熱心にリーラスの選手になるよう勧誘しました。
成長した少年は後になって選手選考会を通過し、見事にリーラスの選手になるのですが、これは別の機会にお話ししたいと思います。
アネン地区の住民がラメミリアに戻ってから、ラメミリアや周辺国のマナの供給状況が改善していきます。
ラメミリアの技術により送マナ効率が向上した結果、無理なマナの収集をしなくてよくなったからです。
マナの供給状況が良くなったことで、ラメミリアや周辺国は徐々に発展していきます。
隣国のキサデア王国はアネン地区の支配を絶対的なものにするために、多くの国民をアネン地区に移住させました。
ところが、移住を開始してから数年後、風土病により移住者がバタバタと倒れ、亡くなるという事件が発生しました。
風土病は移住者だけがり患し、もともとの住民は誰一人としてかかることがありません。
風土病を恐れたアネン地区への移住者は、続々とキサデア王国へと戻っていきました。
戻った移住者が風土病の病原菌を持ち込み、キサデア王国全土にこの風土病が蔓延することになります。
事態を重く見たキサデア王国は、アネン地区からの人の移動を禁止するとともに、風土病を発病した者を次々にアネン地区へ送り込みました。
これに不満を持ったアネン地区の住民がキサデア王国からの独立を宣言し、その日のうちにラメミリアへ帰属することを宣言しました。
ラメミリアにはこの風土病に対する治療と予防の方法があったからです。
正確に言えば、キサデア王国以外では治療も予防もできるのです。
風土病によって力を失ったキサデア王国に、アネン地区の住民を止める力はありませんでした。
こうして四十数年ぶりにアネン地区がラメミリアに戻ることになりました。
アネン地区がラメミリアに戻るとの報を聞いたクレスラーは、次のようにつぶやいたと言われています。
「これがIlas (イラス)を集めた結果なのだ。今後も決してIlasを軽んじてはならない」
ちなみに風土病に関してですが、キサデア王国が予防や治療の方法を持っていなかったのは次の理由のためです。
キサデア王国ではサプラというスパイスの利用が貴族だけに制限されています。
サプラには風土病の予防効果や治療効果があるのですが、キサデア王国の一般的な国民はこれを口にしていないので風土病への免疫が得られていない方が多いのです。
サプラは私たちの世界シャンロスでは割と知られている植物です。実の部分を細かく砕いてスパイスとして利用します。唐辛子に山椒を加えたような風味です。
池や湖など流れていない水辺に生える低木なのですが、キサデアでは城塞の堀を埋め尽くすために城の守りを妨害するものとして嫌われているようです。
ごく一部の貴族が持つ城塞の内側でだけ栽培されているそうで、貴族以外は栽培も売買も摂取も法律で禁止されています。
外からの旅行者にも適用されますので、シャンロスを旅行される際は十分に注意してくださいね。
クレスラーですが、大統領を二期八年務めた後に政界を引退し、隠居生活に入りました。
隠居後もドラリス・リーラス・アリーナを度々訪れてリーラスの試合を観戦するとともに、投票にも参加しました。
生前クレスラーはリーラス運営会社の従業員の前で話をする際、最後には必ずこう言いました。
「リーラスはIlasをラメミリアに集めるための事業であり、Ilasを持つ人々を敬い、守る活動です。Ilasを決して軽んじないでください」
私も一度だけこの言葉をクレスラーの口から聞いたことがあります。
Ilasに苦しみ、Ilasによって復活した彼らしい言葉であると感じると同時に、リーラスを運営する一員として背筋が伸びる思いだったのを覚えています。
そのクレスラーですが三年前の六月一三日、一〇九歳の誕生日を迎える直前に天寿を全うしました。
葬儀はラメミリア国葬として行われ、その翌日からドラリス・リーラス・アリーナの正面入口にはクレスラーの肖像画が掲示されるようになりました。
在りし日のクレスラーの姿を見てみたいという方は、正面入口を入った突き当りに肖像画が飾られているのでご覧になってみてください。
肖像画はクレスラーがリーラス運営会社を設立する少し前の四〇代半ばの頃の姿とされています。
ようやくクレスラーの物語を語り終えることができました。いかがでしたでしょうか? では!
今回もクレスラーの話の続きです。
前回はアネン地区の住民をラメミリアに呼び戻すところまでをお話ししました。
アネン地区の住民の多くがクレスラーの呼びかけに応じてラメミリアへと移動してきました。
住み慣れた土地を離れられないと残った人もいましたが、ごく少数でした。
アネン地区を占拠しているキサデア王国は、当時マナの収集のため国民に負担を強いていたといわれています。
これが多くの人がラメミリアに移ってきた要因だとされています。
クレスラーは移り住んできた者たちの中から一人の少年に目をつけました。
エア・セルの血を引くこの少年を熱心にリーラスの選手になるよう勧誘しました。
成長した少年は後になって選手選考会を通過し、見事にリーラスの選手になるのですが、これは別の機会にお話ししたいと思います。
アネン地区の住民がラメミリアに戻ってから、ラメミリアや周辺国のマナの供給状況が改善していきます。
ラメミリアの技術により送マナ効率が向上した結果、無理なマナの収集をしなくてよくなったからです。
マナの供給状況が良くなったことで、ラメミリアや周辺国は徐々に発展していきます。
隣国のキサデア王国はアネン地区の支配を絶対的なものにするために、多くの国民をアネン地区に移住させました。
ところが、移住を開始してから数年後、風土病により移住者がバタバタと倒れ、亡くなるという事件が発生しました。
風土病は移住者だけがり患し、もともとの住民は誰一人としてかかることがありません。
風土病を恐れたアネン地区への移住者は、続々とキサデア王国へと戻っていきました。
戻った移住者が風土病の病原菌を持ち込み、キサデア王国全土にこの風土病が蔓延することになります。
事態を重く見たキサデア王国は、アネン地区からの人の移動を禁止するとともに、風土病を発病した者を次々にアネン地区へ送り込みました。
これに不満を持ったアネン地区の住民がキサデア王国からの独立を宣言し、その日のうちにラメミリアへ帰属することを宣言しました。
ラメミリアにはこの風土病に対する治療と予防の方法があったからです。
正確に言えば、キサデア王国以外では治療も予防もできるのです。
風土病によって力を失ったキサデア王国に、アネン地区の住民を止める力はありませんでした。
こうして四十数年ぶりにアネン地区がラメミリアに戻ることになりました。
アネン地区がラメミリアに戻るとの報を聞いたクレスラーは、次のようにつぶやいたと言われています。
「これがIlas (イラス)を集めた結果なのだ。今後も決してIlasを軽んじてはならない」
ちなみに風土病に関してですが、キサデア王国が予防や治療の方法を持っていなかったのは次の理由のためです。
キサデア王国ではサプラというスパイスの利用が貴族だけに制限されています。
サプラには風土病の予防効果や治療効果があるのですが、キサデア王国の一般的な国民はこれを口にしていないので風土病への免疫が得られていない方が多いのです。
サプラは私たちの世界シャンロスでは割と知られている植物です。実の部分を細かく砕いてスパイスとして利用します。唐辛子に山椒を加えたような風味です。
池や湖など流れていない水辺に生える低木なのですが、キサデアでは城塞の堀を埋め尽くすために城の守りを妨害するものとして嫌われているようです。
ごく一部の貴族が持つ城塞の内側でだけ栽培されているそうで、貴族以外は栽培も売買も摂取も法律で禁止されています。
外からの旅行者にも適用されますので、シャンロスを旅行される際は十分に注意してくださいね。
クレスラーですが、大統領を二期八年務めた後に政界を引退し、隠居生活に入りました。
隠居後もドラリス・リーラス・アリーナを度々訪れてリーラスの試合を観戦するとともに、投票にも参加しました。
生前クレスラーはリーラス運営会社の従業員の前で話をする際、最後には必ずこう言いました。
「リーラスはIlasをラメミリアに集めるための事業であり、Ilasを持つ人々を敬い、守る活動です。Ilasを決して軽んじないでください」
私も一度だけこの言葉をクレスラーの口から聞いたことがあります。
Ilasに苦しみ、Ilasによって復活した彼らしい言葉であると感じると同時に、リーラスを運営する一員として背筋が伸びる思いだったのを覚えています。
そのクレスラーですが三年前の六月一三日、一〇九歳の誕生日を迎える直前に天寿を全うしました。
葬儀はラメミリア国葬として行われ、その翌日からドラリス・リーラス・アリーナの正面入口にはクレスラーの肖像画が掲示されるようになりました。
在りし日のクレスラーの姿を見てみたいという方は、正面入口を入った突き当りに肖像画が飾られているのでご覧になってみてください。
肖像画はクレスラーがリーラス運営会社を設立する少し前の四〇代半ばの頃の姿とされています。
ようやくクレスラーの物語を語り終えることができました。いかがでしたでしょうか? では!
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