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第十章
453:かの情報は伏せられた
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本社のエリックと「東部探索隊」のメンバーとの通信はまだ続いている。
「俺は色々言わせてもらったから、他のメンバーに聞きますわ」
ロビーがそう言って他のメンバーの方に通信機のカメラを向けた。
最初にオオイダが食糧供給について、一通りの文句をエリックにぶつけた。
大食漢の彼女らしい、と周りのほぼ全員が思ったに違いない。
次にカネサキが補給の遅れについて、エリックの不手際を指摘した。
「そちらの状況はわかりますが、こちらとしても間違いは間違いとして正さなければならないので」
と言うあたり、仕事に厳しいカネサキらしい。
エリックにとっては耳の痛い意見であるが、少なくとも彼は意見をさえぎることはしない。結局エリックは次回以降の改善を約束してカネサキには納得してもらった。
コナカ、ホンゴウ、アイネスは特に今言うことはないという。
メイはエリックとすら話ができないので、画面に映らないよう隅っこの方に避難しているようだ。
「今後はいつでも通信をつなげられますから、何かあれば遠慮なく連絡するのでそのつもりでよろしく」
最後にロビーがそう言って通信を閉じた。
もともとあまり遠慮のないタイプではあるが、相手がエリックの場合は特にその傾向が強い。
ロビーにとってエリックはそれだけ相手にしやすいのである。
もっとも軽口は叩いているものの、「東部探索隊」の責務は重々承知している。
隊そのものの人数は七名と少ないが、補給や事務処理などでこの事業に関わっている人数は決して少なくない。
それだけのリソースを割いてもらっていることに対して、結果責任があるということはロビーも理解しているのだ。
ただし、ロビーがもっとも責任を感じている相手はあくまでもセスである。
次いで「東部探索隊」のメンバーとセスの兄である故ウォーリー・トワといったあたりであろう。
(次のルートで決着をつけてやるからな。すまないが、もうちょっと辛抱してくれ……)
ロビーはそう誓ったが、相手は既に彼とは違う世界の住人となっていた。
たとえ誓いが果たされたとしても、それを相手に知らしめる術も、相手が知ったことを確かめる術もなかったのである。
しかし、彼とその仲間たちはそのことを未だ知らず己の誓いを果たすため猛進を続けている……
「ふぅ……助かった」
執務室で胸を撫で下ろしたのはロビーの通信相手のエリックであった。
セスの話題が出なかったため、その死をロビーに伏せておくことができた。
自ら決めたこととはいえ、知っていることを隠すのは心苦しかった。
エリックも確信を持って決断したわけではない。
ただ、この決断に文句があるならば、エリックは正面から受け止める覚悟だけはしていた。
それが彼なりのロビーに対する誠意であり、事業の責任者としての使命であると彼は考えていたのだ。
あたりを見回してみる。
いつの間にか終業時刻を過ぎており、執務室に残っているのは三割程度の人数であった。
七千名を率いる上級チームマネージャーという職位にあっても、エリックは個人の執務室を持たなかった。彼がいるのは「執務室」と銘打たれているものの、実際は数百人が入る「執務エリア」「執務フロア」などと言うべきものであった。
これは彼自身が現場の技術者上がりであったことと、上司であるウォーリーやミヤハラの影響という二つの要因が相まってのことである。
実のところ、ECN社の上級チームマネージャーやその直下のチームマネージャーで個人の執務室を持たない者は少数派である。
エリックは技術者として現場に出ることが比較的多く、また、当たり前のように他の技術者と連携を取りながら作業をしていたから、周辺に誰もいない職場というのが肌に合わないと思っている。現在は「東部探索隊」関連の業務に時間を割いているため、他の業務の現場に出る機会は減ってしまっているのだが。
ウォーリーも似たような感情を持っていたのだが、ウォーリーの場合はもう少し積極的に「現場にいないと感覚が鈍る」と上級チームマネージャーの職にあっても精力的に現場に入り込んでいた。
一方、ミヤハラの場合は少々事情が異なる。
彼の場合、ECN社時代には年長者ということでウォーリーも気を遣って個室を用意したのだが、「エレベーターから遠い」「荷物を運び込むのが面倒」と自席を動かなかった。
周囲は単に面倒だからと推測したが、この場合それは正しかった。
好意を踏みにじられた形となったウォーリーはミヤハラに個室に入るよう促したのだが、ミヤハラは空きスペースを探していた技術者たちに勝手に使用許可を与えてしまった。
その結果、ウォーリーが用意した部屋は技術者たちの作業場となってしまったのである。
それを見たウォーリーは「仕方ねえなぁ」と呆れた顔を見せたものの、以降、新たな部屋を用意することもミヤハラを責めることもなかった。
ともかく、エリックは個人の執務室を持たなかったことも、本人がそれを望まなかったことも事実である。
「俺は色々言わせてもらったから、他のメンバーに聞きますわ」
ロビーがそう言って他のメンバーの方に通信機のカメラを向けた。
最初にオオイダが食糧供給について、一通りの文句をエリックにぶつけた。
大食漢の彼女らしい、と周りのほぼ全員が思ったに違いない。
次にカネサキが補給の遅れについて、エリックの不手際を指摘した。
「そちらの状況はわかりますが、こちらとしても間違いは間違いとして正さなければならないので」
と言うあたり、仕事に厳しいカネサキらしい。
エリックにとっては耳の痛い意見であるが、少なくとも彼は意見をさえぎることはしない。結局エリックは次回以降の改善を約束してカネサキには納得してもらった。
コナカ、ホンゴウ、アイネスは特に今言うことはないという。
メイはエリックとすら話ができないので、画面に映らないよう隅っこの方に避難しているようだ。
「今後はいつでも通信をつなげられますから、何かあれば遠慮なく連絡するのでそのつもりでよろしく」
最後にロビーがそう言って通信を閉じた。
もともとあまり遠慮のないタイプではあるが、相手がエリックの場合は特にその傾向が強い。
ロビーにとってエリックはそれだけ相手にしやすいのである。
もっとも軽口は叩いているものの、「東部探索隊」の責務は重々承知している。
隊そのものの人数は七名と少ないが、補給や事務処理などでこの事業に関わっている人数は決して少なくない。
それだけのリソースを割いてもらっていることに対して、結果責任があるということはロビーも理解しているのだ。
ただし、ロビーがもっとも責任を感じている相手はあくまでもセスである。
次いで「東部探索隊」のメンバーとセスの兄である故ウォーリー・トワといったあたりであろう。
(次のルートで決着をつけてやるからな。すまないが、もうちょっと辛抱してくれ……)
ロビーはそう誓ったが、相手は既に彼とは違う世界の住人となっていた。
たとえ誓いが果たされたとしても、それを相手に知らしめる術も、相手が知ったことを確かめる術もなかったのである。
しかし、彼とその仲間たちはそのことを未だ知らず己の誓いを果たすため猛進を続けている……
「ふぅ……助かった」
執務室で胸を撫で下ろしたのはロビーの通信相手のエリックであった。
セスの話題が出なかったため、その死をロビーに伏せておくことができた。
自ら決めたこととはいえ、知っていることを隠すのは心苦しかった。
エリックも確信を持って決断したわけではない。
ただ、この決断に文句があるならば、エリックは正面から受け止める覚悟だけはしていた。
それが彼なりのロビーに対する誠意であり、事業の責任者としての使命であると彼は考えていたのだ。
あたりを見回してみる。
いつの間にか終業時刻を過ぎており、執務室に残っているのは三割程度の人数であった。
七千名を率いる上級チームマネージャーという職位にあっても、エリックは個人の執務室を持たなかった。彼がいるのは「執務室」と銘打たれているものの、実際は数百人が入る「執務エリア」「執務フロア」などと言うべきものであった。
これは彼自身が現場の技術者上がりであったことと、上司であるウォーリーやミヤハラの影響という二つの要因が相まってのことである。
実のところ、ECN社の上級チームマネージャーやその直下のチームマネージャーで個人の執務室を持たない者は少数派である。
エリックは技術者として現場に出ることが比較的多く、また、当たり前のように他の技術者と連携を取りながら作業をしていたから、周辺に誰もいない職場というのが肌に合わないと思っている。現在は「東部探索隊」関連の業務に時間を割いているため、他の業務の現場に出る機会は減ってしまっているのだが。
ウォーリーも似たような感情を持っていたのだが、ウォーリーの場合はもう少し積極的に「現場にいないと感覚が鈍る」と上級チームマネージャーの職にあっても精力的に現場に入り込んでいた。
一方、ミヤハラの場合は少々事情が異なる。
彼の場合、ECN社時代には年長者ということでウォーリーも気を遣って個室を用意したのだが、「エレベーターから遠い」「荷物を運び込むのが面倒」と自席を動かなかった。
周囲は単に面倒だからと推測したが、この場合それは正しかった。
好意を踏みにじられた形となったウォーリーはミヤハラに個室に入るよう促したのだが、ミヤハラは空きスペースを探していた技術者たちに勝手に使用許可を与えてしまった。
その結果、ウォーリーが用意した部屋は技術者たちの作業場となってしまったのである。
それを見たウォーリーは「仕方ねえなぁ」と呆れた顔を見せたものの、以降、新たな部屋を用意することもミヤハラを責めることもなかった。
ともかく、エリックは個人の執務室を持たなかったことも、本人がそれを望まなかったことも事実である。
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