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第十一章

491:もと社長秘書の抗議

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 隊のメンバーによる打ち合わせによって「東部探索隊」の帰還に向けての出発が一月二七日に決定された。
 カネサキなどは調査継続を強硬に主張していたが、ロビーのより強い意志に折れたのだった。

(調査を終えたら急いで「はじまりの丘」に戻ろう。今ならまだ間に合う)
 口には出さなかったが、ロビーが探索の続行を断念したひとつの要因として、セスの身が気がかりだった、ということもある。
 ハモネスにあるECN社本社を出発してから五ヵ月半、セスを残して「はじまりの丘」を旅立ってから五ヶ月になろうとしている。

 予定では三ヶ月程度で調査を終え、「はじまりの丘」に戻るはずであった。
 それがドガン山脈越えのルート選定に予想以上の時間を要したため、大幅に予定を超過してしまった。
 三日後にここを出発したら、「はじまりの丘」に到着するのは、恐らく一ヶ月後の二月下旬になると思われる。
 セスは大丈夫であろうか……?
 通信でECN社本社に問い合わせれば、セスの状況について何らかの情報が得られるはずであったが、ロビーは敢えてそれをしなかった。
 回答によっては隊の士気に関わるし、セスが無事であるという希望を持つためにはその方がよいとロビーは考えていたのだ。
 そして、本社側もロビーを気遣っているのかセスの状況については一切言及していなかった。

(半年か……かなり時間がかかったな。ともかく、東には人の住める場所があることがわかった。セス、俺らの報告を楽しみにしてな)
 ロビーは打合せの散会を宣言するとともに自らECN社本社との通信を開いた。
 カネサキとオオイダの負傷、居住可能地の発見、そして三日後の探索終了など本社に伝えるべきことは多くある。
 ロビーとホンゴウでそれらを伝えた後、通信を切った。
「ふう、これからが肝心、か……」
 ロビーは風に当たるためにテントの外へ出た。
 すると、ロビーの視線の先に二つの人影が映った。
 うち、小柄な方が震えているのがわかる。
 ロビーが駆け寄ろうとした瞬間、
「助けてくれて……ありがとう」
 という声が聞こえてきた。カネサキの声である。
 それから、左腕を吊った人影がこちらに向かってきた。
 残された小柄な影は胸から何かを取り出し空を仰いでいた。
 カネサキがロビーの姿に気付き、ロビーをテントの影へと引っ張った。
 そして、テントの中に向かって、コナカに出てくるように呼びかける。
 コナカが出てきたのを確認してから、カネサキは小声でロビーに言う。
「タカミさん、彼女、イナさんに何かを報告していたように見えたけど……?」
「別に気にすることはないと思いますが……? ただ、カネサキさんが秘書さんにお礼を言ったのは間違ってないと思いますよ」
「お礼? 当然のことをしただけよ。他はともかく、さっきの行動は評価すべきことなのだからそれを正当に評価しただけ」
「ならいいのではないですか?」
 ロビーは大して気に留める様子もなかったのだが、カネサキが違う、と苛立ちをうかがわせる声で答えた。
 そこでコナカが割って入り、どういうことですか、とカネサキに問うた。

 カネサキの推測は突拍子もないものであった。
 実はオイゲンが健在であり、何らかの事情で身を隠している。
 そして、メイが「東部探索隊」の中に入り、その情報をオイゲンに向けて発信しているのではないか?
 目的はわからないが、彼女の参加には何らかの意味があるように思われる、と。
 それを聞いたロビーは大笑いし、カネサキに睨まれる。
「あ、すみません。でも、秘書さんはある意味目立ち過ぎて隠密活動には向かないと思うのですけどね。正直挙動が怪しすぎます」
「それもそうね……でも、実際のところ彼女の行動はある意味放任状態だからね……気になるのよね」
 カネサキの表情があまりにも真剣だったので、あまり気乗りはしなかったもののロビーはコナカにメイの様子を観察するように依頼した。

「社長……東には……居られる場所がありました……」
 不意にロビーの耳に、かすれた小さな声が入ってきた。
 彼も数えるほどしか聞いたことのないメイの声である。
 振り返ると、メイが危なっかしい足取りでこちらに向かってきている。
 その視線は虚空を泳いでいるようで、ロビーたちの存在に気付いているかはわからない。
「社長……私は……」
 再びロビーの耳にメイの声が聞こえてきた。
 今度はカネサキやコナカの耳にも届いたようで、三人が顔を見合わせる。
 メイはふらふらとこちらに向かって歩いているが、どうもロビーたちの存在には気付いていないように見える。
 よく見ると空に向かって何かを掲げているのがわかる。
 メイの小さな手にも収まるほどのサイズなので、掲げられているものが何かまでは解らない。
 メイが三人まであと数歩の距離まで近づいてきたとき、カネサキが動いた。
「ちょっと見せて!」
 カネサキはメイが空に掲げていた何かを引ったくり、自分の手元へと持ってきた。
「そ、それだけは……やめてください……」
 メイは驚きに目を見開きながらもかすれた声で抗議した。
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