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第十章

462:三人の事情

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 採掘場に併設されたシャワー室の中には、アカシと頭を垂れている三人の若者の姿があった。
「なあ、OP社の発電の連中はいま、どういう状況にあるか知っているか?」
 アカシの問いに目の前の三人が顔を見合わせる。
「……奴等はここのところずっと不眠不休に近い状態で何とか発電量を確保しようと頑張っているんだ。ところで、君等は今ここで何をしている?」
 アカシの口調はいつの間にか三人を諭すかのようなものに変わっていた。
 実はアカシと三人の年齢差は三つか四つなのだが、それよりは遥かに差があるように思われる。
 経験、特に修羅場をくぐってきたというそれがアカシと三人との間には大きな隔たりがあった。要するに貫禄が違うのである。
「採掘が……再開できるのを待っています……」
 三人の中でいちばん背の高い若者がそう答えた。
 声で「地熱発電のところに行っても別に構わない」と言った者だということがわかる。
「まあ、無理にとは言わないが、OP社の連中に手を貸すってことを考えてみないか? 俺はもともとOP社の関連会社の人間だ。困っているときは手を貸そうと思う」
「考えさせてください……」
 今度は三人の中でいちばん背の低い若者が答えた。
「いいだろう、明日まで待つから相談するところに相談してよく考えてみてくれ」
 アカシはそう言い残すと、軽く手を挙げてシャワー室を出て行った。
 三人はアカシが去るのを呆然と見送っていた。

 三人はシャワー室を出て、近くの休憩スペースへと移動した。
「班長に話はするけど、俺は発電の方に回ってみようかな。今の現場で暇を持て余すのも嫌だし」
 三人の中でいちばん背の高い若者がそうつぶやいた。
 三人はいずれも採掘を行う作業員で、それぞれヤギサワ、タカノ、アズマイという姓を持っている。
「タカノはそうするのか。ヤギサワはどうするんだ?」
「俺のところは、連れがうるさいからなぁ……」
「そうか、ヤギサワのところは奥さんいるものな」
「だから急な話は困るんだ。前もって言ってくれればそれなりの対処ってものがあるっていうのに」
 ヤギサワと呼ばれたいちばん背の低い若者はそう言って頭を抱えた。
「俺だってな、行けるものなら行きたいんだよ! あの無能のところで仕事をするくらいなら、よその現場の方がマシだ! ただ、連れがなぁ……」
 そういってヤギサワがシャワー室の壁を蹴飛ばした。一度では飽き足らず、二度三度と繰り返している。
「なあ、アズマイ。ヤギサワの奥さんってそんなのうるさいのか?」
 タカノと呼ばれたいちばん背の高い若者が小声で話しかけた。
「いきなり引っかかれたり、寝ているところを夜中にいきなりたたき起こされたりで大変みたいよ」
「妻帯者は辛いんだな……」
「奥さんの問題がクリアになればヤギサワも発電の方に行くと思うよ。ヤギサワのところの班長は相当嫌な奴らしいからね」
 タカノ、アズマイの二人の会話にも気付かず、ヤギサワは壁を蹴り続けている。
 この三人はIMPU所属の同じ企業に勤務している。年齢的に近いこともあり互いに親しい間柄だ。
 業務も同じ採掘を担当しているが、それぞれ所属する班が異なる。

「あの班長の所なんて、喜んで出てやるっ! だがっ!」
「だったら素直に出ればいいのに……アカシ代表だって歓迎するだろうよ」
 アズマイがヤギサワに聞こえないような小声でつぶやいた。
 タカノがヤギサワの方に目を向けると、壁を蹴るのに飽きたのか、今度は頭を掻きむしっている。
「そういえば、最近ヤギサワの所の班長とかが集まって勉強会とかやっているって話、知っているか?」
 ヤギサワを無視してアズマイがタカノに話しかけた。
「勉強会」の言葉にヤギサワがぴくりと反応し、頭を掻く手を止めてアズマイとタカノの間に割って入る。
「勉強会だって? 単なるアカシ代表嫌いのクダ巻き大会だ、あんなもの。何の利益にもならない!」
 ヤギサワが「勉強会」を一刀両断する。彼にとっては禁句に近い言葉らしい。
「何で知ってるんだ?」
 タカノが疑問を投げかけた。
 ヤギサワによれば、近くの飲み屋で飲んでいたときに、偶然「勉強会」一行が気炎を揚げ続けていた場に出くわしたそうだ。
 話の中身は現在のアカシのやり方に対する不満ばかりで、何ら建設的なものではなかったという。
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