ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
44 / 234
第十章

467:地熱発電所の火災

しおりを挟む
「アズマイとの通信はつながるか?」
 アカシがヤギサワに問うた。
 ヤギサワはちらりとタカノの方を見る。
「……だめです。出る気配がないですね」
「電波が届かないとかか?」
「電波は入っています。いくら鳴らしても出ないんです……」
 タカノの反応を見たヤギサワの表情が曇る。
「出るときに何かあったら連絡してくれとアズマイに声をかければよかったのかな……」
 タカノがつぶやいた。
 アカシは、気にするな、とタカノを労わってから他の社員なり知人なりと連絡を取るように指示した。

 今度は地熱発電所と連絡を取ろうと試みる。
 アカシが到着が遅れる旨を伝えようとしたところ、急に相手方が騒がしくなった。
「何だ?」
 アカシが問うと、つい今しがた発電所の作業現場で火事が発生したようだ、という回答が得られた。
 「ようだ」という言葉で、アカシは発電所側も現状を把握し切れていないことを悟った。
「わかった! ならば急いで駆けつける!」
 アカシは通信を切るとタカノ、ヤギサワの二人に向かって叫んだ。
「発電所が火事だ! 急いで応援に駆けつけるぞ!」
 アカシの身体は、その言葉が終わらないうちに発電所のほうへと駆け出していた。
 慌ててタカノ、ヤギサワの二人が続く。

 (モトムラさんが言っていたのはこれか! 今ならまだ間に合うはずだ!)
 アカシは一見すると「小太り」の範疇に入りそうなくらいの体格であるが、それに似合わず俊足である。
 むしろ、アカシより少し若いはずのタカノやヤギサワの二人の方が遅れ気味である。
「おい! あんまり遅れるな! ことは急を要するぞ!」
 アカシの言葉にタカノとヤギサワが必死で彼の後を追う。
 そして、ヤギサワが脱落する寸前に発電所が見えてきた。
 実際に走っていたのは五、六分のことなのだが、タカノやヤギサワにはとてつもなく長い時間、駆け続けたように思われた。

「着いたぞ! 火事はどこだ!?」
 アカシが事務所と思われる建物の扉をほとんど体当たりするように開けて叫んだ。
 中にいた事務員と思われる老人が窓の先を震える手で指差した。
 その指の先には、もうもうと立ち上がる黒煙が映し出されていた。
「あれが掘削現場か?!」
 アカシの言葉の凄みに気圧されたのか、老人は機械仕掛けの人形のように首を縦に振り続けた。
「ちっ!」
 アカシが舌打ちしながら事務所を飛び出した。
 タカノ、ヤギサワの順番でアカシに続いていく。
 掘削現場の位置はすぐに判明した。
 黒煙を取り巻くように一〇名ほどの人だかりが見えたからだ。
「中に人は残されていないか?!」
 アカシが人だかりに向かって怒鳴った。
「わかりません、今、作業員を集めて点呼を取っているところです!」
「早くしろ!」
 中に人が残されているかどうかは重大な問題である。
 作業員の位置を把握できていないという、この現場の怠慢さをアカシは腹立たしく思ったが、今は怒りに身を任せてよい場合でないことも知っていた。

 確認の結果、四〇名ほどの作業員のうち所在が確認できていない者が七名いることが判明した。
 また、それとは別に火傷や一酸化炭素中毒などで病院に運ばれた者が一二名いるという。
「行方のわからない七人は作業場のどのあたりで作業をしていた?!」
 アカシが近くの者を次々につかまえて問いただす。
 しかし、答えらしい答えは得られなかった。
「責任者、監督者はどこだ?!」
 この問いには、すぐに明確な答えが得られた。
 この現場には一人の総責任者と、四名の監督者がいたらしい。
 そのうち総責任者と三名の監督者は重い火傷で病院に運ばれたようだ。
 そして、残りの一名は所在の確認が取れていない者のリストに入っている。
「何てこった! リーダークラスが全滅か!」
 アカシが拳で手にしたヘルメットを叩いた。
 しかし、すぐに気を取りなおして、近くの者に問うた。
「ここ以外の現場や出入口はないのか?!」
 すると、現在はほとんど使われていない出入口があり、そちらにも何人か人を回している、とのことであった。
 アカシは突入のためのマスクなどの準備を指示してから、作業員一人に案内させてもう一方の出入口へと向かった。タカノとヤギサワの二人も引き連れている。

 出入口に向かう途中、二人の作業員が額や口に手をやりながらおぼつかない足取りで歩いてくるのが見えた。
 アカシらを先導している作業員がそれに気付き、手を振った。
「行方不明の連中か?」
 アカシが尋ねると、そうだ、という答えが返ってきた。
「中に取り残された者はいないのか?!」
 アカシが待ちきれないとばかりに二人の作業員に駆け寄りながら叫ぶ。
 駆け寄ってくるアカシに二人は怪訝な表情を見せていたが、すぐに一人が気を取り直し、弱弱しい声で答えた。
「動けないのが五人、入口の外で待っているんだ……」
「わかった! タカノ! お前は走って救護できる奴を連れて来るんだ! ヤギサワは二人を事務所に連れて行ってくれ! 俺は出入口へ行く!」
 アカシが周りの者にてきぱきと指示を与えていく。
 そして、自身は案内役を一人連れて出入口へと走った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

オー、ブラザーズ!

ぞぞ
SF
海が消え、砂漠化が進んだ世界。 人々は戦いに備えて巨大な戦車で移動生活をしていた。 巨大戦車で働く戦車砲掃除兵の子どもたちは、ろくに食事も与えられずに重労働をさせられる者が大半だった。 十四歳で掃除兵として働きに出たジョンは、一年後、親友のデレクと共に革命を起こすべく仲間を集め始める。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

処理中です...