ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
33 / 213
第十章

456:エリックの評価

しおりを挟む
 エリックがかつての仲間の連絡先を探し出したころ……

「ねぇ、モトムラマネージャーってあんな感じの人だっけ?」
「戻ってくる前はもうちょっと口の悪い人だと思っていたけど……?」
「何かあんたが言っていたのと、イメージが違うからどうしたかと思っているわよ!」
 ECN社本社近くの居酒屋で、数名のグループがエリックを肴に酒を楽しんでいた。
 ECN社の社員のようで、年のころは皆エリックと同じくらいか少し上に見える。
「昔、一緒に作業したことあるけど、亡くなったトワマネージャーにすら嫌味を言うくらいの人だったんだけどね……」
「全然そんな感じじゃないわよ。面白みも何にもないって言うか」
「そうだなぁ。もともと『いい感じの人』だったけど、前はその嫌味が面白かったし、もう少し何ていうか……要領が悪くて不器用な感じの人だったと思うんだけどな」
「何か小器用でそつがない、って感じに見えるわよ! 面白くもなんともない!」

 彼女らはエリックのタスクユニットに所属する社員たちであった。
 会話から想像するに、「タブーなきエンジニア集団」には参加せずに、ECN社に残り続けていたメンバーのようだ。
「まあ、仕事がやりにくい、って訳じゃないから、文句を言っても仕方ないかもな。セキノサブマネみたいに口うるさい爺さんじゃないし」
 セキノというのはエリックの部下のサブマネージャーである。
 宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」移住者募集に応じたという七〇歳近くの老人である。
 ここエクザロームには七〇歳以上の者と三〇歳未満の者が多く、ECN社もその例外ではない。
 社会の前線で戦う世代の人口が極端に少ないので、先ほどのような「老人に使われる若者」という構図もここでは決して珍しいものではない。
「サブマネなんて関係ないじゃない。『タブーなきエンジニア集団』で活躍した、っていうからどんな人かと思ったら、目立たない真面目な感じの人でさ、つまらない。マネージャーならもうちょっと悪くても面白い感じの人じゃないと。そうじゃないと、何で私よりも年下なのにマネージャーやっているのかわからないわよ」
「マネージャーだとなかなか現場には出られないからなぁ。技術的には確かな人なのは間違いないよ。忙しそうだから現場になかなか来ないけど、技術者の立場からはもうちょっと現場を助けて欲しいな、という気分だけどね」
「そうなの?」
「でも、コストコストとばかりいっていたヘンミTMよりはましだよ。あの人も目立たない人だったけど、コストにだけはうるさかったからなぁ」
「技術じゃない私にはよくわからないけどね。前の上司よりはまし、ってことか……」
 職場におけるエリックの評判は大体彼らの会話のようなものであった。
 どこの職場にも上司に対する不満というものはあるもので、エリックについても例外ではなかった。
 前任のヘンミは営業や顧客に対するウケがよいタイプではあったが、他の従業員━━特に現場の技術者━━からのウケはよくなかった。
 その点、エリックはバランスが取れているが、現場の技術者たちはヘンミの前任であるウォーリーのときのような扱いを期待していた。その点ではやや期待外れ、といったところだった。
 面白み、という点については、エリックの嫌味がウォーリーやミヤハラ、サクライなどといった上司という触媒を必要としたことが原因であったかもしれない。
 タスクユニットの長となった現在では、触媒を得ることが難しいのだ。

 彼のエリックはウォーリーより一歳下の二五歳で上級チームマネージャーとなった。これより上の役職はECN社には社長副社長を含めた役員しかない。
 エリックは約二ヶ月前に上級チームマネージャーとして二六歳の誕生日を迎えたが、過去にも現在にも二六歳で上級チームマネージャーだった者はこの二人だけなのだ。
 オイゲンは二〇代で社長になったが、彼は前の社長の長男であった。それに彼はECN社で上級チームマネージャーの地位に就いたことがない。
 その彼ですら、二六歳の時点では上級チームマネージャーのふたつ下のサブマネージャーでしかなかった。
 そう考えれば、ウォーリーやエリックの出世速度は異例のものであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
SF
1,769年の時を超えて目覚めた古代の女王壱与と、現代の考古学者が織り成す異色のタイムトラベルファンタジー!過去の邪馬壱国を再興し、平和を取り戻すために、二人は歴史の謎を解き明かし、未来を変えるための冒険に挑む。時代考証や設定を完全無視して描かれる、奇想天外で心温まる(?)物語!となる予定です……!

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...