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第十二章
527:ロビーの心配の種
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ホンゴウが「とぉえんてぃ? ず」の三人に「東部探索隊」への参加のきっかけを話しているのと同じ頃、アイネスとロビーの姿は小高い丘のような場所の上にあった。
ホンゴウが言うとおり確かに平らな場所で、ある程度の大きさを持った建物を建てることができそうであった。
「どうでしょうか?」
「問題ないと思う。アイネスさん、休憩施設の建設候補地として計測と記録をお願いします」
アイネスの問いかけに対して、ロビーは即座に承認の意を示した。
アイネスは手にした計測器と端末で、てきぱきと計測と記録を進めていく。
「ところでアイネスさん、ちょっと聞きたいんだけど」
「何でしょう?」
アイネスが手を止めてロビーの方を向いた。
「あの二人……カネサキ先輩とオオイダ先輩ですが、実際のところどうなんでしょう?」
「と、言いますと?」
「アイネスさんも知っているとおり、戻ったら第二隊を派遣するつもりだけど、それまでにあの二人は回復できるだろうか?」
あえてロビーは一番心配な相手を避けた。
あくまでも一番気になるのはセスであったが、彼についてはアイネスもよい返事ができないだろうことはロビーも十分承知している。
そして、よくない返事が出るたびに、セスの可能性が減るように思えて仕方なかったのだ。
「二人とも戻ったら念のため検査を受けてもらうことを推奨します。その結果にもよりますが、恐らくオオイダさんの方は心配いらないと思います」
「カネサキ先輩は?」
「特に問題のある症状は出ていないように見えますが、検査をしてみないことには何とも言えません。本来なら一刻も早く精密な検査を行いたいのですが、この状況ですから、まずは無事に検査を受けられる場所まで戻ることが必要です」
「アイネスさんが既に医師でないことは承知している。あくまでも医師に診てもらってからでないと判断ができない、ということなのか?」
その言葉に対してアイネスは大きく首を横に振った。
「いいえ、必要な検査ができる設備がない、ということです。可能であれば必要な検査や処置は行いますが、その判断をつけるための術が今のところない、というだけのことです」
それを聞いたロビーはアイネスの態度について誤解していたことを素直に認めた。
アイネスの「医師ではない」という言葉は、現状を正確に伝えているだけのもので、必要な処置を放棄する、という意味ではないことを。
「カネサキ先輩については、検査の結果を見て判断することにします。行くな、と言われれば無理にでも行きそうなのが気になりますね」
「それもそうですが、まずは検査を受けることが大切です。正直なところ、検査をしてみないことには私が施した処置が間違っていないかも確認できないのです」
「どういうことなんだ?」
アイネスの説明にロビーは驚いた表情を見せた。
ロビーは、アイネスの施した処置は現段階でできる最善のものであったと考えているからだ。
そのため、処置は不十分であるかもしれないが、少なくとも間違ったものではないだろうと判断していた。
しかし、アイネスの見解は微妙に異なる。
「私が最善だと考えた処置は施しました。ただ、それは十分な検査を経て施されたものではないですし、かつ、処置の結果確認に必要な検査も十分にはできていません。一刻も早く検査を受けて、処置が正しかったか確認する必要があります。もし誤っているならば適切なものに切り替えなければなりません」
やはり微妙に考え方が違うな、とロビーは感じた。
それでも、アイネスの発言は正しいものだと思われた。
早急に検査を受け、その後の処置を取ることがカネサキに必要なことなのだろう、ということが明らかになったことは十分以上の収穫である。
「……わかった。帰り道は急ごう。ただ、あまり衝撃を与えるのはよくないのでしょう?」
「おっしゃる通りです。これは私の方で見ておきます。揺れるようなら私の方でストップをかけましょう」
「助かります。それでは調査を再開しますか」
「承知しました」
アイネスは止めていた手を再び計測機に戻し、必要なデータを収集し始めた。
計測の途中で、ロビーはふとセスの可能性について尋ねようと思ったが、結局止めた。
アイネスの立場に立てば非常に厳しい質問である。
アイネスは発言の正確さを重んじるタイプなのだ、とロビーは感じていた。
正確さを求めれば、悪い結果についてより多く語らねばならないだろう。
それはロビーや隊にとって、必要性が低いどころか士気を落とす発言になりかねない。
逆に隊の士気を上げる発言をアイネスに求めれば、正確さを重んじる彼の性格から考えて、彼の中に葛藤を引き起こす要因となりかねない。
これからしばらくの間は、帰り道の中でもっとも危険な場所を通ることになる。
そうした状況下でアイネスが葛藤を抱えることになれば、彼を危険に追い込むことになりかねない。
ただでさえメイという、こうした意味では危険極まりない存在を抱えた隊である。
これ以上、心理面でのリスクを負うべきではない、とロビーは考えた。
一五分後、計測と記録を終えたロビーとアイネスが他のメンバーと合流した。
合流後、ロビーはただちに出発を命じた。
ホンゴウが言うとおり確かに平らな場所で、ある程度の大きさを持った建物を建てることができそうであった。
「どうでしょうか?」
「問題ないと思う。アイネスさん、休憩施設の建設候補地として計測と記録をお願いします」
アイネスの問いかけに対して、ロビーは即座に承認の意を示した。
アイネスは手にした計測器と端末で、てきぱきと計測と記録を進めていく。
「ところでアイネスさん、ちょっと聞きたいんだけど」
「何でしょう?」
アイネスが手を止めてロビーの方を向いた。
「あの二人……カネサキ先輩とオオイダ先輩ですが、実際のところどうなんでしょう?」
「と、言いますと?」
「アイネスさんも知っているとおり、戻ったら第二隊を派遣するつもりだけど、それまでにあの二人は回復できるだろうか?」
あえてロビーは一番心配な相手を避けた。
あくまでも一番気になるのはセスであったが、彼についてはアイネスもよい返事ができないだろうことはロビーも十分承知している。
そして、よくない返事が出るたびに、セスの可能性が減るように思えて仕方なかったのだ。
「二人とも戻ったら念のため検査を受けてもらうことを推奨します。その結果にもよりますが、恐らくオオイダさんの方は心配いらないと思います」
「カネサキ先輩は?」
「特に問題のある症状は出ていないように見えますが、検査をしてみないことには何とも言えません。本来なら一刻も早く精密な検査を行いたいのですが、この状況ですから、まずは無事に検査を受けられる場所まで戻ることが必要です」
「アイネスさんが既に医師でないことは承知している。あくまでも医師に診てもらってからでないと判断ができない、ということなのか?」
その言葉に対してアイネスは大きく首を横に振った。
「いいえ、必要な検査ができる設備がない、ということです。可能であれば必要な検査や処置は行いますが、その判断をつけるための術が今のところない、というだけのことです」
それを聞いたロビーはアイネスの態度について誤解していたことを素直に認めた。
アイネスの「医師ではない」という言葉は、現状を正確に伝えているだけのもので、必要な処置を放棄する、という意味ではないことを。
「カネサキ先輩については、検査の結果を見て判断することにします。行くな、と言われれば無理にでも行きそうなのが気になりますね」
「それもそうですが、まずは検査を受けることが大切です。正直なところ、検査をしてみないことには私が施した処置が間違っていないかも確認できないのです」
「どういうことなんだ?」
アイネスの説明にロビーは驚いた表情を見せた。
ロビーは、アイネスの施した処置は現段階でできる最善のものであったと考えているからだ。
そのため、処置は不十分であるかもしれないが、少なくとも間違ったものではないだろうと判断していた。
しかし、アイネスの見解は微妙に異なる。
「私が最善だと考えた処置は施しました。ただ、それは十分な検査を経て施されたものではないですし、かつ、処置の結果確認に必要な検査も十分にはできていません。一刻も早く検査を受けて、処置が正しかったか確認する必要があります。もし誤っているならば適切なものに切り替えなければなりません」
やはり微妙に考え方が違うな、とロビーは感じた。
それでも、アイネスの発言は正しいものだと思われた。
早急に検査を受け、その後の処置を取ることがカネサキに必要なことなのだろう、ということが明らかになったことは十分以上の収穫である。
「……わかった。帰り道は急ごう。ただ、あまり衝撃を与えるのはよくないのでしょう?」
「おっしゃる通りです。これは私の方で見ておきます。揺れるようなら私の方でストップをかけましょう」
「助かります。それでは調査を再開しますか」
「承知しました」
アイネスは止めていた手を再び計測機に戻し、必要なデータを収集し始めた。
計測の途中で、ロビーはふとセスの可能性について尋ねようと思ったが、結局止めた。
アイネスの立場に立てば非常に厳しい質問である。
アイネスは発言の正確さを重んじるタイプなのだ、とロビーは感じていた。
正確さを求めれば、悪い結果についてより多く語らねばならないだろう。
それはロビーや隊にとって、必要性が低いどころか士気を落とす発言になりかねない。
逆に隊の士気を上げる発言をアイネスに求めれば、正確さを重んじる彼の性格から考えて、彼の中に葛藤を引き起こす要因となりかねない。
これからしばらくの間は、帰り道の中でもっとも危険な場所を通ることになる。
そうした状況下でアイネスが葛藤を抱えることになれば、彼を危険に追い込むことになりかねない。
ただでさえメイという、こうした意味では危険極まりない存在を抱えた隊である。
これ以上、心理面でのリスクを負うべきではない、とロビーは考えた。
一五分後、計測と記録を終えたロビーとアイネスが他のメンバーと合流した。
合流後、ロビーはただちに出発を命じた。
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