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第十一章
495:混乱
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インデストの電力供給が停止、付近の生産活動が停止状態に━━
LH五二年一月二五日の午後、サブマリン島のマスコミ各社はこのニュースをトップニュースとして報じた。
電力供給停止の報は瞬く間に島内を駆け巡り、ポータル・シティなどでは、暖を取るための木炭や毛布などが飛ぶように売れ、これらの商品が店頭から姿を消した地域もあった。
サブマリン島最大のエネルギー供給者、OP社が二五日の一三時に緊急記者会見を開き、社長のノブヤ・ヤマガタがインデストの状況を説明すると共に、ポータル・シティをはじめとした主要都市の電力供給には当面問題がないことを説明した。
ヤマガタの説明の通り、電力供給が停止したのはインデスト周辺の地域だけであり、三〇〇キロ離れたポータル・シティ及びその周辺部へは、これまで通り電力供給が続けられている。
インデストの生産活動が停止していることから、将来的にインデストに生産を依存している鉄をはじめとした金属材料の調達に支障がでるだろうが、サブマリン島特有の物流事情の悪さから、影響が出るまでには早くて三ヶ月はかかると思われる。
このように少なくとも、ポータル・シティやその周辺で暖を取るための代替手段が早急に必要という状況ではないのであるが、市民の恐怖はヤマガタをはじめとするOP社の幹部の想像をはるかに超えたものであった。
これにはいくつか要因があるが、その大きなもののひとつに、現経営陣への信頼のなさが挙げられる。
現社長のヤマガタは決して無能ではないが、ハドリの持つような何が何でも相手を従わせようとする威圧感や、傍若無人なまでの行動力という面には欠けていた。
ハドリであれば、その豪腕でこうした不安の声を撥ね退けたかもしれないが、ヤマガタにそれはできなかった。
これは、ヤマガタの能力が不足しているというよりも、持って生まれた資質の種類の違いというものであった。
むしろ、ハドリという巨大な司令塔を予期せぬ出来事で欠いたOP社が今まで持ちこたえてきたのはヤマガタの功績でもある。
しかし、それも限界に近づきつつあった。
彼の能力によらない様々な要素の大部分が、事態をより悪いほうへと導いていた。
ヤマガタがOP社のトップに立って以来の朗報といえば、ECN社よりの技術者の派遣が実現したことくらいである。
これはこれでOP社の助けとはなったが、ECN社も発電関連の技術者を多くは抱えていなかったので、苦境を脱出するための起爆剤とはなり得なかった。
「ヤマガタ社長、痩せられましたね……」
長身の若い女性がヤマガタの記者会見を報じるニュースを目にしてつぶやいた。
「確かにそんな感じに見えますね。我々も他人事ではないのですが」
女性に答えたのは、これも若い男性であった。
彼らがいる部屋には他に、やや年長の男性が二人いる。
一人は数字の並んだ画面を前に身動きひとつせず、もう一人は椅子のリクライニングを目一杯後ろに倒し、その上でけだるそうにひっくり返っている。
彼らがここサブマリン島を代表する企業のトップツーだといって、一体幾人がそれを信用するだろうか?
しかし、幸か不幸かこれはまぎれもない事実であった。
ちなみにリクライニングの椅子でひっくり返っているのが社長代行のノリオ・ミヤハラ、画面を前に身動きひとつしないのが副社長のアツシ・サクライである。
ニュースを報じる画面を前にしている男女もECN社の幹部である。
最初に声を発した若い女性は、広報企画室長のレイカ・メルツであった。
昨年にECN社に転じてからというもの、面倒くさがりなトップツーに代わり、彼女が名実共にECN社の顔となっている。
レイカの言葉に答えたのは上級チームマネージャーの職にあり、社に一八あるタスクユニットのひとつを率いるエリック・モトムラである。現在は「東部探索隊」プロジェクトの責任者も兼務している。
「アカシとは連絡取っているのか? エリック」
サクライが自席から首だけ回して問うた。身体をエリックの方に向けないのは単に面倒だからであろう。
「取ってはいますが……あまり状況はよくないようですね……」
予想された答ではあった。
アカシが率いるIMPUは設立当初から数多くの問題を抱えていた。
IMPU自体、旧OP社の鉄鋼部門とその関連会社、そして取引先からなる寄り合い所帯であり、それほど結束が強い団体ではない。
また、IMPUのあるインデストにおける鉄鋼事業者の中心であったOP社が鉄鋼事業から事実上撤退したことが、事態をより複雑にしている。
アカシは烏合の衆とも言われかねないこの組織をよく纏め上げていたが、それでも彼に抵抗する勢力が存在することは否めない。
アカシにとって不運だったのは今回の電力供給停止という事態が与える影響が著しく大きいにも関わらず、これに対して彼らが取り得る対抗手段が非常に少ないことであった。
アカシが率いているIMPUは鉄鋼事業を営む企業群であり、これを構成する企業が電力抜きで事業を継続するのは困難である。
しかし、電力を供給しているOP社に対して、IMPUができることは少ない。
OP社の電力供給に支障をきたしている最大の理由は、発電に関する技術者の不足であるが、IMPUはこうした技術者を保有していないし、また確保するためのルートも持っていない。
それでもアカシは、地熱発電所に人員を派遣するなど電力供給の回復に尽力していたが、肝心の地熱発電所は火事からの復旧途上であるし、他の方策も事態を打開するための決定打とはなっていない。
IMPU内部もまとまりを欠いている。
昨年末の地熱発電所の火災以来、ヒロスミ・オオバを中心とした主に鉄鉱石採掘場の労働者からなるグループが、アカシの活動に異議を唱えており、アカシと彼らの間で未だ交渉が続けられている。
彼らはアカシを昨年末の地熱発電所の火災発生に何らかの関与があると疑っており、その疑いがアカシに対する反感を強めている。
実際のところ、アカシはこの火災にはまったく関与しておらず、彼らの疑いは事実無根であった。
そのため彼らの訴えを突っぱねてもよかったのだが、彼らも貴重なIMPUの戦力であると考えたアカシは粘り強く交渉を続けていた。
IMPUには代表のアカシをはじめとして五人の理事がいるが、他の理事は必ずしもアカシに協力的ではなかった。
LH五二年一月二五日の午後、サブマリン島のマスコミ各社はこのニュースをトップニュースとして報じた。
電力供給停止の報は瞬く間に島内を駆け巡り、ポータル・シティなどでは、暖を取るための木炭や毛布などが飛ぶように売れ、これらの商品が店頭から姿を消した地域もあった。
サブマリン島最大のエネルギー供給者、OP社が二五日の一三時に緊急記者会見を開き、社長のノブヤ・ヤマガタがインデストの状況を説明すると共に、ポータル・シティをはじめとした主要都市の電力供給には当面問題がないことを説明した。
ヤマガタの説明の通り、電力供給が停止したのはインデスト周辺の地域だけであり、三〇〇キロ離れたポータル・シティ及びその周辺部へは、これまで通り電力供給が続けられている。
インデストの生産活動が停止していることから、将来的にインデストに生産を依存している鉄をはじめとした金属材料の調達に支障がでるだろうが、サブマリン島特有の物流事情の悪さから、影響が出るまでには早くて三ヶ月はかかると思われる。
このように少なくとも、ポータル・シティやその周辺で暖を取るための代替手段が早急に必要という状況ではないのであるが、市民の恐怖はヤマガタをはじめとするOP社の幹部の想像をはるかに超えたものであった。
これにはいくつか要因があるが、その大きなもののひとつに、現経営陣への信頼のなさが挙げられる。
現社長のヤマガタは決して無能ではないが、ハドリの持つような何が何でも相手を従わせようとする威圧感や、傍若無人なまでの行動力という面には欠けていた。
ハドリであれば、その豪腕でこうした不安の声を撥ね退けたかもしれないが、ヤマガタにそれはできなかった。
これは、ヤマガタの能力が不足しているというよりも、持って生まれた資質の種類の違いというものであった。
むしろ、ハドリという巨大な司令塔を予期せぬ出来事で欠いたOP社が今まで持ちこたえてきたのはヤマガタの功績でもある。
しかし、それも限界に近づきつつあった。
彼の能力によらない様々な要素の大部分が、事態をより悪いほうへと導いていた。
ヤマガタがOP社のトップに立って以来の朗報といえば、ECN社よりの技術者の派遣が実現したことくらいである。
これはこれでOP社の助けとはなったが、ECN社も発電関連の技術者を多くは抱えていなかったので、苦境を脱出するための起爆剤とはなり得なかった。
「ヤマガタ社長、痩せられましたね……」
長身の若い女性がヤマガタの記者会見を報じるニュースを目にしてつぶやいた。
「確かにそんな感じに見えますね。我々も他人事ではないのですが」
女性に答えたのは、これも若い男性であった。
彼らがいる部屋には他に、やや年長の男性が二人いる。
一人は数字の並んだ画面を前に身動きひとつせず、もう一人は椅子のリクライニングを目一杯後ろに倒し、その上でけだるそうにひっくり返っている。
彼らがここサブマリン島を代表する企業のトップツーだといって、一体幾人がそれを信用するだろうか?
しかし、幸か不幸かこれはまぎれもない事実であった。
ちなみにリクライニングの椅子でひっくり返っているのが社長代行のノリオ・ミヤハラ、画面を前に身動きひとつしないのが副社長のアツシ・サクライである。
ニュースを報じる画面を前にしている男女もECN社の幹部である。
最初に声を発した若い女性は、広報企画室長のレイカ・メルツであった。
昨年にECN社に転じてからというもの、面倒くさがりなトップツーに代わり、彼女が名実共にECN社の顔となっている。
レイカの言葉に答えたのは上級チームマネージャーの職にあり、社に一八あるタスクユニットのひとつを率いるエリック・モトムラである。現在は「東部探索隊」プロジェクトの責任者も兼務している。
「アカシとは連絡取っているのか? エリック」
サクライが自席から首だけ回して問うた。身体をエリックの方に向けないのは単に面倒だからであろう。
「取ってはいますが……あまり状況はよくないようですね……」
予想された答ではあった。
アカシが率いるIMPUは設立当初から数多くの問題を抱えていた。
IMPU自体、旧OP社の鉄鋼部門とその関連会社、そして取引先からなる寄り合い所帯であり、それほど結束が強い団体ではない。
また、IMPUのあるインデストにおける鉄鋼事業者の中心であったOP社が鉄鋼事業から事実上撤退したことが、事態をより複雑にしている。
アカシは烏合の衆とも言われかねないこの組織をよく纏め上げていたが、それでも彼に抵抗する勢力が存在することは否めない。
アカシにとって不運だったのは今回の電力供給停止という事態が与える影響が著しく大きいにも関わらず、これに対して彼らが取り得る対抗手段が非常に少ないことであった。
アカシが率いているIMPUは鉄鋼事業を営む企業群であり、これを構成する企業が電力抜きで事業を継続するのは困難である。
しかし、電力を供給しているOP社に対して、IMPUができることは少ない。
OP社の電力供給に支障をきたしている最大の理由は、発電に関する技術者の不足であるが、IMPUはこうした技術者を保有していないし、また確保するためのルートも持っていない。
それでもアカシは、地熱発電所に人員を派遣するなど電力供給の回復に尽力していたが、肝心の地熱発電所は火事からの復旧途上であるし、他の方策も事態を打開するための決定打とはなっていない。
IMPU内部もまとまりを欠いている。
昨年末の地熱発電所の火災以来、ヒロスミ・オオバを中心とした主に鉄鉱石採掘場の労働者からなるグループが、アカシの活動に異議を唱えており、アカシと彼らの間で未だ交渉が続けられている。
彼らはアカシを昨年末の地熱発電所の火災発生に何らかの関与があると疑っており、その疑いがアカシに対する反感を強めている。
実際のところ、アカシはこの火災にはまったく関与しておらず、彼らの疑いは事実無根であった。
そのため彼らの訴えを突っぱねてもよかったのだが、彼らも貴重なIMPUの戦力であると考えたアカシは粘り強く交渉を続けていた。
IMPUには代表のアカシをはじめとして五人の理事がいるが、他の理事は必ずしもアカシに協力的ではなかった。
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