ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十二章

548:「判定者」サファイア

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 ゴールドとリードの会話が続く中、サファイアは一人端末と格闘していた。
 彼らの会話よりも興味を持っている対象があったためだ。
 彼女は自ら積極的な意思を持って「判定者とその支援者」の組織に参加したわけではなかった。
 ダイヤに誘われた際も、あまり乗り気でなかった。
 しかし、組織で触れることのできる情報の多さは彼女にとって魅力的であった。
 また、事件の真相や犯人については興味がある。
 それらが決め手となって、彼女は組織への参加を決めた。
(ずいぶんインデストに多く集まったものね。果たして、逃げられるのかしら?)
 もしサファイアが表情豊かであれば、いたずら好きな少年が新しいいたずらを仕掛けた時のような表情を浮かべたであろう。だが、残念ながら彼女はお世辞にも表情豊かとはいえなかった。

 サファイアが見るに、彼女の所属する「判定者とその支援者」へ参加している者たちは微妙に異なる目的を持っているように思われる。
 ただ、目的の大きな方向として、組織が結成されるきっかけとなった事件の加害者に制裁を加えること、がある。
 事件の加害者がその制裁の被害者となるとき、彼らはどういう動きを見せるのだろうか?
 制裁そのものに興味はなかったが、その制裁が彼らに与える影響については興味がある。

 制裁を加えられるのが「判定者とその支援者」の他にいないことは明白であった。
 OP社が治安改革事業から手を引いて以降、サブマリン島には司法警察権を持つ公的機関がない。
 企業などの組織に属している者であれば、組織の持つ規程に基づいた罰則が加えられる可能性はある。
 しかし、今回のケースでは既に事件から二〇年以上が経過しているため、それだけの期間を遡って処罰することは考えにくい。
 事件そのものは決して広く知られているわけではないから、被害者が立ち上がらない限り、加害者に制裁を加えることはできない。
 この点から考えれば、アレクの主張は理にかなっている。
 サファイアにはそれが理解できるが、腑に落ちない部分もある。
 アレクは「裁かれた事実を公にし、次の犯罪を防止したい」と常日頃主張している。
 サファイアが疑問に思っているのは、まさにこの部分であった。

 彼女が気にしているのは、主に次の二つの点であった。
 一つ目は、そもそも裁かれた事実が次なる犯罪者予備軍に対して、彼らが犯罪に走ることを抑止する効果を持ちえるのか、という点。
 二つ目は、裁かれる相手、裁く相手が適切なのか、という点である。
 一つ目の疑問に関しては、実際に裁かれた時の挙動で判断できるだろうと考えている。
 二つ目に関しては、サファイア自身もどう確認すればよいかよくわからない。
 二つ目はサファイアが特に気にしている部分である。
 加害者を処罰することに異存はないが、その罰は適切な者に与えられなければ意味がない。
 ダイヤやアレクの調査が誤っているとは思えないが、何か漏れや抜けのようなものがあるのではないか、という気がしている。
 サファイアが見る限り、判定を受けさせる者に小物が多く、とても大それたことができそうなメンバーに見えないのだ。
 事件から二〇年以上経過していることから、大物は既にこの世にいないのかもしれない。
 認知症を患っており、既に余命いくばくもない相手もいるのだ、既に死去している者があっても何の不思議もない。
 サファイアもサブマリン島に住む人々の年齢構成のことについては、おおよそのことがわかっている。
 事件が起きたのが二〇年以上前であり、その時点ではサブマリン島生まれの者は最年長でも一〇歳そこそこである。事件の内容から考えても、まず加害者とはなり得ないだろう。
 また、ルナ・ヘヴンス生まれの者は、事件当時二〇才から三〇才くらいの年代である。
 事件の加害者にはなり得るかもしれないが、アレクから説明のあった事件の背景を考えると、これらの世代が加害者の中枢であったとはやはり考えにくい。
 長期間の経験に基づくような狡猾さ、これを感じるのである。
 地球生まれの場合、ルナ・ヘヴンスには一八歳未満の者がほとんど乗りこんでいない。
 これを考えると、事件当時の彼らの年齢は概ね五〇歳かそれ以上、現在なら概ね七〇歳以上である。
 そして、ごく少数のルナ・ヘヴンス生まれの世代を除けば、判定対象者の多くが七〇歳前後の者である。
 七〇歳前後の判定対象者に小物が多いということは、大物はそれ以上の年齢ではないか、とサファイアには思われるのである。
 既に亡くなっている者もいるだろうが、八〇歳を超えて生きている者も決して少なくない。
 ルナ・ヘヴンスに乗っていた者は他の者と比較して老化が三~五年程度遅れて進行している、と指摘する学者もいるくらいだ、事件の中枢にいた人物が生きていてもおかしくないのではないか?
(あまり小物を相手にしていると、大物に逃げられはしないだろうか……?)
 そうは考えているが、サファイアには敢えてダイヤやアレクに意見するつもりがない。

 サファイアには、あくまでも判定の主役はダイヤやアレクであって、自分ではないというような意識がある。
 サファイアは判定の対象となる事件の直接の被害者ではある。
 ただ、事件そのものの記憶はあっても、それが何者によってもたらされたか、そしてその目的が何であったか、ということについてはほとんど考えたこともなかったし、敢えて追求しようとも思わなかった。
 それが昨年の夏、二人の女性が彼女のもとを訪れてから事情が変わった。
 当時、彼女はインデストにある観光案内会社に勤務していた。
 観光案内会社、といっても、実態は主にインデストとポータル・シティなどを行き来する運送関係者に対して宿やカジノや飲み屋などの予約を代行することと、インデストの住宅地図を作製するのが主な仕事で、観光客を相手にすることはほとんどなかった。
 これはフジミ・タウンに潜んでいた賊の影響で、他都市から遠く離れたインデストまでわざわざ危険を冒して物見遊山に耽るだけの余裕のある物好きなどごく少数だったためだ。
 ただでさえ少ない仕事が、OP社と「タブーなきエンジニア集団」による戦闘や「オーシャンリゾート」の爆発事件、そして運送業者自身による配達員へのサポートの強化などから、昨年に入って以降激減してしまったのだ。
 地図や旅館のデータベースを管理する仕事は辛うじて残っているが、わざわざ社に出向いてまでする仕事ではない、ということになり、それまで平日毎日通っていた会社は、月に二回だけ顔を出せばよくなった。
 そうした時期にダイヤとアレクの二人が、サファイアのもとを訪れたのだった。
 仕事が暇な分時間はある。
 そして、当面の仕事に支障のある活動ではなさそうだ、という決して積極的とはいえない理由で彼女は「判定者とその支援者」組織への参加を決めたのだった。
 こうした事情も、彼女が一歩引いた位置から組織を見る視点を持つ要因となったかもしれなかった。

(恐らく近いうちに会談は行われる……
 まずは、彼らとIMPU、OP社、そしてECN社との関係がどうなるか、ね)
 しかし、彼女は自らの胸の内を誰にも明かすことをしなかった。
「勉強会」グループ、IMPU、OP社インデスト支店、そしてECN社の会談が二月三日の午後二時から開催される、とサファイアに伝えられたのは、深夜になってからであった。
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