ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十章

466:エリックの訴え

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「二人だけか?」
 サン・アカシは、近くにいた二人の若者をつかまえて尋ねた。
「はい。あともう一人仲間が来るはずなのですが、連絡が取れなくって……」
「携帯端末の電波が届く場所にはいるみたいですが、出ないですね……」
 二人の若者は首を傾げていた。
 若者は一昨日、シャワー室でアカシに捕まった三人のうちの二人、タカノとヤギサワであった。

 この日は地熱発電所の掘削作業を支援するため、IMPUから作業員を派遣する予定になっていた。
 一昨日から志願者を集め、期限である昨日の終業時刻までに地熱発電所での作業を志願した作業員は二〇名強いたはずだった。
 それが蓋を開けてみたら、たった二人が集合場所にいるだけである。
 集合時刻は目前に迫っているが、人数が増える気配はない。

 (怖気づいたか、面倒になったのか……? それにしてもひどい!)
 アカシはこの惨状に苛立ちを通り越して呆れている。
 それでも目の前には一昨日に声をかけた二人がいるのだから、彼らだけでも連れて行かねば、と気を奮い立たせた。
 そこでひとつの可能性に気付いて、タカノ、ヤギサワの二人に声をかける。
「寝坊して家で寝ているんじゃないのか?」
「それはないと思います。私が近くの売店で飲み物を買っているとき、ロッカー室に走っていくのを見ましたから」
「タカノの言う通りです。自分がロッカー室から出るときにすれ違って声をかけています。何か急な会議でも入ったのかもしれないですね」
 アカシが見る限り二人の言葉に嘘はなさそうに思えた。
 また、彼ら三人はかなり親しい間柄のようであるから、人違いの線も薄いと思われる。

「来る見込みがあるなら三〇分だけ待つか。多少遅れたところで挽回はできるだろう……ん?」
 アカシは不意に自分の携帯端末が震えたのに気付いた。
 画面を見ると、発信者がECN社のエリック・モトムラであることがわかった。
 さすがにエリック相手では居留守を決め込む気にもなれず、アカシは通信をつないだ。

「久しぶりですね。どうしました?」
 アカシの方がエリックより一歳年長ではあるが、エリックに対しては敬語である。
「タブーなきエンジニア集団」の幹部には、アカシなりに敬意を払っているのだ。
 エリックからはインデスト周辺の秘密回線に非常通信が流れていることが伝えられ、心当たりがないかと尋ねられた。
 アカシには心当たりがない。
「いえ、それは初耳ですね。うちじゃ、その回線に触れるなんて機会はないと思いますが……」
 「タブーなきエンジニア集団」とともにハドリの部隊と戦ったアカシとその仲間は、そのほとんどが鉄鉱石の採掘場の労働者であり、通信技術には明るくない。
 秘密回線の存在は知っているが、その利用技術そのものがないに等しいのだ。
「ところで、その非常通信とやらが流れていると、どういった問題があるのですか?」
 アカシは非常通信自体をそれほど重く見ていないようだ。正直なところ何に使うものかもよく理解できていないし、通信が流れたところでそれが何を意味するかも理解できていない。
 しかし、エリックの声は必死だった。
 技術に疎いアカシにはエリックが何を言っているかよくわからないのだが、声の調子からただならぬ事態であることが予想される。

「申し訳ありませんが、技術のことはよくわからないから、簡単に説明してくれないですかね?」
 アカシはエリックに要点の説明を求めた。
 相手によってはこのあたりで堪忍袋の緒が切れるのかもしれないが、少なくともエリックに対してはそうではないようだ。
 アカシの言葉にエリックは少し落ち着きを取り戻したようで、途中、何度も言葉に詰まりながらもアカシに要点を説明した。
 エリックによれば多くの犠牲者が出る可能性のある自然災害か、大規模な火災、暴動などの時に発せられる信号が流れているとのことだ。
 しかし、今のところアカシの知る限り、そのような情報は見聞きしていない。
 そばにいるタカノとヤギサワにも何か心当たりはないかと聞いてみたが、二人とも首を横に振った。
 ただ、アズマイが電話に出ないので、何か起こっているのかもしれない、とタカノが付け加えた。
「モトムラさんの情報では、無視するわけにもいきません。少しこっちで確認してみますわ」
 アカシはそう言って通信を切った。
 エリックが「状況が判明した時点でECN社宛に連絡を入れてほしい」と言ってきたので、アカシはそれを承知した。

 (モトムラさんは、少し神経質なところがあるからな……)
 アカシからすればエリックは非常通信を気にしすぎているように思われる。
 それでも一応調べてみる気になったのは、同じ戦場で戦った仲間の言葉であったからだ。
 エリックは決して胆力のある人物ではなかったが、前線から逃げることがなかった。信頼できる人物であるし、技術者としては非常に優れている。
 その彼が必死で訴えていることだ、理由がないわけなどないだろう。
 アカシはIMPUの事務所と連絡を取ろうと、携帯端末で通信を試みた。
 コール音はするのだが、誰も通信に出ようとしない。
 (全員、席を外しているんじゃないだろうな? 自分がいないとすぐ気を抜くな。帰ったら注意せねばなるまい)
 アカシはそう思ったが、言葉には出さずに無言で通信を切った。
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