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第十二章
558:本題
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数十秒の沈黙の後、不意にアカシがそれを破った。
「OP社の関連会社という地位を失ったことで失われた物は何か?」
「エクザローム最大の会社を作り上げるのに貢献したという誇りだ。役に立ってない者には理解できないだろうが」
アカシの問いに対するヒキの回答は痛烈なものであった。
アカシが所属している会社が弱小であることを皮肉っているのだ。
大人げない対応ではあるが、少なくともヒキの頭の中ではそうではないようであった。
「IMPU所属企業の従業員は二万人を超える。これはECN社、OP社に次いで島内第三位の営利組織だ。IMPUの各企業が展開している事業には先がある。IMPUをECN社やOP社を超える大きな組織に育て上げる余地があるはずだ」
「……」
「このサン・アカシが代表で不足というのなら、相応しい代表を立てればよいこと。代表の交代は規程に記載されているし、『勉強会』の人数がいるのなら、代わりの代表を立てることも可能なはずだ」
アカシの訴えは真摯なものであったが、ヒキの態度は頑なであった。
「話をすり替えるな! グループの規程に反して貴様らが徒党を組んだのがそもそもの原因であろう!」
ヒキの言葉にさすがに見かねてレイカが発言を求めた。
オソダやタノダの誘いに敢えて乗ってみた、という側面もある。
「IMPUが具体的に何をすればよいか、ヒキさんの方からご教授いただけないでしょうか? 内容によっては取引先の私どもが何かお役に立てることができるかもしれません」
レイカの言葉にヒキはいったん「あんたも同類だろう」と言いかけて、口を閉じた。
相手が有名なレイカ・メルツであること、そしてレイカ自身は「タブーなきエンジニア集団」に参加していないことを考慮した結果であった。
ヒキの答えがないため、レイカはこう続けた。
「説明すべき事項も多いでしょうから、後日、IMPUさんと私どもに説明いただく機会を設ける、ということでいかがでしょうか?」
ヒキは「ずるずると引き延ばしを図ろうとは考えないことだ」といいながらもレイカの提案を受け入れた。
アカシもそれで構わないという回答であった。
ここでオオバが議題の一つを取り下げる、と宣言した。
取り下げられたのはECN社とIMPU間の鉄製品などの取引契約の破棄に関するものであったが、これに関しては先ほどレイカの提案したIMPU、「勉強会」グループ、「ECN社調達特別プロジェクトチーム」の三者会談内で話し合いたい、とのことであった。
アカシとレイカは、これを受け入れた。
「勉強会」グループのペースで会談を進められては、決まるものも決まらない。
それはレイカの望むところではなかった。
彼女は、あくまでも停滞しているインデストを動かすためにやってきた。
それがECN社の利益でもあり、OP社インデスト支店、IMPUをはじめとしたインデストの利益ともなる。
会談開始から一時間ほどが経過したが、最大の問題である電力供給不足への対応策はいまだ不十分である。
この件を会談の中心に引きずり出して一定の解決を図る必要がある、とレイカは考えていた。
新たな電力供給方法を確保するには時間がかかるため、短期的には発電技術者を拡充するのが現実的である。
ただし技術者の育成には時間がかかる。
ここで議論が停滞してしまっているのであるが、技術者の拡充について未だ検討されていない事項がある。
レイカの持っているカードは、まさにその部分に関連するところなのである。
「ところで、今、発電事業に従事していない技術者についての検討も行うべきだと思いますがいかがでしょうか?」
レイカの発言に会場の何人かは首を傾げたが、オソダやタノダはレイカの言葉を理解したようだった。
「……社を離れた技術者を呼び戻す、ということだろうか?」
タノダが恐る恐るレイカに尋ねた。
「その通りです。該当者は二万人近くに達するはずです」
レイカの指摘の通り、OP社を離れた発電技術者は多い。
OP社を離れた発電技術者の多くは治安改革部隊の隊員として、フジミ・タウンの賊やインデストで「タブーなきエンジニア集団」とアカシ率いる労働者組合と一戦交えた者であった。
その中には戦いの結果、心身を病み、やむなく職を離れた者も多く含まれていた。
これは「タブーなきエンジニア集団」も同様で、戦いの後ECN社に就職することを望まなかった者も多くいた。
OP社と事情が異なっていたのは、戦闘の直後にECN社に就職しなかった者でも、後になってECN社に馳せ参じてきた者が百名単位で存在することであった。
レイカがECN社に入社した当時、総務人事を統括するマコト・トミシマが「タブーなきエンジニア集団」からECN社へ移籍しなかった者について、その理由を調査していた。
そこで心身を病んだ者が多いことを知ったトミシマは、彼らの社会復帰の支援を行ったらどうかとミヤハラに提案したのである。
トミシマが支援プログラムを策定する一方で、レイカはメディットの協力を取りつけ、プログラムについて医学的な根拠のあるものへと改良していった。
ECN社は約七千万ポイントの資金をメディットに投じ、彼らのリハビリについてソフト、ハードの両面から支援したのである。
「これは私ども『ECN社調達特別プロジェクトチーム』ではなく、ECN社として実施したことですが、心身に傷を負い、やむなく仕事を離れた方などに向けた社会復帰のためのプログラムをメディットと共同で開発しました。既に数百名の復帰実績があり、OP社様を離れた技術者の方にも有効だと思われます」
レイカの言葉にオソダがタノダの方を見やった。
地位は上でも、オソダの権限はあくまでもインデスト支店内に限定される。
一方でタノダは総務部長の経験もあり、こうした人材戦略の部分については専門知識と権限の双方を有している。
「少なくとも本社の資金には余裕があるはず。事業部長、対応できますか?」
オソダがタノダに尋ねた。
その声は静かであったが、反論を許さない強さがあった。
「OP社の関連会社という地位を失ったことで失われた物は何か?」
「エクザローム最大の会社を作り上げるのに貢献したという誇りだ。役に立ってない者には理解できないだろうが」
アカシの問いに対するヒキの回答は痛烈なものであった。
アカシが所属している会社が弱小であることを皮肉っているのだ。
大人げない対応ではあるが、少なくともヒキの頭の中ではそうではないようであった。
「IMPU所属企業の従業員は二万人を超える。これはECN社、OP社に次いで島内第三位の営利組織だ。IMPUの各企業が展開している事業には先がある。IMPUをECN社やOP社を超える大きな組織に育て上げる余地があるはずだ」
「……」
「このサン・アカシが代表で不足というのなら、相応しい代表を立てればよいこと。代表の交代は規程に記載されているし、『勉強会』の人数がいるのなら、代わりの代表を立てることも可能なはずだ」
アカシの訴えは真摯なものであったが、ヒキの態度は頑なであった。
「話をすり替えるな! グループの規程に反して貴様らが徒党を組んだのがそもそもの原因であろう!」
ヒキの言葉にさすがに見かねてレイカが発言を求めた。
オソダやタノダの誘いに敢えて乗ってみた、という側面もある。
「IMPUが具体的に何をすればよいか、ヒキさんの方からご教授いただけないでしょうか? 内容によっては取引先の私どもが何かお役に立てることができるかもしれません」
レイカの言葉にヒキはいったん「あんたも同類だろう」と言いかけて、口を閉じた。
相手が有名なレイカ・メルツであること、そしてレイカ自身は「タブーなきエンジニア集団」に参加していないことを考慮した結果であった。
ヒキの答えがないため、レイカはこう続けた。
「説明すべき事項も多いでしょうから、後日、IMPUさんと私どもに説明いただく機会を設ける、ということでいかがでしょうか?」
ヒキは「ずるずると引き延ばしを図ろうとは考えないことだ」といいながらもレイカの提案を受け入れた。
アカシもそれで構わないという回答であった。
ここでオオバが議題の一つを取り下げる、と宣言した。
取り下げられたのはECN社とIMPU間の鉄製品などの取引契約の破棄に関するものであったが、これに関しては先ほどレイカの提案したIMPU、「勉強会」グループ、「ECN社調達特別プロジェクトチーム」の三者会談内で話し合いたい、とのことであった。
アカシとレイカは、これを受け入れた。
「勉強会」グループのペースで会談を進められては、決まるものも決まらない。
それはレイカの望むところではなかった。
彼女は、あくまでも停滞しているインデストを動かすためにやってきた。
それがECN社の利益でもあり、OP社インデスト支店、IMPUをはじめとしたインデストの利益ともなる。
会談開始から一時間ほどが経過したが、最大の問題である電力供給不足への対応策はいまだ不十分である。
この件を会談の中心に引きずり出して一定の解決を図る必要がある、とレイカは考えていた。
新たな電力供給方法を確保するには時間がかかるため、短期的には発電技術者を拡充するのが現実的である。
ただし技術者の育成には時間がかかる。
ここで議論が停滞してしまっているのであるが、技術者の拡充について未だ検討されていない事項がある。
レイカの持っているカードは、まさにその部分に関連するところなのである。
「ところで、今、発電事業に従事していない技術者についての検討も行うべきだと思いますがいかがでしょうか?」
レイカの発言に会場の何人かは首を傾げたが、オソダやタノダはレイカの言葉を理解したようだった。
「……社を離れた技術者を呼び戻す、ということだろうか?」
タノダが恐る恐るレイカに尋ねた。
「その通りです。該当者は二万人近くに達するはずです」
レイカの指摘の通り、OP社を離れた発電技術者は多い。
OP社を離れた発電技術者の多くは治安改革部隊の隊員として、フジミ・タウンの賊やインデストで「タブーなきエンジニア集団」とアカシ率いる労働者組合と一戦交えた者であった。
その中には戦いの結果、心身を病み、やむなく職を離れた者も多く含まれていた。
これは「タブーなきエンジニア集団」も同様で、戦いの後ECN社に就職することを望まなかった者も多くいた。
OP社と事情が異なっていたのは、戦闘の直後にECN社に就職しなかった者でも、後になってECN社に馳せ参じてきた者が百名単位で存在することであった。
レイカがECN社に入社した当時、総務人事を統括するマコト・トミシマが「タブーなきエンジニア集団」からECN社へ移籍しなかった者について、その理由を調査していた。
そこで心身を病んだ者が多いことを知ったトミシマは、彼らの社会復帰の支援を行ったらどうかとミヤハラに提案したのである。
トミシマが支援プログラムを策定する一方で、レイカはメディットの協力を取りつけ、プログラムについて医学的な根拠のあるものへと改良していった。
ECN社は約七千万ポイントの資金をメディットに投じ、彼らのリハビリについてソフト、ハードの両面から支援したのである。
「これは私ども『ECN社調達特別プロジェクトチーム』ではなく、ECN社として実施したことですが、心身に傷を負い、やむなく仕事を離れた方などに向けた社会復帰のためのプログラムをメディットと共同で開発しました。既に数百名の復帰実績があり、OP社様を離れた技術者の方にも有効だと思われます」
レイカの言葉にオソダがタノダの方を見やった。
地位は上でも、オソダの権限はあくまでもインデスト支店内に限定される。
一方でタノダは総務部長の経験もあり、こうした人材戦略の部分については専門知識と権限の双方を有している。
「少なくとも本社の資金には余裕があるはず。事業部長、対応できますか?」
オソダがタノダに尋ねた。
その声は静かであったが、反論を許さない強さがあった。
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