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第十章

457:三代のタスクユニットの長

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 ウォーリーは良くも悪くも社内で目立つ人間であった。
 社を離れてからも「タブーなきエンジニア集団」を立ち上げ、運営を軌道に乗せるとともに、エクザロームで唯一、部外者としてハドリ率いるOP社と真っ向勝負を挑んだ。
 彼はこうして自らの異能ぶりを実戦の場で証明し続けてきたのだ。

 一方、エリックは優れた技術者であった。
 彼の実績は、そのほとんどが作業現場でのものである。
 「タブーなきエンジニア集団」ではよくウォーリーを支えたのであるが、あくまでも補佐役としての実績であるし、それ自体もECN社ではほとんど知られていない。
 エリック自身も自分がウォーリーのような引っ張るマネジメント向きでないことは承知しており、彼のマネジメントはウォーリーのそれとは形を異にしている。
 こうしたエリックの態度が部下に物足りなさを感じさせる要因となるのは否めないだろう。

 ただし、エリックの率いるタスクユニットの業績は決して悪くない。
 「東部探索隊」という不採算事業に多くのリソースを割いているにもかかわらず、相応の業績があがっているのには理由がある。
 エリックは技術者として作業をすることが多かった人物である。
 彼が思うに技術者が最も嫌うのは、「現場を知らない人間━━特に上司━━が、中途半端な知識を持って現場に介入すること」であった。
 エリックが技術者をやっていた当時、彼に関わっていた上司はウォーリーやミヤハラ、そしてサクライである。
 ミヤハラやサクライは技術のことをほとんど理解していないが、現場に介入することもしなかった。問題がなければエリックにすべて任せてくれた。
 その意味でエリックが「現場を知らない上司」に悩まされることはほとんどなかった。それでもウォーリーやミヤハラなどの目の届かないところでは、何度かその手の輩に悩まされる経験をしている。
 だから技術者上がりのトップとして、これを徹底的に避けたのであった。

 一方、ウォーリーはエリックに勝るとも劣らない技術者でもある。
 そして、交渉ごとが決して得意ではないエリックに代わり交渉の窓口を務めたのも彼である。エリックが救われたのは一度や二度ではない。
 特にウォーリーの部下時代のエリックは口が悪かったから、エリック自身が意図しないところで相手の気分を害する危険もあった。だが、ウォーリーが常に前線に立っていたため、ことごとく危険が回避できていた。

 エリックは技術の面からはウォーリーと同じアプローチができる。交渉や管理は得意ではないのでミヤハラやサクライに倣い、求められない限り介入を避けた。
 これが現場に「物足りない」と言わせながらも、現場を上手く回せていた要因であった。
 とはいえ部下からの評判が芳しくないことは、決してよい状態ではない。
 エリックに部下が近寄らない背景は複雑だ。
 一部の社員からは、社内に実績がないのに現在の地位にあるとして妬みの的となっている。
 タスクユニットの前のトップであったヘンミ派の社員から見れば、エリックの仕事は泥臭すぎた。これがヘンミ派の社員に対して「実績がない」と思わせる要因となっていた。彼らは華やかな仕事や実績を求めるからだ。

 一方、一部の「タブーなきエンジニア集団」出身の社員は、ウォーリーの死に対してエリックが責任を負う立場だとしている。
 エリックを支持する社員は「タブーなきエンジニア集団」の者が多いが、もとをただせばECN社の若手社員が中心である。
 「タブーなきエンジニア集団」出身者の間でもエリックの評価は分かれており、エリックの支持者はその数の少なさもあって、表立って彼に接触しにくい状況にある。
 特に「東部探索隊」事業が失敗に終われば、責任者のエリックの更迭は免れないであろうし、事業を許可したミヤハラやサクライも責任を問われる立場にある。
 そうなった場合、次にエリックのポジションに来る者は誰なのか……?
 「タブーなきエンジニア集団」を快く思わない者が後継者となった場合、エリックとの関係が深い者は冷遇されるかもしれない。
 こうした可能性がエリックに対して悪い印象を持っていない社員をも彼から遠ざける原因になっている。巻き添えになってはかなわない、ということだ。
 エリックに「東部探索隊」の状況を聞く者がないのも、同じ理由である。
 現在のところは、「東部探索隊」を中心とした事業の成否を見極めている従業員が多いようだ。
 エリックは従業員に旗色をはっきりするよう命じなかったし、また、その手の威圧感のようなものを持ち合わせてはいなかった。
 このことが、エリックやミヤハラ、サクライ、そしてECN社に何をもたらすのか、現在のところ知る者はないようであった……
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