ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十章

451:東は近い

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「……やり直しですね。今の拠点から新しいルートを探索し直します」
 エリックに状況を尋ねられたロビーは現状のルートを諦め、新たなルートを探さなければならない現状を素直に伝えた。

「焦らず、無理せずに隊のペースで探してくれればいいから」
 エリックはロビーに余計な負担をかけないように気を遣ったのか、言葉を選んで隊を励ましてきた。
「まあ、セスも待っているだろうし、そうも言っていられないですからね。天候が回復したら次の候補を当たりますよ。期待していて待っていてください」
 十分な成果は得られていないもののロビーの言葉は頼もしい。まだ隊の士気は落ちていない。

 エリックは言葉の最初にセスの名前が出てきたことで、ひとつの意思を感じ取った。
 ロビーにとって、最重要なのはセスの代わりに東部を探索することなのだ。
 すると、セスの死をロビーに伝えることは、彼の目的を失わせることにつながる。
(やっぱり、クルス君のことを伝えないとした判断は正しかったかな……)
 エリックは自分の選択をそう判断した。
 確信などはなかったが、そう信じたかったのだ。

「ところでマネージャー、今度の補給のときは菓子類を多めに持ってきてくれないですかね。メルツ室長のセンスで選んでもらえると助かるんですが」
 スピーカーを通して聞こえるロビーの口調は軽やかである。この口調が物事を頼まれた側にも、周辺にいる者にも安心感を与える。
 この安心感こそが、彼が自身の要求を通すための最大の武器であった。
 後に「天才的要求家」とまで陰口を叩かれるようになった彼の才能の片鱗が垣間見えたようにエリックには思われた。
「……それは構わないけど、何で菓子類なんだ?」
「いやぁ、オオイダ先輩がここに着くや否や菓子を漁ってましてね、全然足らないんですよ。女性の食べ物の恨みは特に怖いですからね、俺としても先輩に恨まれたくはないわけでして」
 ロビーの冗談めいた言葉の背後から、「先輩って何よ!」とオオイダの抗議の声が聞こえてきた。
 ロビーが携帯端末のカメラを動かして、オオイダの方に向ける。
 エリックの正面の画面にバウムクーヘンをくわえたオオイダの姿が大写しになった。
 画面の向こうが笑いに包まれる。
 ニヤニヤ顔のカネサキが割り込んでオオイダの頭を押さえて頭を下げさせる。
「マネージャー、すみません。ちゃんと教育しておきますので」
 カネサキの言葉にオオイダが「カネサキ、あんたねぇ」と抗議する。
 そして、口から落ちそうになったバウムクーヘンの欠片を慌てて手で押さえる。
 エリックはこの様子を見て確信した。
 (まだまだ士気は高い。これなら大丈夫)
 そして、彼らの探索を全力でバックアップすることを決めた。

 その後はロビーとエリックとの間で現状についての情報交換が行われた。
 エリックの側からは主に補給体制の情報が。
 ロビーの側からは探索の進行状況と今後の見通しについての情報である。
 これらの情報交換は双方にとって利益のあるものだった。
 まず、エリックからもたらされた情報により、「東部探索隊」は彼らの予想以上に東に進んでいたことが判明した。
 ロビーの隊は出発を急いだため、位置確認のために必要な機器を十分には持っていなかった。
 予定では後続の補給部隊が現在よりも西の位置で追いつき、位置確認の機器を手渡すことになっていた。
 しかし、ロビーたちの進行が早く、彼らの予定よりも二〇キロ以上も東の位置に達していた。
 これにより、通信のための中継局をいくつか余計に設置する必要が生じ、結果的に補給物資のやり取りが一ヶ月近くも遅れてしまったのである。
 中継局が余計に設置されたことによるメリットもあった。
 ロビーたちが到着した中継局の手前数キロまでのエリアは、後続部隊による探索がかなり進んでいた。
 「はじまりの丘」から約一四〇キロメートルの距離については、ほぼ安全に移動できる道が開拓されていたのである。
 この道を使えば、「はじまりの丘」から、ロビーのいる中継局までは一週間から一〇日程度の距離である。
 物資の補給に関しては相当条件が良くなった。
 現在の位置までの補給に関しては、ほぼ心配が要らないというレベルである。
 また、新たに得られた位置情報を分析した結果、彼らの行く手を阻むドガン山脈を超えて目的とするサブマリン島東部までのおおよその距離が判明した。
 約二五キロメートル、これがその距離である。
 これは、これまでロビーたちが考えていた距離の六割程度であった。
 思ったより、島の東は近い。
 これらの情報が隊のメンバーに勇気をもたらした。
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