ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十一章

490:「東部探索隊」撤退を決める

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「うえ~、本当に行くんですか? いてっ!! 怪我人に何するのよ!? よりによって頭なんて!」
 間延びしたやる気を感じさせない声はオオイダである。
 最後に大声をあげたのは、カネサキが勢いよくオオイダの頭を引っぱたいたからである。
「怪我の程度は大したことないって言われているでしょ! 皆が行く気なのにアンタは何を言っているのよ!? それに……」
 カネサキが一気にまくし立てたが、横からオオイダにとっての救世主が現れた。アイネスである。
「待ちなさい! 相手は怪我人なのですから、頭を引っぱたくなんてもってのほかです!」
「……すみません」
 アイネスの抗議に対しては、カネサキも素直に従った。医学の専門家としての意見を重んじているからだ。
「それで……今後はどうするんですか?」
 カネサキは、その矛先をロビーに向けた。
 ロビーの心は既に決まっていたが、あえて自らの見解を述べることはせずに、いまだ発言のない二人の人物の名前を挙げた。
「コナカさんと秘書さんの二人がまだ何も言っていない。彼女らの意見も聞きたい」
「コナカさんはともかく秘書さんが発言するの?」
 カネサキの意見ももっともなのだが、ロビーはそれを無視して斜め前にいるコナカに発言を求めた。

「私は……行った方がいいと思います……
 アイネス先生の仰るとおり、まだ探索が終わっていませんから……」
 ロビーはそうか、とうなずいた後、テントの隅にたたずんでいるメイの方を向いた。
「秘書さんの意見は?」
「……」
 メイは言葉の代わりに何かに怯えたような表情でじりじりと後ずさった。
(やっぱり俺じゃ無理か……)
 ロビーは苦笑して、無理ならいいとメイにこれ以上の発言は求めなかった。
 コナカがメイに寄り添って大丈夫だから、と言い聞かせる。
 それを確認したロビーが厳かに宣言した。
「あと三日、ここで調査を継続する。それが終わったら……戻ろう」
 ロビーの宣言に驚きの声をあげたのがカネサキである。
「ちょっと待ってよ! 私やオオイダなら平気よ! まだ調査は終わってない! 先に進まなくてどうするのよ!?」
 するとロビーは驚くほど落ち着いた声で答えた。
「いや、カネサキ先輩とオオイダ先輩が怪我をしている今だからこそ、戻るべきだ」
「そんなの気にする必要はない! 前進あるのみよ!」
 血気盛んにカネサキが反論した。
 だが、ロビーは落ち着いた顔のまま首を横に振った。
「そうじゃない、カネサキさんやオオイダさんが万全じゃないからこそできることがある。そのためには早く戻る必要があるんだ」
「どういうこと……?」
 するとロビーは、カネサキをはじめとした隊員に向けて静かながらも熱を帯びた声で話し始めた。
「東部探索隊」には、島東部の居住可能地域を見つけると共に、東部と西部を行き来する道を見つけることも求められている。
 東部と西部を行き来する道については、誰もが容易に行き来することが求められる。
 隊員が怪我をしたのは不本意であるが、これは逆に考えれば今まで見つけた道が誰でも容易に行き来できるかどうか確認できるチャンスでもある。
 すなわち、怪我人が容易に行き来できるのであれば、今回たどった道は条件を満たすであろう、と。
 ロビーはセスのことを考えていた。
 島の東部を探索する、と最初に言いだしたのはオイゲンであろう。だが、ロビーにとって「東部探索隊」結成のきっかけを作ったのはセスである。
 そのセスが島の東部に人が居住できる場所があることを自ら確かめるためには何をしたら良いか……
 オオイダとカネサキの負傷の程度が明らかになったところで、ロビーは自問自答していた。
 その結果が、先ほどの結論であった。
 セスのことを考えれば今の状況はチャンスである。
 ロビーはそうとも考えていたのだった。

「確かに。それは今できることだけど……ちょっと……」
 ロビーの説明を聞いたカネサキは不満そうであった。彼女としては納得できないのであろう。だが、探索継続派のアイネスがロビーの見解に賛同の意を示した。
 ホンゴウとオオイダは調査継続に反対であったし、コナカはもともと大勢に従うタイプだ。メイに至っては意見もないであろうから、カネサキが折れた時点で大勢は決した。

 話し合いの結果、三日間だけの調査継続が決定された。
 調査の継続といっても、現在の調査中の場所について、居住可能なエリアの広さを測定するための調査であり、基本的にこれ以上先に進むことはしない。
 こうして第一次「東部探索隊」の到達地点は決した。
 LH (ルナ・ヘヴンス暦)五二年一月二三日のことであった。
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