上 下
140 / 154
第十二章

561:戦い終わって

しおりを挟む
 「勉強会」グループが進行を妨害しなくなってから、会談はそれまでとはうってかわってスムーズに進んだのだった。
 OP社インデスト支店はオソダの宣言以降、レイカ寄りの立場になっていたし、IMPUに至っては製品の取引契約を除けば争点そのものがなかった。
 それでも時間がオーバーしたのは、細かな調整事項が多く、その対応に時間を要したためであった。
 レイカは会談の成果についてはある程度の手ごたえを感じていたが、今後については必ずしも楽観視していなかった。
 その最大の要因はECN社が最終的にインデストとどのように関わるべきか、彼女自身その答えを見出せていなかったことにある。

 ECN社に所属している今、待遇に不満はない。
 ミヤハラやサクライがインデストとの関係について望む方向性があるのであれば、大きな問題がない限り、それに従うつもりだ。
 それが示されていないからレイカに迷いがあるのだが、彼女がミヤハラやサクライの立場であったとしてもこの点においては彼ら以上のことができたとも思えない。
 彼女について、軸がないと批判するのは容易である。
 しかし、彼女のECN社における立場は広報企画室長であり、その任務は社の活動を広く伝え、ファンを増やすことにある。
 社と他者の関係について方向性を示すことは、本来、彼女の責任範囲外である。
 その意味では今回の会談への参加も越権行為に近いのであるが、幸運なことにミヤハラやサクライはそうしたことを気にかけるタイプではなかった。
 ミヤハラとサクライの場合は、単に越権行為を咎めるのが面倒であり、かつ自分たちの仕事が減るのであればそれでよい、という態度なのだが。
 また、ECN社の社風自体が越権行為に対して寛容であるため、レイカの行動に表だって不満を示す者はなかった。
 このような状況であるため、レイカは目の前の課題に集中することを選択した。

 会談によるいくつかの決定事項により、会談終了後レイカはしばらくインデストに留まることとなった。
 これは、インデストの現状を知るため、敢えてそのようにした部分もあるのだが、レイカにとって気になることもあった。
 会談の途中から、何者かによって監視されているような視線を感じていた。
 またそれとは別に、近々何かよくないことが起きるような空気を感じた。
 論理的に説明することはできないが、インデストに留まらなければ何か決定的に不利な出来事が起こるのではないか、と感じたのである。
 本社を長期間空けることになるが、当分の間は本社に残してきたスタッフだけで対応できるはずだ。
 本社よりも現在はインデストの情勢への対応の方が重要度が高いとレイカは判断している。
 インデストからの金属材料の供給が滞れば、ECN社のほとんどの事業が影響を受けるからだ。
 いま、まさに現在進行形で影響を受けている状況であり、レイカとしてはこれを本来の状態に戻すまでが自らの役割と考えている。

 (気をつけなければ……)
 レイカが外へ出ると、既に陽は落ちていた。
 会場は街の中心に近い場所のはずだが、人通りはまばらである。
 レイカはふと、火災事故があった地熱発電所の方を見た。
 一週間後の二月十日、彼女が行くことになる場所だ。
 しかし、視界の先に発電所は見えず、真っ暗な空間が広がっているだけであった。
 (見通しは明るくないわね、気をつけなさい、レイカ!)
 レイカは自らにそう言い聞かせた後、二人の同行者とともに宿への道を急いだのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...