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第十一章
515:監視する者
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「それではアカシ代表もECN社の社長も受け入れないですよね……」
ルマリィの声が暗い部屋の中に響いた。
ここはトーカMC社のオフィスではない、インデスト近郊の某所である。
部屋の中には一人の女性がいるが、シルエットとなって壁に影を落としている髪型がルマリィのトレードマークとなっているポニーテールではない。
もちろん、シトリのそれとも違う。
薄暗い部屋の中、女性はスピーカーから聞こえてくる声を聞きながら、端末に何かを打ち込んでいる。
スピーカーから聞こえてくるのはトーカMC社のオフィスでの会話や物音だ。
つまり、トーカMC社のオフィスはこの女性によって盗聴されていることがわかる。
部屋は狭く二〇平方メートルほどだ。
中に大きな机があり、その上には少なくとも五台の端末が置かれている。
また、彼女から見て右手の壁には大きなモニタが取り付けられており、四つの画面に分かれて情報を映し出している。
「インデスト西一、滞在者なし、西二、滞在者なし……」
女性が一つの画面の情報を読み上げ始めた。既にスピーカーからは会話の声が聞こえなくなっている。
顔だけ画面の方に向け、手は端末のキーを叩き続けている。
「西三、滞在者二名。トーカMC、エイ・タザワ、エフ・ティ・ロジ、ススム・カワエ。西四……」
女性が読み上げているのは、トーカMC社が管理している運送業者向けの簡易宿泊施設とその滞在者の情報であるようだった。
読み上げが終わると、画面にポータル・シティからインデストに向かう街道の地図を表示させ、それに宿泊者の滞在場所を重ねていく。
どうやら街道上の人の動きを監視しているようだ。
「あら?」
不意に部屋の中の女性が入口の方に目をやった。
かすかにだが、入口となっている扉の方から物音が聞こえたのだ。
物音の主が何者であるか、部屋の中の女性には見当がついている。
「ゴールドね、どうぞ」
すると入口の扉が開き、若い男が中に入ってきた。部屋の中の女性が想像した通りの人物であった。
「目ぼしい情報は入っているかな?」
若い男が部屋の中の女性に尋ねた。
「まだみたいね。そっちは?」
部屋の中の女性が素っ気なく答えた。勘の鋭い者であれば、無理に突っ張った話し方をしていることに気付いたかもしれない。
「徐々に郊外に動かす。奴らを探している連中が動いているので、下手に外には出せない」
「郊外に出せそうな日がわかったら、その時点で連絡して」
「承知。その時はサファイアだけじゃなくて、ダイヤにも連絡したほうが良いね?」
「そうね。そうして」
女性は「サファイア」、男性は「ゴールド」と呼ばれているらしい。
「ゴールド」と呼ばれている男性の言葉づかいはともかく、口調は丁寧で腰が低い印象を与える。
一方、「サファイア」と呼ばれている女性は、落ち着いた冷静な口調である。
また、「ダイヤ」というのはこの部屋にいない彼らの仲間のようだ。
「ゴールド」が壁のスイッチを押し、部屋の明かりをつけた。
一瞬の後、部屋に白っぽい明かりが灯り、両者の姿が明らかになる。
二人とも比較的若いといってよい。
ゴールドは長身というには少し背が足りないくらいの背をした、三十路くらいの男性である。
細い眼に前髪がかかっているため、その表情を読み取るのは難しい。
サファイアは小柄の部類に入る女性で、「ゴールド」よりは年下に見える。
顔の各パーツの動きが乏しいためか、無表情に見える。
「それにしても調べれば調べるほどひどい状況ね。一体、インデストに何人関係者がいるか……」
「何かしでかしたのが逃げ込むとしたら、遠いインデストか最近まで封鎖されていたフジミ・タウンくらいしかないからね」
ゴールドの言う通り、確かにインデストやフジミ・タウンは犯罪者などが逃げ込むのに適した場所であった。
インデストはポータル・シティをはじめとしたサブマリン島の都市のほとんどから遠く離れた場所であり、他の都市からインデストまで人を追跡などしようと考える者は少ない。
また、インデストの鉄鉱石採掘場は期間労働者も多く、人の管理は比較的緩やかであるため、他の都市で何をしていようとあまり気にとめられることがない。
解放前のフジミ・タウンに至っては、野盗の類の根城であった。
封鎖中にどれだけの人が中に入り込み、その後どのような結果になったかは、現在でも調査中の段階で明らかにはなっていない。
OP社治安改革部隊が結成されるまでは、都市をまたいだ犯罪者の追跡なども行われていなかった。
そのため、インデストやフジミ・タウンに逃げ込めば犯罪者も追跡を免れることが殆どであった。
もっともインデストはともかく、フジミ・タウンに逃げ込んだ場合、本人の生命の保障などなかったのだが。
二人が「関係者」と呼ぶ者たちはポータル・シティやハモネスなどの島西部で罪を犯し、追跡を逃れてインデストに逃げ込んだようであった。彼らは何らかの目的で彼らの行方を追っている。トーカMC社を監視しているのもその一環であるようだ。
ルマリィの声が暗い部屋の中に響いた。
ここはトーカMC社のオフィスではない、インデスト近郊の某所である。
部屋の中には一人の女性がいるが、シルエットとなって壁に影を落としている髪型がルマリィのトレードマークとなっているポニーテールではない。
もちろん、シトリのそれとも違う。
薄暗い部屋の中、女性はスピーカーから聞こえてくる声を聞きながら、端末に何かを打ち込んでいる。
スピーカーから聞こえてくるのはトーカMC社のオフィスでの会話や物音だ。
つまり、トーカMC社のオフィスはこの女性によって盗聴されていることがわかる。
部屋は狭く二〇平方メートルほどだ。
中に大きな机があり、その上には少なくとも五台の端末が置かれている。
また、彼女から見て右手の壁には大きなモニタが取り付けられており、四つの画面に分かれて情報を映し出している。
「インデスト西一、滞在者なし、西二、滞在者なし……」
女性が一つの画面の情報を読み上げ始めた。既にスピーカーからは会話の声が聞こえなくなっている。
顔だけ画面の方に向け、手は端末のキーを叩き続けている。
「西三、滞在者二名。トーカMC、エイ・タザワ、エフ・ティ・ロジ、ススム・カワエ。西四……」
女性が読み上げているのは、トーカMC社が管理している運送業者向けの簡易宿泊施設とその滞在者の情報であるようだった。
読み上げが終わると、画面にポータル・シティからインデストに向かう街道の地図を表示させ、それに宿泊者の滞在場所を重ねていく。
どうやら街道上の人の動きを監視しているようだ。
「あら?」
不意に部屋の中の女性が入口の方に目をやった。
かすかにだが、入口となっている扉の方から物音が聞こえたのだ。
物音の主が何者であるか、部屋の中の女性には見当がついている。
「ゴールドね、どうぞ」
すると入口の扉が開き、若い男が中に入ってきた。部屋の中の女性が想像した通りの人物であった。
「目ぼしい情報は入っているかな?」
若い男が部屋の中の女性に尋ねた。
「まだみたいね。そっちは?」
部屋の中の女性が素っ気なく答えた。勘の鋭い者であれば、無理に突っ張った話し方をしていることに気付いたかもしれない。
「徐々に郊外に動かす。奴らを探している連中が動いているので、下手に外には出せない」
「郊外に出せそうな日がわかったら、その時点で連絡して」
「承知。その時はサファイアだけじゃなくて、ダイヤにも連絡したほうが良いね?」
「そうね。そうして」
女性は「サファイア」、男性は「ゴールド」と呼ばれているらしい。
「ゴールド」と呼ばれている男性の言葉づかいはともかく、口調は丁寧で腰が低い印象を与える。
一方、「サファイア」と呼ばれている女性は、落ち着いた冷静な口調である。
また、「ダイヤ」というのはこの部屋にいない彼らの仲間のようだ。
「ゴールド」が壁のスイッチを押し、部屋の明かりをつけた。
一瞬の後、部屋に白っぽい明かりが灯り、両者の姿が明らかになる。
二人とも比較的若いといってよい。
ゴールドは長身というには少し背が足りないくらいの背をした、三十路くらいの男性である。
細い眼に前髪がかかっているため、その表情を読み取るのは難しい。
サファイアは小柄の部類に入る女性で、「ゴールド」よりは年下に見える。
顔の各パーツの動きが乏しいためか、無表情に見える。
「それにしても調べれば調べるほどひどい状況ね。一体、インデストに何人関係者がいるか……」
「何かしでかしたのが逃げ込むとしたら、遠いインデストか最近まで封鎖されていたフジミ・タウンくらいしかないからね」
ゴールドの言う通り、確かにインデストやフジミ・タウンは犯罪者などが逃げ込むのに適した場所であった。
インデストはポータル・シティをはじめとしたサブマリン島の都市のほとんどから遠く離れた場所であり、他の都市からインデストまで人を追跡などしようと考える者は少ない。
また、インデストの鉄鉱石採掘場は期間労働者も多く、人の管理は比較的緩やかであるため、他の都市で何をしていようとあまり気にとめられることがない。
解放前のフジミ・タウンに至っては、野盗の類の根城であった。
封鎖中にどれだけの人が中に入り込み、その後どのような結果になったかは、現在でも調査中の段階で明らかにはなっていない。
OP社治安改革部隊が結成されるまでは、都市をまたいだ犯罪者の追跡なども行われていなかった。
そのため、インデストやフジミ・タウンに逃げ込めば犯罪者も追跡を免れることが殆どであった。
もっともインデストはともかく、フジミ・タウンに逃げ込んだ場合、本人の生命の保障などなかったのだが。
二人が「関係者」と呼ぶ者たちはポータル・シティやハモネスなどの島西部で罪を犯し、追跡を逃れてインデストに逃げ込んだようであった。彼らは何らかの目的で彼らの行方を追っている。トーカMC社を監視しているのもその一環であるようだ。
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