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第十章
470:交渉のテーブルに着け!
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そうと決まったら、アカシの決断は早かった。
その場でIMPUの所属企業向けに、抗議文を受け取ったとして文書の発信者が名乗り出れば交渉のテーブルに着く準備があるとのメッセージを発したのである。
その行動の早さにアカシの携帯端末の画面に映るレイカなどは呆気にとられていた。
ミヤハラやサクライは長らくウォーリーの部下であったため、彼の性急さには慣れっこであった。アカシの場合もウォーリーと大差ないので慣れっこなのだ。
エリックはアカシと行動を共にしており、彼の決断のスピードはよく知っている。
そのためアカシの携帯端末の画面に映る人物の中では、レイカの反応だけが際立っていた。
しかし、レイカも一流のマーケターであり、広報企画の実務者である。
すぐに気を取り直し、アカシへの協力の姿勢を再度表明した。
そして、画面の中のエリックがレイカに声をかけた。
するとレイカとエリックの姿が画面から消え、画面にはミヤハラとサクライの姿が映し出される。
「火事の方はどうなりましたか?」
サクライがアカシに尋ねた。
アカシも火事は気になるのだろう。
近くにいるヤギサワに声をかけて、火事の状況を確認させた。
消火の状況については、すぐに情報が入ってきた。
火災は既に鎮火しつつあり、あとは坑道に溜まった有毒ガスを処理すれば問題ないであろう、ということであった。
負傷者については、もう少し時間が必要なようだ。
「それにしても……」
通信回線から女性の声が聞こえた。ECN社側のマイクの感度が良すぎたのだ。
通信に参加している者で女性はレイカだけである。
「何でしょうか?」
声を逃さずアカシが尋ねた。
「いえ、たいしたことではないです」
レイカは平静を装って答えた。
「構いません。教えてください」
アカシはレイカの逃げを許さなかった。
「掘削場で火災、とは聞いていますが、地熱発電の坑井で火災とはどのような状況なのでしょうか?」
「坑道の中で何かが燃えたのですな」
「怪我をされた方がいるそうですが、坑井の近くにいらっしゃったのでしょうか?」
「いえ、坑道の中です」
「そうですか……」
アカシの答えにレイカの顔に疑問の表情が浮かぶ。
二人の会話が微妙にかみ合っていないのが原因だ。
レイカの疑問も無理はなかった。
エクザロームにおいて地熱発電の坑井は地表からほぼ垂直に穴が掘られるのが一般的だ。坑井から噴き出す熱い蒸気でタービンを回して発電するのである。とてもではないが、人がその中に入って作業をする代物ではない。
地熱発電はエクザロームでは一般的ではないとはいえ、レイカは地熱発電に関する一通りの知識を持っている。
アカシの話がその知識と合わないのである。
アカシは更に携帯端末の画面に坑道の図面を表示させ、発電所の職員に説明させた。
かつて鉄鉱石の採掘場として使われていた坑道を、地熱発電所の設備本体を置く場所として活用しようというのがことの真相のようであった。
既にある坑道を利用することで、発電所の建設期間を短縮するのが目的である、と発電所の職員は語った。
大都市から遠く離れたインデストでは、建設用の資材を確保するのにも時間がかかる。
そのための苦肉の策ということであった。
レイカはその言葉を聞いて、一旦引き下がった。
彼女自身としてはまだ疑問に思う点があるのだが、これ以上この話題を突き詰めることは、かえってアカシを不機嫌にするのではないかと考えたためだ。
「それにしても火事と例の抗議文のタイミングが良すぎるな」
ミヤハラがそうつぶやいた。
エリックとレイカが止めかけたのだが、間に合わなかったのだ。
「……それはありますね。こちらからの呼びかけに反応した者があれば、それが疑わしいということになるでしょう。もっとも、あまりにあからさまであるようにも思いますがね」
レイカはアカシが言葉の最後に舌打ちしたのを聞き逃さなかった。
(やはり……信じたくないわね)
レイカはアカシと話をするのは初めてであったが、直感的に彼が身内に疑いの目を向けたくない性質であると感じとっていた。
そして、抗議文の発信者は十中八九IMPUの関係者であると考えていた。
だからこそ、ミヤハラの不用意な発言を止めようとしたのだ。
レイカが何か言葉をかけようか思案していると、アカシの周辺が慌しくなった。
「繋がりました!」という声も聞こえてきた。
レイカには知る由もなかったが、ヤギサワが執念深くアズマイの携帯端末へ通信を試みていたのである。
ヤギサワの執念が勝利し、ようやくアズマイと話ができるようになった。
ヤギサワがアズマイに状況を問うたところ、彼はIMPUとECN社との契約内容に抗議するグループの集会に巻き込まれ、動くに動けない状況であるという。ほぼ間違いなく、アカシとミヤハラに抗議文を出した者と関係があるだろう。
「言いたいことがあるなら、いつでも話し合う準備はできている。代表者にそう伝えておいてくれ」
アカシの言葉には相当量の怒気が含まれていたが、辛うじてその口調は落ち着いたものであった。
そして、アカシが画面に向き直った。
「……という状況です。改めて皆様のご協力をお願いします」
「ああ、わかった」
一呼吸置いてからミヤハラが素っ気なく返答した。
その場でIMPUの所属企業向けに、抗議文を受け取ったとして文書の発信者が名乗り出れば交渉のテーブルに着く準備があるとのメッセージを発したのである。
その行動の早さにアカシの携帯端末の画面に映るレイカなどは呆気にとられていた。
ミヤハラやサクライは長らくウォーリーの部下であったため、彼の性急さには慣れっこであった。アカシの場合もウォーリーと大差ないので慣れっこなのだ。
エリックはアカシと行動を共にしており、彼の決断のスピードはよく知っている。
そのためアカシの携帯端末の画面に映る人物の中では、レイカの反応だけが際立っていた。
しかし、レイカも一流のマーケターであり、広報企画の実務者である。
すぐに気を取り直し、アカシへの協力の姿勢を再度表明した。
そして、画面の中のエリックがレイカに声をかけた。
するとレイカとエリックの姿が画面から消え、画面にはミヤハラとサクライの姿が映し出される。
「火事の方はどうなりましたか?」
サクライがアカシに尋ねた。
アカシも火事は気になるのだろう。
近くにいるヤギサワに声をかけて、火事の状況を確認させた。
消火の状況については、すぐに情報が入ってきた。
火災は既に鎮火しつつあり、あとは坑道に溜まった有毒ガスを処理すれば問題ないであろう、ということであった。
負傷者については、もう少し時間が必要なようだ。
「それにしても……」
通信回線から女性の声が聞こえた。ECN社側のマイクの感度が良すぎたのだ。
通信に参加している者で女性はレイカだけである。
「何でしょうか?」
声を逃さずアカシが尋ねた。
「いえ、たいしたことではないです」
レイカは平静を装って答えた。
「構いません。教えてください」
アカシはレイカの逃げを許さなかった。
「掘削場で火災、とは聞いていますが、地熱発電の坑井で火災とはどのような状況なのでしょうか?」
「坑道の中で何かが燃えたのですな」
「怪我をされた方がいるそうですが、坑井の近くにいらっしゃったのでしょうか?」
「いえ、坑道の中です」
「そうですか……」
アカシの答えにレイカの顔に疑問の表情が浮かぶ。
二人の会話が微妙にかみ合っていないのが原因だ。
レイカの疑問も無理はなかった。
エクザロームにおいて地熱発電の坑井は地表からほぼ垂直に穴が掘られるのが一般的だ。坑井から噴き出す熱い蒸気でタービンを回して発電するのである。とてもではないが、人がその中に入って作業をする代物ではない。
地熱発電はエクザロームでは一般的ではないとはいえ、レイカは地熱発電に関する一通りの知識を持っている。
アカシの話がその知識と合わないのである。
アカシは更に携帯端末の画面に坑道の図面を表示させ、発電所の職員に説明させた。
かつて鉄鉱石の採掘場として使われていた坑道を、地熱発電所の設備本体を置く場所として活用しようというのがことの真相のようであった。
既にある坑道を利用することで、発電所の建設期間を短縮するのが目的である、と発電所の職員は語った。
大都市から遠く離れたインデストでは、建設用の資材を確保するのにも時間がかかる。
そのための苦肉の策ということであった。
レイカはその言葉を聞いて、一旦引き下がった。
彼女自身としてはまだ疑問に思う点があるのだが、これ以上この話題を突き詰めることは、かえってアカシを不機嫌にするのではないかと考えたためだ。
「それにしても火事と例の抗議文のタイミングが良すぎるな」
ミヤハラがそうつぶやいた。
エリックとレイカが止めかけたのだが、間に合わなかったのだ。
「……それはありますね。こちらからの呼びかけに反応した者があれば、それが疑わしいということになるでしょう。もっとも、あまりにあからさまであるようにも思いますがね」
レイカはアカシが言葉の最後に舌打ちしたのを聞き逃さなかった。
(やはり……信じたくないわね)
レイカはアカシと話をするのは初めてであったが、直感的に彼が身内に疑いの目を向けたくない性質であると感じとっていた。
そして、抗議文の発信者は十中八九IMPUの関係者であると考えていた。
だからこそ、ミヤハラの不用意な発言を止めようとしたのだ。
レイカが何か言葉をかけようか思案していると、アカシの周辺が慌しくなった。
「繋がりました!」という声も聞こえてきた。
レイカには知る由もなかったが、ヤギサワが執念深くアズマイの携帯端末へ通信を試みていたのである。
ヤギサワの執念が勝利し、ようやくアズマイと話ができるようになった。
ヤギサワがアズマイに状況を問うたところ、彼はIMPUとECN社との契約内容に抗議するグループの集会に巻き込まれ、動くに動けない状況であるという。ほぼ間違いなく、アカシとミヤハラに抗議文を出した者と関係があるだろう。
「言いたいことがあるなら、いつでも話し合う準備はできている。代表者にそう伝えておいてくれ」
アカシの言葉には相当量の怒気が含まれていたが、辛うじてその口調は落ち着いたものであった。
そして、アカシが画面に向き直った。
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