36 / 234
第十章
459:笛吹けども
しおりを挟む
電力供給はIMPUにとって急務であったが、アカシやIMPUはインデストにおけるOP社の発電事業に対して権限や責任を有しているわけではない。
あくまでインデストの産業と市民生活のため、自発的に動いているだけなのだ。
「発電技術者の連中、こっちで仕事したくないものだから、戻るのを渋ってるんじゃないですか?」
一人の作業員が声をあげた。比較的若い声のようだ。
それに呼応して今度は年配の作業員の声があがる。
「甘い甘い。奴等は高給取りだからいい気になっているに違いない」
すると、今度はあちこちから声があがり、あたりが騒然となる。
「そうだ! 違いねぇ!」
「『リスク管理研究所』のレポートにも、そんな事が書いてあったぞ!」
「あいつら、サボタージュして条件を吊り上げるつもりじゃないのか?」
カンッ!
「止めろ!」
アカシが再びつるはしを鉄骨に叩きつけた。
再びあたりが静まりかえる。
市民生活のインフラを支える企業として、OP社はその責任を全うすべきだという考えはアカシにもある。
ただ、その責を一方的に発電技術者に帰すという考えはアカシにはない。
彼はIMPU代表就任前に労働組合のトップを務めていた。
労働組合のトップに就任する前は鉄鉱石の採掘場で働く現場作業員であり、一〇名程度の班を率いる班長レベルの職位にあった。
こうした経歴からか、彼の視点は常に労働者寄りである。
そのため、彼の怒りの矛先は経営陣や労働組合の幹部に向くことになるはずなのだが、その切っ先もやや鈍かった。
アカシは「インデスト鉱業労働者組合」と名を変えた労働組合の委員長に就任したヌガメ・モチナガを捕まえて、発電技術者の労働状況を調べてから経営陣に抗議しろと檄を飛ばした。もちろん、この労働組合の母体は「OP社グループ労働者組合」である。
モチナガは既にこれらの調査を終えており、経営陣への抗議文を送っていた。
それだけではなく、モチナガは直接ポータル・シティにあるOP社本社に出向き、経営陣や発電技術者と話をするという。
また、モチナガの調査結果によると、発電技術者の労働環境は厳しいものの労使で決められたルールの遵守に関しては、むしろ経営陣の方が徹底している、となっていた。
これらの状況を考えると、ここはIMPUが譲歩すべきだろうと思われた。
現在のOP社の経営陣に対してもアカシは不満を持っているが、IMPUのメンバーの態度も他人のことを言える代物ではないように思える。
「子供じゃないんだ! 静かにしないか!」
アカシからすれば、現在のIMPUは菓子を欲しがる幼児の集まりのようにすら思える。
電力の供給が減っただけで、ここまでの騒ぎになるとは怒りを通り越して情けなくすらなるのだ。
特に見苦しいと思えるのが、かつてOP社に籍を置き発電関係の業務に就いていながら、ハドリの死後に発電事業に関係のない職に転向したIMPUのメンバーである。
彼らには比較的年長者が多いのだが、アカシからみれば年齢をかさに文句だけたれているようにしか見えない。
ECN社がOP社へ発電関係の技術者を派遣すると発表した直後、アカシも彼らの存在を思い出しインデストの発電所へ派遣しようと試みたのだ。
しかし、彼らは何かと理由をつけてアカシの命令に従わないどころか、かつて同じ職場で働いていたはずのOP社の発電技術者を非難する有様だった。
アカシは激怒して、彼らに一時帰休を命じた。
電力の供給が不足している以上、IMPUの業務も減っており労働力が余り気味である。
一部の労働者が外れたところで、当面の業務遂行には何ら問題がないはずであった。
アカシはこの日、採掘場の状況を確認するため、現場に顔を出していた。
本質的に彼は現場作業員であり、管理の仕事はあまり好みではない。
そのためIMPU代表に就任してからも、事務所より現場に出向くことが多かった。
また、組合の委員長をしていたときから、現場の生の声を聞く、現場の空気を肌で感じることに非常に重きを置いている。
その証拠にアカシは採掘現場だけではなく、加工や輸送、設備のメンテナンスまでIMPUを構成するあらゆる企業の現場に顔を出している。
アカシは他の幹部に「現場に足を運べ」と何度も激を飛ばしているが、彼らの足は一向に現場に向かう気配はなかった。
それどころか、他の幹部からは現場を軽んじる発言が頻出していた。
アカシを除く他の幹部は、ほとんどが管理畑か他の業種の経験が長く、現場を軽んじる傾向があった。これが幹部の中でも足並みがそろわない原因となっていた。
現場を軽んじている幹部達は、唯一現場が長いアカシに対しても、それを隠すことをしていないように見える。
短いながらも現場経験のあるカイト・タマノはこうした姿勢を見せなかったが、高齢のためか現場に足を運ぶ機会は多くなかった。
あくまでインデストの産業と市民生活のため、自発的に動いているだけなのだ。
「発電技術者の連中、こっちで仕事したくないものだから、戻るのを渋ってるんじゃないですか?」
一人の作業員が声をあげた。比較的若い声のようだ。
それに呼応して今度は年配の作業員の声があがる。
「甘い甘い。奴等は高給取りだからいい気になっているに違いない」
すると、今度はあちこちから声があがり、あたりが騒然となる。
「そうだ! 違いねぇ!」
「『リスク管理研究所』のレポートにも、そんな事が書いてあったぞ!」
「あいつら、サボタージュして条件を吊り上げるつもりじゃないのか?」
カンッ!
「止めろ!」
アカシが再びつるはしを鉄骨に叩きつけた。
再びあたりが静まりかえる。
市民生活のインフラを支える企業として、OP社はその責任を全うすべきだという考えはアカシにもある。
ただ、その責を一方的に発電技術者に帰すという考えはアカシにはない。
彼はIMPU代表就任前に労働組合のトップを務めていた。
労働組合のトップに就任する前は鉄鉱石の採掘場で働く現場作業員であり、一〇名程度の班を率いる班長レベルの職位にあった。
こうした経歴からか、彼の視点は常に労働者寄りである。
そのため、彼の怒りの矛先は経営陣や労働組合の幹部に向くことになるはずなのだが、その切っ先もやや鈍かった。
アカシは「インデスト鉱業労働者組合」と名を変えた労働組合の委員長に就任したヌガメ・モチナガを捕まえて、発電技術者の労働状況を調べてから経営陣に抗議しろと檄を飛ばした。もちろん、この労働組合の母体は「OP社グループ労働者組合」である。
モチナガは既にこれらの調査を終えており、経営陣への抗議文を送っていた。
それだけではなく、モチナガは直接ポータル・シティにあるOP社本社に出向き、経営陣や発電技術者と話をするという。
また、モチナガの調査結果によると、発電技術者の労働環境は厳しいものの労使で決められたルールの遵守に関しては、むしろ経営陣の方が徹底している、となっていた。
これらの状況を考えると、ここはIMPUが譲歩すべきだろうと思われた。
現在のOP社の経営陣に対してもアカシは不満を持っているが、IMPUのメンバーの態度も他人のことを言える代物ではないように思える。
「子供じゃないんだ! 静かにしないか!」
アカシからすれば、現在のIMPUは菓子を欲しがる幼児の集まりのようにすら思える。
電力の供給が減っただけで、ここまでの騒ぎになるとは怒りを通り越して情けなくすらなるのだ。
特に見苦しいと思えるのが、かつてOP社に籍を置き発電関係の業務に就いていながら、ハドリの死後に発電事業に関係のない職に転向したIMPUのメンバーである。
彼らには比較的年長者が多いのだが、アカシからみれば年齢をかさに文句だけたれているようにしか見えない。
ECN社がOP社へ発電関係の技術者を派遣すると発表した直後、アカシも彼らの存在を思い出しインデストの発電所へ派遣しようと試みたのだ。
しかし、彼らは何かと理由をつけてアカシの命令に従わないどころか、かつて同じ職場で働いていたはずのOP社の発電技術者を非難する有様だった。
アカシは激怒して、彼らに一時帰休を命じた。
電力の供給が不足している以上、IMPUの業務も減っており労働力が余り気味である。
一部の労働者が外れたところで、当面の業務遂行には何ら問題がないはずであった。
アカシはこの日、採掘場の状況を確認するため、現場に顔を出していた。
本質的に彼は現場作業員であり、管理の仕事はあまり好みではない。
そのためIMPU代表に就任してからも、事務所より現場に出向くことが多かった。
また、組合の委員長をしていたときから、現場の生の声を聞く、現場の空気を肌で感じることに非常に重きを置いている。
その証拠にアカシは採掘現場だけではなく、加工や輸送、設備のメンテナンスまでIMPUを構成するあらゆる企業の現場に顔を出している。
アカシは他の幹部に「現場に足を運べ」と何度も激を飛ばしているが、彼らの足は一向に現場に向かう気配はなかった。
それどころか、他の幹部からは現場を軽んじる発言が頻出していた。
アカシを除く他の幹部は、ほとんどが管理畑か他の業種の経験が長く、現場を軽んじる傾向があった。これが幹部の中でも足並みがそろわない原因となっていた。
現場を軽んじている幹部達は、唯一現場が長いアカシに対しても、それを隠すことをしていないように見える。
短いながらも現場経験のあるカイト・タマノはこうした姿勢を見せなかったが、高齢のためか現場に足を運ぶ機会は多くなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる