87 / 154
第十一章
509:消し去ることのできない興味
しおりを挟む
「あ、でも最近、ECN社さんとの取引が始まったので、これからは期待できると思います」
ヌマタの表情を気にしたのだろう。タザワがその場を取り繕った。口調が先ほどよりは明るいものになったのも、ヌマタを気遣ってのことだろう。
「ECN社か……それは望みがあるな」
ふと我に返ったヌマタが無難な言葉を選びながら答えた。
ECN社が手を差し伸べているのであれば、少なくとも当面の資金的な問題は何とかできるだろう。ヌマタはそう考えた。
「そうですよ。こういう困ったときにこそ、企業の本来の姿が現れる、と地元では言われているみたいです。OP社の化けの皮が剥がれたんじゃないか、と」
タザワの言葉にヌマタはやや人の悪そうな笑いで応じた。
面白いことを言ってくれるじゃないか、という気分だったのだが、相手はそう取らなかったようだ。
「あ……すみません。お気に障ったら謝ります」
「問題ない。こういう仕事をしていると、どうも世間のニュースに疎くなってな。ところで今のECN社の社長……何という名前だったか? 思い切ったことをしたな」
「確か……ミヤハラ社長、です。『タブーなきエンジニア集団』あがりの人でしたね。『タブーなきエンジニア集団』と組合はインデストで共同戦線を張っていましたから、その線だと思います」
「あぁ、そうだったな……」
ヌマタはミヤハラと直接顔を合わせて話をしたことはないが、「タブーなきエンジニア集団」の名前に対しては、心中穏やかではいられない。
ヌマタにも確かに彼らとともにハドリと戦っていた時期はあったのだ。
だが、ヌマタはテロリストとしてハドリを抹殺する道を選び、彼らと離れた。
今は彼らとは何の関係もない身だとヌマタは自身に言い聞かせている。
「……そういえば、ECN社の前の社長も行方不明になっていましたね。例の爆発事件でこの島の二大企業の社長が行方不明になるとは、何とも不思議ですね」
タザワの言葉は何気ないものではあったが、重大な意味を持っているようにヌマタには思われた。
OP社とECN社、エクザロームを代表する二つの企業のトップがひとつの爆発事件で同時に失われた。
ヌマタの立場からすれば、ECN社、すなわちオイゲン・イナが行方不明となっている件については、まったくの想定外であった。
ハドリに同行しているらしい、という情報はあったものの、爆発事件に巻き込まれているとは考えもしていなかった。
また、こちらに関してはハドリと異なり、その最期をヌマタ自身の目で見届けていない。
ヌマタ自身はオイゲンに対して特別な感情は抱いていない。
彼の尊敬する故ウォーリー・トワの上司であった人物だか、それ以上のことは全くといってよいほど知らないのだ。興味すらない。
「……そういえば、『タブーなきエンジニア集団』も、トップが亡くなったそうだな」
ウォーリーが亡くなったという事実に対して、ヌマタの中には釈然としない何かが残っている。
それが無意識に彼の口からこのような言葉になって出たのであろう。
ヌマタはウォーリーの体調不良のことを知らなかったので、突然の死に疑問を持つのも無理はなかった。
エクザロームにおける成人男性の平均寿命からすれば三分の一かそこらで亡くなったのだ。疑問を持たない方が不自然だともいえる。
「……そうでしたね。大きいところばかりトップがいなくなりますね……」
それに対するタザワの反応も、何かすっきりしないものがあるようにヌマタには思われた。
しかし、ヌマタは下手にウォーリーの話題に突っ込むのは危険だと考えていた。
「タブーなきエンジニア集団」のもと関係者だということは知られたくない。
縁を切ったとはいえ、ヌマタは「タブーなきエンジニア集団」やIMPUの一部の幹部とはかなり親しい間柄であった。
下手なことを口にして自分の正体が明らかになることは避けたい。
彼がかつて行おうとし、彼自身以外の者の手によって実現していたことが明らかになれば、存命中の関係者に迷惑がかかる可能性がある。このことを看過することはできないからだ。
一方、ヌマタには与り知らぬことではあったが、タザワはウォーリーと顔を合わせたことがある。
ウォーリー率いる部隊の一時的な捕虜として、であったが。
タザワは、「タブーなきエンジニア集団」と戦うために配置されたOP社の治安改革部隊の一員であった。
インデスト出身の彼は職業学校卒業後、OP社に入社し発電技術者として働いていたが、ハドリのフジミ・タウン、インデスト遠征時にセキュリティ・センターへ異動となり、ミツハル・オオカワの部下としてハドリに同行することになった。
OP社治安改革部隊解体時にOP社を退職した。その後しばらくの間、職を転々としていたが、トーカMC社設立時に創業メンバーとして採用され、現在に至っている。
そうした意味でタザワはヌマタの警戒した通りのOP社の関係者ではあった。
ヌマタにとって幸運だったのは、彼と同時期に同じ部署に所属したことがないため、お互いに面識がなかったことであろう。
ヌマタの表情を気にしたのだろう。タザワがその場を取り繕った。口調が先ほどよりは明るいものになったのも、ヌマタを気遣ってのことだろう。
「ECN社か……それは望みがあるな」
ふと我に返ったヌマタが無難な言葉を選びながら答えた。
ECN社が手を差し伸べているのであれば、少なくとも当面の資金的な問題は何とかできるだろう。ヌマタはそう考えた。
「そうですよ。こういう困ったときにこそ、企業の本来の姿が現れる、と地元では言われているみたいです。OP社の化けの皮が剥がれたんじゃないか、と」
タザワの言葉にヌマタはやや人の悪そうな笑いで応じた。
面白いことを言ってくれるじゃないか、という気分だったのだが、相手はそう取らなかったようだ。
「あ……すみません。お気に障ったら謝ります」
「問題ない。こういう仕事をしていると、どうも世間のニュースに疎くなってな。ところで今のECN社の社長……何という名前だったか? 思い切ったことをしたな」
「確か……ミヤハラ社長、です。『タブーなきエンジニア集団』あがりの人でしたね。『タブーなきエンジニア集団』と組合はインデストで共同戦線を張っていましたから、その線だと思います」
「あぁ、そうだったな……」
ヌマタはミヤハラと直接顔を合わせて話をしたことはないが、「タブーなきエンジニア集団」の名前に対しては、心中穏やかではいられない。
ヌマタにも確かに彼らとともにハドリと戦っていた時期はあったのだ。
だが、ヌマタはテロリストとしてハドリを抹殺する道を選び、彼らと離れた。
今は彼らとは何の関係もない身だとヌマタは自身に言い聞かせている。
「……そういえば、ECN社の前の社長も行方不明になっていましたね。例の爆発事件でこの島の二大企業の社長が行方不明になるとは、何とも不思議ですね」
タザワの言葉は何気ないものではあったが、重大な意味を持っているようにヌマタには思われた。
OP社とECN社、エクザロームを代表する二つの企業のトップがひとつの爆発事件で同時に失われた。
ヌマタの立場からすれば、ECN社、すなわちオイゲン・イナが行方不明となっている件については、まったくの想定外であった。
ハドリに同行しているらしい、という情報はあったものの、爆発事件に巻き込まれているとは考えもしていなかった。
また、こちらに関してはハドリと異なり、その最期をヌマタ自身の目で見届けていない。
ヌマタ自身はオイゲンに対して特別な感情は抱いていない。
彼の尊敬する故ウォーリー・トワの上司であった人物だか、それ以上のことは全くといってよいほど知らないのだ。興味すらない。
「……そういえば、『タブーなきエンジニア集団』も、トップが亡くなったそうだな」
ウォーリーが亡くなったという事実に対して、ヌマタの中には釈然としない何かが残っている。
それが無意識に彼の口からこのような言葉になって出たのであろう。
ヌマタはウォーリーの体調不良のことを知らなかったので、突然の死に疑問を持つのも無理はなかった。
エクザロームにおける成人男性の平均寿命からすれば三分の一かそこらで亡くなったのだ。疑問を持たない方が不自然だともいえる。
「……そうでしたね。大きいところばかりトップがいなくなりますね……」
それに対するタザワの反応も、何かすっきりしないものがあるようにヌマタには思われた。
しかし、ヌマタは下手にウォーリーの話題に突っ込むのは危険だと考えていた。
「タブーなきエンジニア集団」のもと関係者だということは知られたくない。
縁を切ったとはいえ、ヌマタは「タブーなきエンジニア集団」やIMPUの一部の幹部とはかなり親しい間柄であった。
下手なことを口にして自分の正体が明らかになることは避けたい。
彼がかつて行おうとし、彼自身以外の者の手によって実現していたことが明らかになれば、存命中の関係者に迷惑がかかる可能性がある。このことを看過することはできないからだ。
一方、ヌマタには与り知らぬことではあったが、タザワはウォーリーと顔を合わせたことがある。
ウォーリー率いる部隊の一時的な捕虜として、であったが。
タザワは、「タブーなきエンジニア集団」と戦うために配置されたOP社の治安改革部隊の一員であった。
インデスト出身の彼は職業学校卒業後、OP社に入社し発電技術者として働いていたが、ハドリのフジミ・タウン、インデスト遠征時にセキュリティ・センターへ異動となり、ミツハル・オオカワの部下としてハドリに同行することになった。
OP社治安改革部隊解体時にOP社を退職した。その後しばらくの間、職を転々としていたが、トーカMC社設立時に創業メンバーとして採用され、現在に至っている。
そうした意味でタザワはヌマタの警戒した通りのOP社の関係者ではあった。
ヌマタにとって幸運だったのは、彼と同時期に同じ部署に所属したことがないため、お互いに面識がなかったことであろう。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる