ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十一章

488:救出作戦 オオイダのケース

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 少しの間ロビーとホンゴウが話し合った後、カネサキ、オオイダの救出が開始された。
 三本のロープが用意され、二本は支柱に、一本はコナカの腰に結びつけられた。

「無理しないように行ってくれ。何かあれば俺が引き上げるからその点は安心してくれ」
「はい、大丈夫です!」
 ロビーの激励にコナカがうなずいた。
 彼女の身体に結びつけられたロープの端を持つのはロビーである。
「では……行きますね」
 コナカの言葉をきっかけに、ゆっくりとシートが滑り降りていく。
 ロビー、ホンゴウ、アイネスの三人が慎重にロープを緩めていく。
 ロープを緩める速度が速すぎれば、シートは制御を失うし、逆に遅すぎればコナカの身体がシートごと砂の中に沈んでしまうだろう。
 コナカがシートに乗ったのは、その点からも正解であった。
 彼女なら、ロビーの半分ほどの体重である。
 体重が軽い分、砂に沈みにくく、そしてロープによる操作も比較的容易だ。
 もちろん、一瞬でも気を抜けば制御を失うことには間違いない。
 少しずつロープが緩められるたびに、シートと岩の間の距離が詰まっていく。
 カネサキとオオイダはその様子を声も立てずに見守っている。
 コナカの進む速度は決して速くないが、確実に、かつ止まることなく進んでいることがわかる。
 そして、ついにシートの先端がカネサキとオオイダのいる岩に触れた。
「よっと!」
 掛け声とともにコナカが軽やかに飛び上がり、岩へと着地した。
 普段のおっとりした物腰とは対照的に、彼女の身のこなしは非常に軽い。砂地で決してよいとは言えない足場をものともしない。

「コナカさん、オオイダさんを先に引き上げて」
 カネサキの指示にコナカがうなずく。
「ごめん、よろしく……」
 オオイダの声からいつもの陽気さは失われていなかったものの、力がない。
 やはりあまり状態はよくないようだ、と判断したコナカは慎重にオオイダの身体をシートに載せた。
「大丈夫ですか? 痛くない?」
 コナカはそう確認しながらオオイダの身体をがっちりと抱きかかえた。
「タカミさん、お願い!」
 コナカの声にロビーがホンゴウとアイネスに引き上げを指示する。

 行きと異なり、帰りは二人分の体重がシートにかかる。
 重さもそうだが、引き上げの難易度は行きと比較して格段に高い。
 それに加えてオオイダの身体はロープで固定されていない。
 彼女の身体の支えはコナカが頼りである。
 コナカは女性にしては力があるほうだとはいえ、彼女の体重に匹敵するオオイダの身体を不安定な姿勢で長時間保持するのは、大変な困難を伴うであろう。
「彼女は頭を打っている! あまり左右に動かさないようにお願いします!」
 ロープを慎重に引きながらアイネスが叫んだ。
 医療に関してはアイネスが専門家だ。
 オオイダの状況が予断を許しそうもないことを考えれば、アイネスの言葉も無視できない。
 現場にいる皆にとって、オオイダの引き上げの時間が長く、そして重苦しく感じられた。
「大丈夫か?! スピードはこれでいいか?」
 ロビーが心配そうにコナカに尋ねる。
「大丈夫です。でもこれ以上遅くなると沈んでしまうかも……」
「わかった!」
 (ちっ! 予想以上に手こずるな。)
 ロビーが軽く舌打ちした。
 岩に一人残されたカネサキが心配そうな表情でシートを見つめている。
 引き上げの速度を増したいのは山々だが、ロープを引くロビー達の足場も決して安定しているとは言えない。そのうえオオイダの状況を考えると、シートが揺れるような事態は避けたい。
 これらの事情から引き上げも慎重にならざるを得ないのだ。
 それでも確実にシートは穴の渕へと近づいている。
 そして、シートの先端が穴の渕に差し掛かった瞬間、ロビーが動いた。
「ちょっと揺れるが、我慢してくれっ!」
 そう言うとシートを支える支柱に手をかけ、一気に引き上げたのだ。
 無事にコナカとオオイダの身体が穴の外へと引き上げられ、カネサキが安堵の息をついた。
 オオイダがシートに乗せられてから、穴の外に引き上げられるまでわずか二分少々の時間であったが、ロビーにはそれが十数分にも感じられた。
「アイネスさん、早く彼女を診てくれ!」
 その言葉にアイネスがオオイダのもとへ駆け寄った。
 別のシートが広げられ、コナカがそちらへオオイダの身体を横たえる。

「……今はカネサキさんの救助を優先しましょう」
 オオイダの様子を見て、アイネスがそう判断した。
 カネサキの救助の時間が許されないほど急を要する事態ではない、ということらしい。
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