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第十二章

556:温度差

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 昨年末から停滞していた地熱発電所の火災事故の原因調査については、これで一定の解決を見た。
 しかし、電力不足の問題はこれで解決したわけではない。
 今の決定内容ではIMPUの生産能力を十分確保できるだけの電力の供給は期待できない。
 また、市民生活に対する影響も大きく残るであろう。
 発電関係の技術者不足が現在の状況を招いている以上、技術者の増員かその能力の大幅な増強、もしくは有力な代替発電手段が確保できない限り、問題の解決は困難である。
「発電技術者というのは、育成にどのくらい期間がかかるものなのだろうか? うちのメンバーで希望する者を訓練してモノにできるのであれば、うちから人員を派遣できるかもしれないが」
 アカシがそう発言したが、タノダが少なくとも五年はかかると首を横に振った。
 通常、発電技術者になるためには、職業学校の発電技術者コースで三年の教育を受けた後、OP社などの発電事業者で実務経験を数年積んでようやく技術者として一人前になる。
 IMPU所属企業の従業員に発電技術の専門的教育を受けた者は皆無に近いため、アカシの提案は短期的には効果を持たないであろうことは明白であった。

「まったく、社の規程に反して組合を作ったり、それに協力する集団などがいなければ、このようなことにはならなかったのだ。当事者たちはそれに対する反省があるのか?! 反省があれば普通は誠意を見せるものだが、最近の連中は……」
 ヒキがアカシと「タブーなきエンジニア集団」の責任を追及する姿勢を見せた。
「タブーなきエンジニア集団」については、関係者が会談の場にいないため、必然的に出席者の視線がアカシに集まる。

(それにしても、「勉強会」グループのアカシ代表嫌いは相当なもののようね。状況を考えれば無理もないけど……)
 ヒキの発言でレイカは「勉強会」グループについて一つの確信を得た。
(彼らはアカシ代表嫌い、という点を除けばその意思は決して統一されていない)
 レイカはヒキの発言時のイオの反応を見逃していなかった。
 ほんの一瞬ではあるが、イオは「いい加減にしてくれよ」という表情を見せたのだ。
 地熱発電所の事故原因調査に対する執拗さとは、明らかに異なっていた。
 少なくともイオは事故原因調査を「勉強会」グループに担当させることについては、異常なまでの執着を示していた。
 ヒキについては「誠意」の方に興味があるように思える。
 そして、その「誠意」についてはレイカに心当たりがあった。
 アカシは、OP社の関連会社の若手作業員には絶大な人気がある一方で、OP社の社員や年長者には彼を嫌う者も多い。
 アカシがIMPUの代表に就任してから実施したことといえば、ECN社との鉱工業製品取引契約の締結、IMPU所属企業間の取引に関するルールの策定、インデスト=ポータル・シティ間の鉄道建設のための調査などである。
 こうしたアカシの活動は公平であるが、OP社や年長者の立場をある程度考慮した形で行われていた。
 この「公平」の部分がヒキなど年長の者や、OP社の従業員に受け入れられなかったのだろう。
 OP社の社員や年長者が立場を利用して、相手から不当な恩恵を得ていた可能性は十分に考えられる。
 事前にレイカが収集した情報の中には、そうした不正が存在することを示唆するものがあったからだ。

 インデストはポータル・シティなどの他の都市から遠く、他の都市との人の往来も多くはないから、こうした不正が明るみには出にくい。
 しかし、アカシがIMPUの代表の座に就いたため、彼らが不当な恩恵を得ることが難しくなったのだろう。
 (でも、ハドリ社長がインデストの内情を知ったなら、彼らにとっては今より悪い結果になったように思えるわね。彼らはそう考えていないみたいだけど……)
 レイカの知る限り、ハドリはこうした一部の者が不当に恩恵を得るような状況を許容すするような人物ではなかった。
 ハドリの目から見て役立つ者には気前よく与えるものは与えたが、そうでない者、特にハドリの目を盗んで不当な利益を得ようとする者に対しては、非常に厳しい。
 それを証拠づけるようなエピソードは、社外のレイカの耳にも嫌というほど入ってきていた。
 色々と問題も多い人物ではあったが、少なくともこの手の行為についてハドリは厳正に対処してきたとレイカには思われたし、その点は評価している。
 だが、その影響力も遠く離れたインデストには及ばなかった、ということだろう。
 (もしかしたら、ハドリ社長のインデストへの介入を招くような事態を引き起こしたこと、ハドリ社長亡き今、彼らを公平に扱っていること、これらの二重の意味でアカシ代表への鬱憤が溜まっているのかもしれないわね……)
 レイカは隣に座っているヤマノシタに、IMPUのメンバーが何か発言する姿勢を見せたら、それを遮って「誠意」とは何か質問するようにメモで指示した。
 ヤマノシタがレイカの指示にうなずき、周囲を見回した。
 最初に発言を求めるとしたらアカシだと思われたが、それよりも早く動いた者がいた。
 皆の視線が動いた者の方に集まった。
 発言を求めるため挙手したのはトーカMC社社長のルマリィであった。
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