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第十二章

522:もと社長秘書の取り扱い

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 そりはゆっくりと西に向けて進んでいる。
 実際に島の東部に行って気付いたことがある。
 彼らが登っているドガン山脈の山であるが、西側と比較して東側の傾斜が緩やかである。
 このためか、速度はともかく隊の足取りは軽い。
 また、行きと異なり既に通った道であることも影響している。細かく周囲を確認しながら進む必要がないからだ。

 余裕が出てきたところでロビーはそりの右後方に目を向けた。
 そこには小柄な女性の姿があった。
 ECN社もと社長秘書のメイ・カワナである。
 彼女の存在はロビーの頭痛の種であった。
 指示を聞いているのかどうかはっきりしない上に、隊のメンバーの誰とも会話が成立しない。
 かろうじてコナカとは意思の疎通ができるようだが、ほとんど声を発することはないという。
 首からぶら下げている大ぶりの腕時計を取り上げたときだけは、声をあげて必死に抗議した。
 それが原因でもともと閉ざされていた彼女の心が、更に奥深くへと閉ざされたようにも思える。
 せめて彼女が他のメンバーと普通に意思疎通ができるように、と考えていたのだがそれは困難であるように思われた。

 (このままで大丈夫だろうか……?)
 今回の探索を終えたところでメイは隊のメンバーから外れることが決まっていた。
 ECN社本社と相談した結果、次の第二次隊に参加が決定しているのがロビーとホンゴウ、そして隊から外れるのはアイネスとメイであった。
 このうちアイネスは今回の探索で発見された北部の「モトイ」と命名された土地で開発事業の責任者補佐として赴任することが決まっている。
 アイネスは本社に戻り次第、すぐに家族を伴ってモトイへ引越すことを決めているという。
 「とぉえんてぃ? ず」こと、カネサキ、オオイダ、コナカの三名の女性は、第二次隊に参加するともしないとも決まっていない。
 これはカネサキ、オオイダの両名が負傷しているためで、負傷の程度によって参加を認めるかどうかを判断するからだ。
 三人とも第二次隊への参加を志願しており、特にカネサキなどは「こんなの『はじまりの丘』に戻るまでに勝手に治っているわよ。だから第二次隊に参加させなさい」と息巻いている。第一次隊の調査継続断念を決めた際も、強硬に調査継続を訴えていた彼女であるから、当然といえば当然とはいえる。

 ロビーとしても身体的に彼女らが問題ない状態であれば、第二次隊に参加させたいと思っている。
 一度東側へ到達しているということで、勝手はわかるであろうし、口うるさいところはあってもロビーとしては対処しやすい「先輩方」であるためだ。更に士気も高い。
 そこでロビーはエリックを通してモトイへ医師を派遣することを提案し、その医師と帰り道のどこかで合流し、カネサキ、オオイダの二人を診せるよう手配した。
 アイネスが「今の自分は医師ではない」と彼女らの診察を拒んでいるための苦肉の策ではあったが、ロビーの手際のよさは褒められてよいだろう。
 既に百名程度の人員がモトイへ向けて出発しており、早ければ二月上旬には都市化に向けて開発が進められるとのことであった。
 ある程度多くの人数を抱えるわけであるから、医師が必要であろうとロビーはECN社本社に訴え、自身の提案を受け入れさせたのだ。

 今後についての予測がつかないという点ではメイもカネサキやオオイダと同じである。
 こちらは第二次隊への参加を希望していない様子なので、隊を外れることだけは決まっていたが、その後彼女がどうするのかはロビーには見当がつかない。
 彼女の場合は、第一次隊だけの契約であり、現時点ではECN社の嘱託の身分である。
 第一次隊が解散した時点で、ECN社との契約は終了する。
 隊で唯一メイと簡単な意思疎通のできるコナカによれば、メイは恐らくインデストに向かうのではないか、とのことである。
 そこで彼女が何をするのかは、はっきりとはコナカやロビーにはわからない。
 ただ、彼女が慕っていたオイゲン・イナの痕跡を求めるのだろうということはおぼろげに理解していた。
 そのことが何の意味を持ち、そして彼女に何をもたらすのかはわからない。
 可能であれば手伝っても構わない、とロビーやコナカなどは考えているのだが、意思の疎通も厳しい状態では、それもままならないだろう。
 正直なところ、彼女が何を考え、何を目的に行動をしているのかはロビーにも見当がつかない。コナカにも尋ねてみているのだが、詳しいことはよくわからないというのが実情だ。
 最悪の場合、彼女は自ら生命を絶つのではないか、という懸念もある。
 彼女が隊に参加したのは行方不明であるオイゲンが島の東がどうなっているのかを知りたがっていたためだ。その目的はある程度達成されたといってよい。
 彼女を支えている何かが消えつつある可能性がある。
 とはいえ、そっとしておくしかないのだが、時々は彼女の動向に気を配った方がよいだろうな、とロビーは考えている。
 少なくとも最悪の事態だけは避けねばなるまい。
 そのための有効な手立ては未だ思いつかないのだが、隊の解散までに何らかの方法を考えておかなければ、と心に決めた。
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