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第十二章
553:会談開始
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OP社インデスト支店の社員が控室に開始時刻が近付いていることを伝えにやってきた。
レイカはキザシ、ヤマノシタの二人を従えて会議室へ向かう。
レイカとヤマノシタは「ECN社調達特別プロジェクトチーム」と書かれた席へ、書記役のキザシは議長席の脇に腰を下ろした。
遅れてIMPU、OP社、「勉強会」グループの順で会議室へと入場してきた。
(始まるわね。最初はOP社の電力供給の話、最初からポイントね……)
間もなく開始を知らせるベルが鳴らされた。
LH五二年二月三日一四時ちょうど、シトリにより会談の開始が宣言された。
まず、レイカが出席者に向けて会談参加への謝意を示した。
その後、議事進行役から会談の進行についての説明が行われた。
最初の議題はインデストにおける電力供給不足についてであった。
OP社発電事業部長のタノダによる電力供給の現状と今後の見通しの説明であった。
レイカはタノダと面識はなかったが、その顔は知っていた。
タノダは以前OP社の総務部長を務めており、OP社による対外発表は大抵彼によって行われていたためだ。
タノダの説明によれば、原因は技術者数の不足による発電、および送電効率の低下であり、技術者の数は四年前の六割を割り込んでいるとのことである。
インデストを除いた地域でも技術者不足は深刻で、やはり四年前の七割程度の水準とのことであった。
インデスト以外の地域では、超過勤務による労働時間の増加で何とか供給量が需要量を上回っているが、こちらも余力はないとのことであった。
これに対して「勉強会」グループが、「OP社グループ労働者組合」が「タブーなきエンジニア集団」と徒党を組みOP社と武力衝突した件について、「OP社グループ労働者組合」と「タブーなきエンジニア集団」を糾弾した。
「そもそも、そちらのアカシ代表がグループの規程に背いて徒党を組むことをしなければ、電力供給不足の原因は発生しなかったのだ。その意味でその責任は全面的に組合と『タブーなきエンジニア集団』なる狼藉者の集団にあるということを認識していただきたい。すなわち、OP社は完全な被害者であり、その責はそれぞれの頭目が率いている集団、すなわちIMPUとECN社が全面的に負う、会談はこれを大前提としなければならない」
「勉強会」グループ代表のオオバの口調は物静かであったが、その言葉は過激極まりないものであった。
レイカがルマリィの方に目をやった。
レイカには彼女の表情が「また、この人は……」と言っているように見えた。
(予想通りだけど、不毛な議論にならないよう注意が必要ね……)
レイカがそう考えていると、IMPUからサカデが発言を求めた。
「責任を明確にするのは重要ですが、OP社が十分な電力供給をするために必要なものを明らかにすることが先でしょう。タノダ部長、必要な資源とその量のデータはありますか?」
電力事業に関わっていないとはいえ、OP社の元社員であるサカデの言葉はそれなりの効果があったようだ。
OP社インデスト支店側から必要資源について説明させてほしい、との要望が出され、発電技術チームのオモテという初老の男が説明を始めた。
このオモテという人物が現場を最もよく知っているようであった。
説明によれば、現状の発電能力を恒久的に維持するのに五〇〇名程度、現在の需要に十分対応するためには二~三千名程度、理想は五千名程度の技術者の増員が必要、とのことであった。
また、発電、送電設備をメンテナンスする部品の供給も不十分であるが、これは鉄鋼関係の生産が回復すれば解消すると考えているようだ。
レイカはECN社から動かせる発電技術者の数は最大で一五〇〇名程度で、期間的には二年程度が限界だと考えていた。
本来ならECN社の本拠地ハモネスに近いポータル・シティなどに技術者を派遣し、OP社インデスト支店から派遣されている技術者と置き換えるのが一番容易な方法であるはずだった。
しかし、ECN社がOP社に技術者を派遣したところで、インデストから派遣されたOP社の技術者がインデストに戻されるという保証はない。
実際に昨年の一二月、ECN社は一千名の発電技術者をOP社本社に派遣している。
これにより、OP社インデスト支店から本社に派遣されていた技術者の一部をインデストに戻すはずだったのだが、現在までインデストに戻された者はごくわずかであった。戻す際に離脱者が続出したためである。
このこと自体はレイカの予測の範疇にあった。
だからこそ、派遣可能な人員の六割を手元に残していたのである。
ECN社の立場としては、長期的な視点でインデストの鉄鋼関連の生産が回復しないことには、自社の事業に影響が出てしまう。
インデストの鉄鋼生産が停滞している原因が電力不足であり、インデストの発電技術者数が回復しない限り、ECN社の希望は叶えられそうにないのだ。
レイカはOP社インデスト支店へ確実に技術者を送り込むため、策を講じた。
今回の会談でレイカが所属しているチーム名がその答えである。
OP社のトップであるノブヤ・ヤマガタは規則や慣習に忠実な人柄で、堅苦しい人物であることで知られている。
この堅苦しさは他人に対してだけではなく、自分自身に対しても適用されるということも、OP社に送り込んだモリタなどから情報を得ていた。
ECN社の一プロジェクトチームがOP社の一部門と交渉するにあたって、恐らくヤマガタは割り込まないであろう、というのがレイカの計算であった。
こちらが一プロジェクトチームであれば、部門レベルで対応するのが筋である。
そしてレイカの読み通り、ヤマガタは対応をインデスト支店に一任したのである。
インデスト支店に他部門の人事権はないであろうから、インデスト支店が技術者を受け入れるのであれば、支店内ということになる。
インデスト支店が技術者不足に喘いでいるのは事実であり、喉から手が出るほど技術者が欲しい状況である。
インデスト支店に直接技術者派遣の申し出があるのであれば、支店の立場でも受け入れやすい。
そして、今回のケースでは事前にOP社本社に話がなされており、本社から支店に一任という回答が得られているため、支店側の対応は容易なはずであった。
レイカはキザシ、ヤマノシタの二人を従えて会議室へ向かう。
レイカとヤマノシタは「ECN社調達特別プロジェクトチーム」と書かれた席へ、書記役のキザシは議長席の脇に腰を下ろした。
遅れてIMPU、OP社、「勉強会」グループの順で会議室へと入場してきた。
(始まるわね。最初はOP社の電力供給の話、最初からポイントね……)
間もなく開始を知らせるベルが鳴らされた。
LH五二年二月三日一四時ちょうど、シトリにより会談の開始が宣言された。
まず、レイカが出席者に向けて会談参加への謝意を示した。
その後、議事進行役から会談の進行についての説明が行われた。
最初の議題はインデストにおける電力供給不足についてであった。
OP社発電事業部長のタノダによる電力供給の現状と今後の見通しの説明であった。
レイカはタノダと面識はなかったが、その顔は知っていた。
タノダは以前OP社の総務部長を務めており、OP社による対外発表は大抵彼によって行われていたためだ。
タノダの説明によれば、原因は技術者数の不足による発電、および送電効率の低下であり、技術者の数は四年前の六割を割り込んでいるとのことである。
インデストを除いた地域でも技術者不足は深刻で、やはり四年前の七割程度の水準とのことであった。
インデスト以外の地域では、超過勤務による労働時間の増加で何とか供給量が需要量を上回っているが、こちらも余力はないとのことであった。
これに対して「勉強会」グループが、「OP社グループ労働者組合」が「タブーなきエンジニア集団」と徒党を組みOP社と武力衝突した件について、「OP社グループ労働者組合」と「タブーなきエンジニア集団」を糾弾した。
「そもそも、そちらのアカシ代表がグループの規程に背いて徒党を組むことをしなければ、電力供給不足の原因は発生しなかったのだ。その意味でその責任は全面的に組合と『タブーなきエンジニア集団』なる狼藉者の集団にあるということを認識していただきたい。すなわち、OP社は完全な被害者であり、その責はそれぞれの頭目が率いている集団、すなわちIMPUとECN社が全面的に負う、会談はこれを大前提としなければならない」
「勉強会」グループ代表のオオバの口調は物静かであったが、その言葉は過激極まりないものであった。
レイカがルマリィの方に目をやった。
レイカには彼女の表情が「また、この人は……」と言っているように見えた。
(予想通りだけど、不毛な議論にならないよう注意が必要ね……)
レイカがそう考えていると、IMPUからサカデが発言を求めた。
「責任を明確にするのは重要ですが、OP社が十分な電力供給をするために必要なものを明らかにすることが先でしょう。タノダ部長、必要な資源とその量のデータはありますか?」
電力事業に関わっていないとはいえ、OP社の元社員であるサカデの言葉はそれなりの効果があったようだ。
OP社インデスト支店側から必要資源について説明させてほしい、との要望が出され、発電技術チームのオモテという初老の男が説明を始めた。
このオモテという人物が現場を最もよく知っているようであった。
説明によれば、現状の発電能力を恒久的に維持するのに五〇〇名程度、現在の需要に十分対応するためには二~三千名程度、理想は五千名程度の技術者の増員が必要、とのことであった。
また、発電、送電設備をメンテナンスする部品の供給も不十分であるが、これは鉄鋼関係の生産が回復すれば解消すると考えているようだ。
レイカはECN社から動かせる発電技術者の数は最大で一五〇〇名程度で、期間的には二年程度が限界だと考えていた。
本来ならECN社の本拠地ハモネスに近いポータル・シティなどに技術者を派遣し、OP社インデスト支店から派遣されている技術者と置き換えるのが一番容易な方法であるはずだった。
しかし、ECN社がOP社に技術者を派遣したところで、インデストから派遣されたOP社の技術者がインデストに戻されるという保証はない。
実際に昨年の一二月、ECN社は一千名の発電技術者をOP社本社に派遣している。
これにより、OP社インデスト支店から本社に派遣されていた技術者の一部をインデストに戻すはずだったのだが、現在までインデストに戻された者はごくわずかであった。戻す際に離脱者が続出したためである。
このこと自体はレイカの予測の範疇にあった。
だからこそ、派遣可能な人員の六割を手元に残していたのである。
ECN社の立場としては、長期的な視点でインデストの鉄鋼関連の生産が回復しないことには、自社の事業に影響が出てしまう。
インデストの鉄鋼生産が停滞している原因が電力不足であり、インデストの発電技術者数が回復しない限り、ECN社の希望は叶えられそうにないのだ。
レイカはOP社インデスト支店へ確実に技術者を送り込むため、策を講じた。
今回の会談でレイカが所属しているチーム名がその答えである。
OP社のトップであるノブヤ・ヤマガタは規則や慣習に忠実な人柄で、堅苦しい人物であることで知られている。
この堅苦しさは他人に対してだけではなく、自分自身に対しても適用されるということも、OP社に送り込んだモリタなどから情報を得ていた。
ECN社の一プロジェクトチームがOP社の一部門と交渉するにあたって、恐らくヤマガタは割り込まないであろう、というのがレイカの計算であった。
こちらが一プロジェクトチームであれば、部門レベルで対応するのが筋である。
そしてレイカの読み通り、ヤマガタは対応をインデスト支店に一任したのである。
インデスト支店に他部門の人事権はないであろうから、インデスト支店が技術者を受け入れるのであれば、支店内ということになる。
インデスト支店が技術者不足に喘いでいるのは事実であり、喉から手が出るほど技術者が欲しい状況である。
インデスト支店に直接技術者派遣の申し出があるのであれば、支店の立場でも受け入れやすい。
そして、今回のケースでは事前にOP社本社に話がなされており、本社から支店に一任という回答が得られているため、支店側の対応は容易なはずであった。
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