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第十章
461:武闘派というだけではない代表
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幸いなことにアカシを襲っていた今回の痛みは、それほど長くは続かなかった。
(大丈夫だな。気を張っていれば問題ない)
アカシが胃のあたりを押さえていた手を離すとほぼ同時に、シャワー室の入口のドアが開く音がした。
話し声からすると、中に入ってきたのは三、四人の若手のようだ。
聞いたことがある声が混じっているように思われたが、アカシはその正体を正確に思い出せない。
「それにしても、急な話だよなぁ」
「確かにこっちにいても大した仕事ができる状態ではないだろうけど……」
これらの言葉にアカシの怒りがあっという間に沸点に近づく。
話の内容から、先ほどアカシが話をした地熱発電所の支援に不満があることは明らかだったからだ。
(何を贅沢言っていやがる。今は文句を言っている場合じゃないぞ!)
「俺は地熱発電のところに行っても別に構わないっちゃ構わないけど……」
「でもなぁ……」
ついにアカシの堪忍袋の緒が切れた。怒りが沸点に達したのだ。
「いい加減にしろ! ただでさえ電力が足らないこの緊急事態に、ぐだぐだと文句を言っていられると思っているのか!」
アカシの怒鳴り声に辺りが一瞬にして静まりかえる。
そして、アカシはゆっくりと個室の扉を開けて外に出てきた。
外に飛び出さなかったあたりが、胃痛の影響なのかもしれない。
「だ、代表……聞いていたのですか?」
「聞いていた……? 声が大きいから勝手に聞こえてきたんじゃないか。俺はさっきからここにいたぞ!」
「……」
アカシの目の前に茫然とした様子の三人の若手が立っている。
彼らが先ほどの文句の主であることは疑いない。
アカシは三人の顔を順番に眺めてみたが、彼らの名前をはっきりとは思い出せなかった。
三人の作業着に縫い付けられている社名から、彼らがOP社と資本関係のない会社の人間らしいことがわかった。
これならアカシが三人をよく知らないのも無理はなかった。
三人は頭を垂れて、彼らなりに言葉が過ぎたことを悔いているように見えた。
「採掘場での仕事がないことの不満はわからんでもない。俺も採掘場の人間だからな」
アカシは先ほどよりは幾分落ち着いた口調で話しかけた。
彼も本来は現場の作業員であり、現在でもそうありたいと思っている。
しかし、状況が許さずに不本意ながらIMPUの代表を務めているのだ。
あくまで採掘場の現場で働きたい、という心情が理解できないはずがないのである。
ただし、現在は電力の確保が最優先だ。
電気が供給されなければ、採掘場の業務はおろか市民生活にまで支障が出る。
いや、既に市民生活にも大きな影響が出ているのだ。
現在の状況で採掘場だけが我を通すことは到底許される訳がない。
事実、街のネオンなどは通常の半分程度の点灯状況であるし、アカシの家でもエアコンが十分に動作できないなどの支障が出ているのだ。
「君等の家でも電灯なり暖房なりを制限しているのではないのか? そんなときに採掘場だけが『電気よこせ』じゃ、他の人たちが納得しないだろう」
アカシの言葉に三人が互いの顔色をうかがう。
「IMPUの鉄鋼事業の客は市民全員だ。IMPUも客商売をやっている以上、客の意向を無視した操業は許されないからな。それが当然だろう」
「つるはしを持って戦った組合の元委員長」のアカシには、武闘派のイメージがついて回る。
そのイメージとは異なるアカシの言葉の調子に不満を訴えていた三人も戸惑いを隠せない。
しかし、アカシは血の気が多いだけのトップではなかった。
むしろ組合の委員長としては根気良く作業者などの話を聞き、意見を交わしていた。
現場の言葉をOP社本社や当時社長であったハドリに届けるため、現場作業員の言葉を熱心に聞いて回ったという一面もあるのだ。
アカシは社会に出てから採掘場の現場一筋だったこともあり、その言葉は荒っぽいものも混じるが、それだけの人物ではない。
組合としては結果的に「タブーなきエンジニア集団」と手を組み、ハドリ率いるOP社治安改革部隊と直接矛を交える道を選択した。
それは、あくまでもそれが現場にとって最善だろうと考えてのことであり、はじめから戦いを求めていたわけではなかった。
今回に関してはOP社の発電事業に何らかの協力を行うことが、現場にとっての最善であるとアカシは考えている。
発電水準の回復は市民生活にとってもIMPUにとっても最優先の課題である。
そして、現在のOP社の発電技術者たちは十分な労働力を確保できないまま、日々の発電量の数字と泥沼のような格闘を続けている。
OP社治安改革部隊の戦いでアカシは十分な戦力や物資を持てない、そして終わりの見えない戦いの厳しさを、身をもって痛感させられた。
終わりの見えない戦いのさなかにある発電の現場には、作業者の補充が不可欠である。
一方でIMPUには一時的に人員の余剰があり、採掘現場の作業者などは発電に協力できるスキルのいくつかを有している。
それならば採掘場の作業者が発電事業に協力するのが筋というものであろう、とアカシは考えているのだ。
(大丈夫だな。気を張っていれば問題ない)
アカシが胃のあたりを押さえていた手を離すとほぼ同時に、シャワー室の入口のドアが開く音がした。
話し声からすると、中に入ってきたのは三、四人の若手のようだ。
聞いたことがある声が混じっているように思われたが、アカシはその正体を正確に思い出せない。
「それにしても、急な話だよなぁ」
「確かにこっちにいても大した仕事ができる状態ではないだろうけど……」
これらの言葉にアカシの怒りがあっという間に沸点に近づく。
話の内容から、先ほどアカシが話をした地熱発電所の支援に不満があることは明らかだったからだ。
(何を贅沢言っていやがる。今は文句を言っている場合じゃないぞ!)
「俺は地熱発電のところに行っても別に構わないっちゃ構わないけど……」
「でもなぁ……」
ついにアカシの堪忍袋の緒が切れた。怒りが沸点に達したのだ。
「いい加減にしろ! ただでさえ電力が足らないこの緊急事態に、ぐだぐだと文句を言っていられると思っているのか!」
アカシの怒鳴り声に辺りが一瞬にして静まりかえる。
そして、アカシはゆっくりと個室の扉を開けて外に出てきた。
外に飛び出さなかったあたりが、胃痛の影響なのかもしれない。
「だ、代表……聞いていたのですか?」
「聞いていた……? 声が大きいから勝手に聞こえてきたんじゃないか。俺はさっきからここにいたぞ!」
「……」
アカシの目の前に茫然とした様子の三人の若手が立っている。
彼らが先ほどの文句の主であることは疑いない。
アカシは三人の顔を順番に眺めてみたが、彼らの名前をはっきりとは思い出せなかった。
三人の作業着に縫い付けられている社名から、彼らがOP社と資本関係のない会社の人間らしいことがわかった。
これならアカシが三人をよく知らないのも無理はなかった。
三人は頭を垂れて、彼らなりに言葉が過ぎたことを悔いているように見えた。
「採掘場での仕事がないことの不満はわからんでもない。俺も採掘場の人間だからな」
アカシは先ほどよりは幾分落ち着いた口調で話しかけた。
彼も本来は現場の作業員であり、現在でもそうありたいと思っている。
しかし、状況が許さずに不本意ながらIMPUの代表を務めているのだ。
あくまで採掘場の現場で働きたい、という心情が理解できないはずがないのである。
ただし、現在は電力の確保が最優先だ。
電気が供給されなければ、採掘場の業務はおろか市民生活にまで支障が出る。
いや、既に市民生活にも大きな影響が出ているのだ。
現在の状況で採掘場だけが我を通すことは到底許される訳がない。
事実、街のネオンなどは通常の半分程度の点灯状況であるし、アカシの家でもエアコンが十分に動作できないなどの支障が出ているのだ。
「君等の家でも電灯なり暖房なりを制限しているのではないのか? そんなときに採掘場だけが『電気よこせ』じゃ、他の人たちが納得しないだろう」
アカシの言葉に三人が互いの顔色をうかがう。
「IMPUの鉄鋼事業の客は市民全員だ。IMPUも客商売をやっている以上、客の意向を無視した操業は許されないからな。それが当然だろう」
「つるはしを持って戦った組合の元委員長」のアカシには、武闘派のイメージがついて回る。
そのイメージとは異なるアカシの言葉の調子に不満を訴えていた三人も戸惑いを隠せない。
しかし、アカシは血の気が多いだけのトップではなかった。
むしろ組合の委員長としては根気良く作業者などの話を聞き、意見を交わしていた。
現場の言葉をOP社本社や当時社長であったハドリに届けるため、現場作業員の言葉を熱心に聞いて回ったという一面もあるのだ。
アカシは社会に出てから採掘場の現場一筋だったこともあり、その言葉は荒っぽいものも混じるが、それだけの人物ではない。
組合としては結果的に「タブーなきエンジニア集団」と手を組み、ハドリ率いるOP社治安改革部隊と直接矛を交える道を選択した。
それは、あくまでもそれが現場にとって最善だろうと考えてのことであり、はじめから戦いを求めていたわけではなかった。
今回に関してはOP社の発電事業に何らかの協力を行うことが、現場にとっての最善であるとアカシは考えている。
発電水準の回復は市民生活にとってもIMPUにとっても最優先の課題である。
そして、現在のOP社の発電技術者たちは十分な労働力を確保できないまま、日々の発電量の数字と泥沼のような格闘を続けている。
OP社治安改革部隊の戦いでアカシは十分な戦力や物資を持てない、そして終わりの見えない戦いの厳しさを、身をもって痛感させられた。
終わりの見えない戦いのさなかにある発電の現場には、作業者の補充が不可欠である。
一方でIMPUには一時的に人員の余剰があり、採掘現場の作業者などは発電に協力できるスキルのいくつかを有している。
それならば採掘場の作業者が発電事業に協力するのが筋というものであろう、とアカシは考えているのだ。
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