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第十二章

549:四者会談

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 LH五二年二月三日の昼過ぎ、ECN社広報企画室長レイカ・メルツの姿はインデスト市内のホテルの一室にあった。

「そろそろ行きましょう」
 レイカは部屋にいた二人の男性社員に告げた。
 彼女に同行していたのは男性七名であったが、会談にはそのうち二人だけを同行させることを決めていた。
 これは他社や他団体の出席者数とあまり差をつけないように配慮した結果である。

 会談の出席者は次のようになっていた。
 IMPUからは、代表のサン・アカシ、理事のナナミ・サカデ、若手グループからルマリィ・カイト、ミア・シトリの二名の計四名。
 OP社インデスト支店からは、支店長代理ナオノリ・オソダ、発電事業部長アキヨシ・タノダ、発電技術チームのチシン・オモテの計三名。
 「勉強会」グループからは、代表のヒロスミ・オオバ、長老のキンノジョウ・ヒキ、若手からマキオ・イラ・イオ、セイガ・ブナイの二名の計四名、
 ECN社は名義を「ECN社調達特別プロジェクトチーム」としている。こちらからは、広報企画室長のレイカ・メルツ、総務からリョウ・キザシ、ミツヒロ・ヤマノシタの二名の計三名。
 このうち、進行役はイオとシトリの二名、書記役はブナイ、キザシの二名がそれぞれ務めることとなっていた。
 トーカMC社の二名は、参加メンバーの中にあって異彩を放っている。
 他のメンバーの選出理由は比較的明らかであるが、この両名に関してはそれがはっきりしない。
 彼女らをメンバーに選ばなければならないという状況が、アカシの立場の不安定さを示している。

 IMPUの幹部、特にIMPU運営の中枢部のメンバーは、必ずしもアカシと意見を同じにしている訳ではない。
 原因の一端にアカシがIMPUの代表に着任する際、彼が率いていた「OP社グループ労働者組合」のメンバーをIMPUの幹部として迎え入れることをしなかったことが挙げられる。
 「OP社グループ労働者組合」による独裁と言われることをアカシが嫌ったこともあるが、それ以上に労働組合とIMPUではその性格がかなり異なる点を重視していた。
 IMPUは経営側、労働者組合はあくまで経営を監視する側、とアカシは捉えている。
 そして、アカシの見る限り、労働者組合に経営側の仕事が務まる人材はほとんど見当たらなかった。
 これは能力の問題というより、労働者組合のメンバーに経営や管理の経験が乏しいことが原因であった。
 アカシの側でも、労働者組合の有望な若手に経営や管理の経験を積ませたいという考えはあったが、これにはIMPU内部から待ったがかかった。
 IMPUの幹部で比較的考えがアカシに近いのは、労働者組合から理事となったタマノという老人のみだが、彼が会談の場に出ることにIMPU内部から反対の声があがったのだった。
 五人しかいない理事が三人も会談の場に出る必要はない、というのが表向きの理由であったが、旧労働者組合のメンバーが勝手に外部の機関と物事を決めてしまっては困る、というのが本音だろう。

 IMPU参加企業の思惑にはかなり差があるので、皆が納得する人選は非常に困難である。
 サカデは、この難題をクリアできる数少ない人物であった。
 OP社で生産管理の業務に就いていた彼女は、IMPU参加企業のいずれともコネクションを持っていなかった。
 そして、IMPUにはOP社を辞して参加しており、IMPUでは数少ない所属企業のないIMPU専属のメンバーである。
 このため、特定の企業の便益を図る危険が少ないと判断されたのだ。
 融通が利かない面はあるが、確かにこの点においてサカデは文句がつけられないほど公正であった。

 しかし、他の者はそうはいかない。
 アカシですら、ウサミメタルというOP社のもと関連会社の従業員である。
 特定企業の便益を図らない、という視点からの適任者……
 ここで白羽の矢が立ったのがトーカMC社である。
 そして実際に理事の一人、トクキ・ワジマがトーカMC社を参加させたらどうか、と提案したのだ。

 ワジマはOP社の関連会社としては老舗の部類に入る企業の出身である
 ワジマ自身はアカシと同じ年齢の若手であるが、実態はこうした老舗企業に属するベテランの意見を伝えるための傀儡にすぎない。
 ワジマの提案も実態はこうしたベテランの意見であり、ワジマ自身のそれではない。
 しかし、それがゆえにアカシとしても無視できない。
 こうしたベテランの支持がなければ、IMPUの運営が成り立たないことはアカシも十分すぎるほど理解している。
 また、意見を出した者の思惑はともかく、トーカMC社の参加は交渉の公平性確保の観点から有効だとアカシには思えた。
 トーカMC社のメインの事業は、運送会社が利用する簡易宿泊施設の運営管理であり、IMPU参加企業の大部分、特に鉄鉱石の採掘に関連する企業とは直接的な取引を持たない。
 また、社長のルマリィ・カイトは、昨年五月の「オーシャンリゾート」の爆発事件での負傷者ということでマスコミに注目される立場である。
 特定の者の便益を図らず、かつそれを監視できる存在、アカシがトーカMC社に期待したのはまさにこの点であった。
 ただし、トーカMC社の立場は最大限考慮する必要がある。
 会談が不調に終わった場合は、トーカMC社に必要以上の責任が及ぶ可能性がある。
 これはむしろアカシの支持層について、懸念すべき事柄である。
 アカシやサカデがこのようなことを許容するわけがないのだが、アカシの立場が悪くなることを懸念して他に責任を転嫁しようとする者がいても不思議ではないからだ。

 トーカMC社にルマリィの参加を打診したところ、ルマリィはミア・シトリの同行を条件に参加を承諾した。
 ルマリィは必ずしも彼女の参加を求めた者たちの意図を理解していなかったが、ただならぬ事態であることは感じていたからだ。
 アカシはルマリィの提示した条件を持って、IMPU内を奔走した。
 若い自分が年長者を納得させるには、自らが走り回ることが有効であることをアカシは理解していた。
 彼女らの立場を悪くしないよう、トーカMC社から議事進行役を出す、としたのはアカシなりの気遣いであった。
 一社から二名の参加は、IMPUの他の企業に睨まれる恐れがあったが、これであれば意見を述べることができるのは議事進行をしていない一名のみである。
 この主張でアカシはIMPU内部の合意を取り付け、無事に会談に臨めることとなった。
 これがルマリィとシトリの両名が参加者に名を連ねることとなった経緯であった。
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