28 / 233
第十章
451:東は近い
しおりを挟む
「……やり直しですね。今の拠点から新しいルートを探索し直します」
エリックに状況を尋ねられたロビーは現状のルートを諦め、新たなルートを探さなければならない現状を素直に伝えた。
「焦らず、無理せずに隊のペースで探してくれればいいから」
エリックはロビーに余計な負担をかけないように気を遣ったのか、言葉を選んで隊を励ましてきた。
「まあ、セスも待っているだろうし、そうも言っていられないですからね。天候が回復したら次の候補を当たりますよ。期待していて待っていてください」
十分な成果は得られていないもののロビーの言葉は頼もしい。まだ隊の士気は落ちていない。
エリックは言葉の最初にセスの名前が出てきたことで、ひとつの意思を感じ取った。
ロビーにとって、最重要なのはセスの代わりに東部を探索することなのだ。
すると、セスの死をロビーに伝えることは、彼の目的を失わせることにつながる。
(やっぱり、クルス君のことを伝えないとした判断は正しかったかな……)
エリックは自分の選択をそう判断した。
確信などはなかったが、そう信じたかったのだ。
「ところでマネージャー、今度の補給のときは菓子類を多めに持ってきてくれないですかね。メルツ室長のセンスで選んでもらえると助かるんですが」
スピーカーを通して聞こえるロビーの口調は軽やかである。この口調が物事を頼まれた側にも、周辺にいる者にも安心感を与える。
この安心感こそが、彼が自身の要求を通すための最大の武器であった。
後に「天才的要求家」とまで陰口を叩かれるようになった彼の才能の片鱗が垣間見えたようにエリックには思われた。
「……それは構わないけど、何で菓子類なんだ?」
「いやぁ、オオイダ先輩がここに着くや否や菓子を漁ってましてね、全然足らないんですよ。女性の食べ物の恨みは特に怖いですからね、俺としても先輩に恨まれたくはないわけでして」
ロビーの冗談めいた言葉の背後から、「先輩って何よ!」とオオイダの抗議の声が聞こえてきた。
ロビーが携帯端末のカメラを動かして、オオイダの方に向ける。
エリックの正面の画面にバウムクーヘンをくわえたオオイダの姿が大写しになった。
画面の向こうが笑いに包まれる。
ニヤニヤ顔のカネサキが割り込んでオオイダの頭を押さえて頭を下げさせる。
「マネージャー、すみません。ちゃんと教育しておきますので」
カネサキの言葉にオオイダが「カネサキ、あんたねぇ」と抗議する。
そして、口から落ちそうになったバウムクーヘンの欠片を慌てて手で押さえる。
エリックはこの様子を見て確信した。
(まだまだ士気は高い。これなら大丈夫)
そして、彼らの探索を全力でバックアップすることを決めた。
その後はロビーとエリックとの間で現状についての情報交換が行われた。
エリックの側からは主に補給体制の情報が。
ロビーの側からは探索の進行状況と今後の見通しについての情報である。
これらの情報交換は双方にとって利益のあるものだった。
まず、エリックからもたらされた情報により、「東部探索隊」は彼らの予想以上に東に進んでいたことが判明した。
ロビーの隊は出発を急いだため、位置確認のために必要な機器を十分には持っていなかった。
予定では後続の補給部隊が現在よりも西の位置で追いつき、位置確認の機器を手渡すことになっていた。
しかし、ロビーたちの進行が早く、彼らの予定よりも二〇キロ以上も東の位置に達していた。
これにより、通信のための中継局をいくつか余計に設置する必要が生じ、結果的に補給物資のやり取りが一ヶ月近くも遅れてしまったのである。
中継局が余計に設置されたことによるメリットもあった。
ロビーたちが到着した中継局の手前数キロまでのエリアは、後続部隊による探索がかなり進んでいた。
「はじまりの丘」から約一四〇キロメートルの距離については、ほぼ安全に移動できる道が開拓されていたのである。
この道を使えば、「はじまりの丘」から、ロビーのいる中継局までは一週間から一〇日程度の距離である。
物資の補給に関しては相当条件が良くなった。
現在の位置までの補給に関しては、ほぼ心配が要らないというレベルである。
また、新たに得られた位置情報を分析した結果、彼らの行く手を阻むドガン山脈を超えて目的とするサブマリン島東部までのおおよその距離が判明した。
約二五キロメートル、これがその距離である。
これは、これまでロビーたちが考えていた距離の六割程度であった。
思ったより、島の東は近い。
これらの情報が隊のメンバーに勇気をもたらした。
エリックに状況を尋ねられたロビーは現状のルートを諦め、新たなルートを探さなければならない現状を素直に伝えた。
「焦らず、無理せずに隊のペースで探してくれればいいから」
エリックはロビーに余計な負担をかけないように気を遣ったのか、言葉を選んで隊を励ましてきた。
「まあ、セスも待っているだろうし、そうも言っていられないですからね。天候が回復したら次の候補を当たりますよ。期待していて待っていてください」
十分な成果は得られていないもののロビーの言葉は頼もしい。まだ隊の士気は落ちていない。
エリックは言葉の最初にセスの名前が出てきたことで、ひとつの意思を感じ取った。
ロビーにとって、最重要なのはセスの代わりに東部を探索することなのだ。
すると、セスの死をロビーに伝えることは、彼の目的を失わせることにつながる。
(やっぱり、クルス君のことを伝えないとした判断は正しかったかな……)
エリックは自分の選択をそう判断した。
確信などはなかったが、そう信じたかったのだ。
「ところでマネージャー、今度の補給のときは菓子類を多めに持ってきてくれないですかね。メルツ室長のセンスで選んでもらえると助かるんですが」
スピーカーを通して聞こえるロビーの口調は軽やかである。この口調が物事を頼まれた側にも、周辺にいる者にも安心感を与える。
この安心感こそが、彼が自身の要求を通すための最大の武器であった。
後に「天才的要求家」とまで陰口を叩かれるようになった彼の才能の片鱗が垣間見えたようにエリックには思われた。
「……それは構わないけど、何で菓子類なんだ?」
「いやぁ、オオイダ先輩がここに着くや否や菓子を漁ってましてね、全然足らないんですよ。女性の食べ物の恨みは特に怖いですからね、俺としても先輩に恨まれたくはないわけでして」
ロビーの冗談めいた言葉の背後から、「先輩って何よ!」とオオイダの抗議の声が聞こえてきた。
ロビーが携帯端末のカメラを動かして、オオイダの方に向ける。
エリックの正面の画面にバウムクーヘンをくわえたオオイダの姿が大写しになった。
画面の向こうが笑いに包まれる。
ニヤニヤ顔のカネサキが割り込んでオオイダの頭を押さえて頭を下げさせる。
「マネージャー、すみません。ちゃんと教育しておきますので」
カネサキの言葉にオオイダが「カネサキ、あんたねぇ」と抗議する。
そして、口から落ちそうになったバウムクーヘンの欠片を慌てて手で押さえる。
エリックはこの様子を見て確信した。
(まだまだ士気は高い。これなら大丈夫)
そして、彼らの探索を全力でバックアップすることを決めた。
その後はロビーとエリックとの間で現状についての情報交換が行われた。
エリックの側からは主に補給体制の情報が。
ロビーの側からは探索の進行状況と今後の見通しについての情報である。
これらの情報交換は双方にとって利益のあるものだった。
まず、エリックからもたらされた情報により、「東部探索隊」は彼らの予想以上に東に進んでいたことが判明した。
ロビーの隊は出発を急いだため、位置確認のために必要な機器を十分には持っていなかった。
予定では後続の補給部隊が現在よりも西の位置で追いつき、位置確認の機器を手渡すことになっていた。
しかし、ロビーたちの進行が早く、彼らの予定よりも二〇キロ以上も東の位置に達していた。
これにより、通信のための中継局をいくつか余計に設置する必要が生じ、結果的に補給物資のやり取りが一ヶ月近くも遅れてしまったのである。
中継局が余計に設置されたことによるメリットもあった。
ロビーたちが到着した中継局の手前数キロまでのエリアは、後続部隊による探索がかなり進んでいた。
「はじまりの丘」から約一四〇キロメートルの距離については、ほぼ安全に移動できる道が開拓されていたのである。
この道を使えば、「はじまりの丘」から、ロビーのいる中継局までは一週間から一〇日程度の距離である。
物資の補給に関しては相当条件が良くなった。
現在の位置までの補給に関しては、ほぼ心配が要らないというレベルである。
また、新たに得られた位置情報を分析した結果、彼らの行く手を阻むドガン山脈を超えて目的とするサブマリン島東部までのおおよその距離が判明した。
約二五キロメートル、これがその距離である。
これは、これまでロビーたちが考えていた距離の六割程度であった。
思ったより、島の東は近い。
これらの情報が隊のメンバーに勇気をもたらした。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる