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第十章

459:笛吹けども

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 電力供給はIMPUにとって急務であったが、アカシやIMPUはインデストにおけるOP社の発電事業に対して権限や責任を有しているわけではない。
 あくまでインデストの産業と市民生活のため、自発的に動いているだけなのだ。

「発電技術者の連中、こっちで仕事したくないものだから、戻るのを渋ってるんじゃないですか?」
 一人の作業員が声をあげた。比較的若い声のようだ。
 それに呼応して今度は年配の作業員の声があがる。
「甘い甘い。奴等は高給取りだからいい気になっているに違いない」
 すると、今度はあちこちから声があがり、あたりが騒然となる。
「そうだ! 違いねぇ!」
「『リスク管理研究所』のレポートにも、そんな事が書いてあったぞ!」
「あいつら、サボタージュして条件を吊り上げるつもりじゃないのか?」
 カンッ!
「止めろ!」
 アカシが再びつるはしを鉄骨に叩きつけた。
 再びあたりが静まりかえる。

 市民生活のインフラを支える企業として、OP社はその責任を全うすべきだという考えはアカシにもある。
 ただ、その責を一方的に発電技術者に帰すという考えはアカシにはない。
 彼はIMPU代表就任前に労働組合のトップを務めていた。
 労働組合のトップに就任する前は鉄鉱石の採掘場で働く現場作業員であり、一〇名程度の班を率いる班長レベルの職位にあった。
 こうした経歴からか、彼の視点は常に労働者寄りである。
 そのため、彼の怒りの矛先は経営陣や労働組合の幹部に向くことになるはずなのだが、その切っ先もやや鈍かった。

 アカシは「インデスト鉱業労働者組合」と名を変えた労働組合の委員長に就任したヌガメ・モチナガを捕まえて、発電技術者の労働状況を調べてから経営陣に抗議しろと檄を飛ばした。もちろん、この労働組合の母体は「OP社グループ労働者組合」である。
 モチナガは既にこれらの調査を終えており、経営陣への抗議文を送っていた。
 それだけではなく、モチナガは直接ポータル・シティにあるOP社本社に出向き、経営陣や発電技術者と話をするという。
 また、モチナガの調査結果によると、発電技術者の労働環境は厳しいものの労使で決められたルールの遵守に関しては、むしろ経営陣の方が徹底している、となっていた。
 これらの状況を考えると、ここはIMPUが譲歩すべきだろうと思われた。
 現在のOP社の経営陣に対してもアカシは不満を持っているが、IMPUのメンバーの態度も他人のことを言える代物ではないように思える。

「子供じゃないんだ! 静かにしないか!」
 アカシからすれば、現在のIMPUは菓子を欲しがる幼児の集まりのようにすら思える。
 電力の供給が減っただけで、ここまでの騒ぎになるとは怒りを通り越して情けなくすらなるのだ。
 特に見苦しいと思えるのが、かつてOP社に籍を置き発電関係の業務に就いていながら、ハドリの死後に発電事業に関係のない職に転向したIMPUのメンバーである。
 彼らには比較的年長者が多いのだが、アカシからみれば年齢をかさに文句だけたれているようにしか見えない。
 ECN社がOP社へ発電関係の技術者を派遣すると発表した直後、アカシも彼らの存在を思い出しインデストの発電所へ派遣しようと試みたのだ。
 しかし、彼らは何かと理由をつけてアカシの命令に従わないどころか、かつて同じ職場で働いていたはずのOP社の発電技術者を非難する有様だった。
 アカシは激怒して、彼らに一時帰休を命じた。
 電力の供給が不足している以上、IMPUの業務も減っており労働力が余り気味である。
 一部の労働者が外れたところで、当面の業務遂行には何ら問題がないはずであった。

 アカシはこの日、採掘場の状況を確認するため、現場に顔を出していた。
 本質的に彼は現場作業員であり、管理の仕事はあまり好みではない。
 そのためIMPU代表に就任してからも、事務所より現場に出向くことが多かった。
 また、組合の委員長をしていたときから、現場の生の声を聞く、現場の空気を肌で感じることに非常に重きを置いている。
 その証拠にアカシは採掘現場だけではなく、加工や輸送、設備のメンテナンスまでIMPUを構成するあらゆる企業の現場に顔を出している。
 アカシは他の幹部に「現場に足を運べ」と何度も激を飛ばしているが、彼らの足は一向に現場に向かう気配はなかった。
 それどころか、他の幹部からは現場を軽んじる発言が頻出していた。
 アカシを除く他の幹部は、ほとんどが管理畑か他の業種の経験が長く、現場を軽んじる傾向があった。これが幹部の中でも足並みがそろわない原因となっていた。
 現場を軽んじている幹部達は、唯一現場が長いアカシに対しても、それを隠すことをしていないように見える。
 短いながらも現場経験のあるカイト・タマノはこうした姿勢を見せなかったが、高齢のためか現場に足を運ぶ機会は多くなかった。
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