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第十一章
472:抵抗勢力
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「話し合いに応じるだと?! ふん、格好をつけたものだ」
色白の男が忌々しげに吐き捨てた。年のころは四〇代か五〇代といったところか。
男のいる場所は数百席の座席が並べられた空間であった。
男は空間の一番奥にあるテーブルをひとつ占拠して、足を組みながら煙草をふかしていた。このあたりでは数少ない喫煙が認められているスペースだ。
ここはインデストの鉄鉱石採掘場に勤務する作業者向けの食堂スペースである。
周囲をよく見ると、中の座席はほとんど人で埋め尽くされており、床に腰掛けている者も少なくない。
恐らく食堂スペース内には五〇〇名以上の人がいるであろう。
そのほとんどが採掘場で働く作業者である。
「代表に祭り上げられて増長している様子だからな。このあたりで我々がお灸を据える必要がある、というところだろうな。これ以上、現場をないがしろにすることは許容できないだろう」
色白の男の言葉に隣のテーブルに着いていた二人の男がうなずいた。
一人は老人といってよいだろう。ただし、小柄ながらも筋骨隆々といった風情で、ひ弱な若者など一瞬でのされてしまうに違いなかった。
もう一人は、老人の子供と孫との中間くらいの年齢に見える。こちらは老人とは対照的に長身の男であった。
ヤギサワという採掘場の作業者がいれば、見えない位置で陰口を叩いたであろう。
長身の男はマキオ・イラ・イオといい、ヤギサワが徹底的に嫌い抜いている上司である。
「で、アカシの相手はヒキさんがやってくれるんだな?」
色白の男が老人に向かって言った。口調から色白の男は老人の上位者であることがわかる。
色白の男の方も決して体格に恵まれていないわけではないのだが、老人の前では見劣りする。
この場所では色白という存在自体がやや異質であるように感じられる。
採掘場の作業者は屋外での作業も多く、陽に焼けた者が多いのだ。
「ああ、俺が行った方がいいだろう」
老人は鷹揚にうなずいた。
「ヒキさん」と呼ばれた老人は、この採掘場の中でも最古参の作業者の一人である。
地球出身で二〇歳のときに「ルナ・ヘヴンス」に乗り込み、五〇を過ぎてからインデストに移住し、鉄鉱石の採掘に従事してきた。
ここサブマリン島で鉄鉱石の採掘が商業ベースで行われるようになってから二〇年弱である。
この老人は、サブマリン島における鉄鉱石採掘の歴史のほとんどすべてに関与していると言っても過言ではなかった。
七〇を過ぎても現役の作業者である数少ない存在でもある。
このような人物が関与しているあたり、アカシに対する抵抗勢力も簡単に無視できる存在ではないことがわかる。
アカシ率いるIMPUはOP社の関連会社を中心とした企業の集合体であり、その中身はとても一枚岩と言える状況ではなかった。
アカシも必ずしも望んでこの集団のトップに就任したわけではなかった。
他に適任者と思える者がほとんどいなかったのである。
「ヒキさん」ことキンノジョウ・ヒキは、候補となり得た数少ない人物であったが、いかんせん彼には現場以外からの支持が少なかった。
アカシもヒキ同様現場上がりであるが、アカシには「OP社の関連会社の出身ながら労働者組合を立ち上げ、ハドリと戦った」という実績がある。
一方でヒキはOP社の嘱託でハドリを支持した側であり、たたき上げの現場作業員でもあったため特に事務方を軽く見る傾向がある。
労働者組合は現場作業者を中心に構成されていたが、関連会社の事務方などからの参加者も少なくなかった。
このあたりが、ヒキとアカシの差でもあった。
ただ、アカシに対して複雑な感情を持つ現場作業員も少なくない。
アカシはOP社の関連会社の出身であったし、その関連会社も決して有力企業とは言えない
また、アカシはLH二四年生まれであるが、これはサブマリン島に「ルナ・ヘヴンス」の住人たちが移住してから六年目の年にあたる。
LH二一年から二四年生まれの世代は数が多く、IMPUの現場作業者にもこの世代の者は当然のように多い。
ただし、彼らの多くは中堅どころに差し掛かったところであるが、まだまだ若輩と見られることも少なくない。
その世代の一現場作業者に過ぎなかったアカシが、わずか一年足らずの間に労働者組合のトップとなり、ついにはインデストの鉱業を支える企業群の代表となってしまったのである。面白く感じない者がいても不思議ではない。
食堂スペースに集まっているのは、こうしたアカシに対して複雑な感情を持つ現場作業員が中心であった。
長身の男イオはLH二〇年生まれであるが、ほぼアカシに近い世代だといってよい。食堂に集まっているのはイオやアカシの世代の者が中心だ。
他の世代の者もこの場にはいるのだが、その絶対数は多くない。
まず、ヒキに代表されるような老齢者は多くが現場を引退しており、このような場に顔を出すことはなかった。
他の年代……特に現在五〇歳から七〇歳少し手前の世代は、存在そのものが希少である。
これは、ここサブマリン島に住んでいる人々のルーツに原因があった。
色白の男が忌々しげに吐き捨てた。年のころは四〇代か五〇代といったところか。
男のいる場所は数百席の座席が並べられた空間であった。
男は空間の一番奥にあるテーブルをひとつ占拠して、足を組みながら煙草をふかしていた。このあたりでは数少ない喫煙が認められているスペースだ。
ここはインデストの鉄鉱石採掘場に勤務する作業者向けの食堂スペースである。
周囲をよく見ると、中の座席はほとんど人で埋め尽くされており、床に腰掛けている者も少なくない。
恐らく食堂スペース内には五〇〇名以上の人がいるであろう。
そのほとんどが採掘場で働く作業者である。
「代表に祭り上げられて増長している様子だからな。このあたりで我々がお灸を据える必要がある、というところだろうな。これ以上、現場をないがしろにすることは許容できないだろう」
色白の男の言葉に隣のテーブルに着いていた二人の男がうなずいた。
一人は老人といってよいだろう。ただし、小柄ながらも筋骨隆々といった風情で、ひ弱な若者など一瞬でのされてしまうに違いなかった。
もう一人は、老人の子供と孫との中間くらいの年齢に見える。こちらは老人とは対照的に長身の男であった。
ヤギサワという採掘場の作業者がいれば、見えない位置で陰口を叩いたであろう。
長身の男はマキオ・イラ・イオといい、ヤギサワが徹底的に嫌い抜いている上司である。
「で、アカシの相手はヒキさんがやってくれるんだな?」
色白の男が老人に向かって言った。口調から色白の男は老人の上位者であることがわかる。
色白の男の方も決して体格に恵まれていないわけではないのだが、老人の前では見劣りする。
この場所では色白という存在自体がやや異質であるように感じられる。
採掘場の作業者は屋外での作業も多く、陽に焼けた者が多いのだ。
「ああ、俺が行った方がいいだろう」
老人は鷹揚にうなずいた。
「ヒキさん」と呼ばれた老人は、この採掘場の中でも最古参の作業者の一人である。
地球出身で二〇歳のときに「ルナ・ヘヴンス」に乗り込み、五〇を過ぎてからインデストに移住し、鉄鉱石の採掘に従事してきた。
ここサブマリン島で鉄鉱石の採掘が商業ベースで行われるようになってから二〇年弱である。
この老人は、サブマリン島における鉄鉱石採掘の歴史のほとんどすべてに関与していると言っても過言ではなかった。
七〇を過ぎても現役の作業者である数少ない存在でもある。
このような人物が関与しているあたり、アカシに対する抵抗勢力も簡単に無視できる存在ではないことがわかる。
アカシ率いるIMPUはOP社の関連会社を中心とした企業の集合体であり、その中身はとても一枚岩と言える状況ではなかった。
アカシも必ずしも望んでこの集団のトップに就任したわけではなかった。
他に適任者と思える者がほとんどいなかったのである。
「ヒキさん」ことキンノジョウ・ヒキは、候補となり得た数少ない人物であったが、いかんせん彼には現場以外からの支持が少なかった。
アカシもヒキ同様現場上がりであるが、アカシには「OP社の関連会社の出身ながら労働者組合を立ち上げ、ハドリと戦った」という実績がある。
一方でヒキはOP社の嘱託でハドリを支持した側であり、たたき上げの現場作業員でもあったため特に事務方を軽く見る傾向がある。
労働者組合は現場作業者を中心に構成されていたが、関連会社の事務方などからの参加者も少なくなかった。
このあたりが、ヒキとアカシの差でもあった。
ただ、アカシに対して複雑な感情を持つ現場作業員も少なくない。
アカシはOP社の関連会社の出身であったし、その関連会社も決して有力企業とは言えない
また、アカシはLH二四年生まれであるが、これはサブマリン島に「ルナ・ヘヴンス」の住人たちが移住してから六年目の年にあたる。
LH二一年から二四年生まれの世代は数が多く、IMPUの現場作業者にもこの世代の者は当然のように多い。
ただし、彼らの多くは中堅どころに差し掛かったところであるが、まだまだ若輩と見られることも少なくない。
その世代の一現場作業者に過ぎなかったアカシが、わずか一年足らずの間に労働者組合のトップとなり、ついにはインデストの鉱業を支える企業群の代表となってしまったのである。面白く感じない者がいても不思議ではない。
食堂スペースに集まっているのは、こうしたアカシに対して複雑な感情を持つ現場作業員が中心であった。
長身の男イオはLH二〇年生まれであるが、ほぼアカシに近い世代だといってよい。食堂に集まっているのはイオやアカシの世代の者が中心だ。
他の世代の者もこの場にはいるのだが、その絶対数は多くない。
まず、ヒキに代表されるような老齢者は多くが現場を引退しており、このような場に顔を出すことはなかった。
他の年代……特に現在五〇歳から七〇歳少し手前の世代は、存在そのものが希少である。
これは、ここサブマリン島に住んでいる人々のルーツに原因があった。
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