上 下
62 / 154
第十一章

484:苛立ち

しおりを挟む
 かつて、ロビーは一度だけ彼自身に向けられたメイの肉声を耳にしている。
 時間をかけて慣れさせればロビー自身は無理でも、コナカあたりとなら話ができると考えていたのだが、これがとんでもない難物であった。
 相変わらずメイは、コナカの質問に対してうなずいたり首を横に振ったりすることで、言葉に対して肯定か否定かの意志を示すことはできる。
 また、コナカを通じることで指示を出すことはできる。
 少なくとも、隊列を組んで進んでいるときは、決められた場所を進むし、留まっているときは皆から少し離れた位置にいるものの、ロビーの視界の外に消えることは滅多にない。
 ただ、今のところ彼女の側からの答が肯定か否定か以外にないので、彼女から具体的な情報を引き出すことができなかった。
 このため、ロビーも思い切って彼女に作業をさせることができていない。

「他に何か秘書さんに変わったことはないか? 食べるものを食べてないとか、何か妙な行動をとっているとか……?」
 ロビーの質問にコナカはしばらく頭をひねって考えてから、
「特には……
 あえて言えば歩いているときに時々私の服の裾を引っ張るくらいかな。でも、これも前からあったことではあるし……」
 と答えた。
「もうちょっとコナカさんに懐いてくれると助かるのだけどな」
「うーん、ごめんなさい。ちょっと難しい……と思う。私じゃ社長さんと違って、こちらから言葉を伝えることしかできないから……」
「そうか、何か変化があったら教えてくれ」
 ロビーの立場としてもコナカにあまり負担はかけたくない。
 ただでさえ、最近のカネサキはコナカに対して厳しいと感じているからだ。
 探索が危険を伴うものであるだけに、カネサキの厳しい態度は必ずしも誤っているとは思えない。
 ただ、ロビーの目からはカネサキはコナカとメイに特別厳しい態度を取っているように思われ、これが隊のメンバーの不和を招かないかが気にかかる。
 ロビーもそれとなくはカネサキに注意を促しており、その度にカネサキもそれに従う意思は見せる。
 しかし、しばらくすればもとの厳しい態度に戻り、その矛先がコナカに向くようにロビーには思われる。
 (ちょっとはカネサキさんも遠慮してくれればいいのだけどなぁ……)
 幸い、ホンゴウやアイネスができた人間であることと、女性陣のうち三人が仲間であることから、メンバーの間に不協和音が生じているようには見えない。
 ただ、これ以上カネサキが厳しい態度を取るとコナカ以外と意思疎通ができないメイはともかく、コナカが萎縮しかねない。
 温和で素直なのがコナカの良さであるのに、萎縮させてしまっては元も子もないからだ。
 また、ロビーが彼女にもっとも期待しているのはメイを隊からはみ出させないことである。
 メイがはみ出せば、真っ先にカネサキが爆発するであろう。
 そのときにカネサキを抑えることができないとは思わないが、できればそうした事態は避けたいところである。
 いくら手を焼いているとはいえ、メイが志願して隊にいる以上は、ロビーの性質として彼女を放り出すことはできない。
 他のメンバーに対してもロビーは同様に考えているから、やはりここは全員が仲たがいすることなく、まとまって行動してくれるのが望ましい。

 ロビーがふと視線を上げた。
 彼の視線の先には、一人たたずむ小柄な女性の姿があった。
 メイである。
 (やはり、社長さんじゃないとダメなのか……?!)
 ロビーの目から見てもコナカのメイに対する対応は、十分以上のものであった。
 しかし、そのコナカをもってしてもメイが隊の輪の中に入る気配はない。
 それどころか、コナカに対してすら一言も発してないという。
 コナカからも、恐らく社長さんことオイゲンでないと、彼女との会話はできないだろう、と言われている。
 (行方不明って、一体社長さんは何をしているんだ?! 生きているならば、出てくればいいものを! 秘書さんがどれだけ傷ついているかわかっているのか?!)
 ロビーがぶつけようのない怒りに顔をしかめてから、慌てて何かを振り払うように手を振った。
 オイゲンが姿を現すことのできない理由を想像しているうちに、最悪の事態が浮かんできたからだ。
 正直なところ、ロビーにとってオイゲンの生死はセスの生死と比較すれば取るに足りないくらいの重要性しか持たない。
 だが、「東部探索隊」のメンバーが力を発揮できない状況にあるのは、ロビーとしては看過できない。
 正直なところ、メイが何を目的として「東部探索隊」に参加しているのかはロビーにも理解できていない。
 ただ、隊に隊員として参加している以上、隊に何らかの貢献をすべきであるという考えはロビーにはある。
 もし、隊に貢献していない者があるとするならば……それは隊を率いる隊長、すなわちロビー自身の責任である。これがロビーを苛立たせている。
 (……ったく、どうすればいいんだ?! 俺は何をやっている?)
 ロビーが途方に暮れていると、不意に後方から彼を呼ぶ声が聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...