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第十章
450:隊の戦利品と本社の期待
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「いろいろ持ってきているじゃない。あ、バウムクーヘンなんてあるじゃない。いただきっ!」
拠点となるテントに入るや否や、ロビーに先んじてオオイダが目ざとく食べ物を見つけて手に取って口へと運ぼうとした。
「勝手に手をつけるな! 中味を確認してからだ!」
「オオイダさん!」
ロビーがアイネスに先んじて長い腕を伸ばしてオオイダからバウムクーヘンを取り上げた。
ここでオオイダの暴走を許したら、他のメンバーに示しがつかない。アイネスに先んじたのもこれが重大な場面になるとロビーが考えたからだった。
「ちょっとくらいいじゃないの、ケチ!」
オオイダが不満そうにロビーを睨んだが、ロビーは意に介さなかった。
いちいち相手にしていたら、自分の身がもたないからだ。
ロビーの判断を支持するかのように、カネサキもオオイダを睨んだ。
「ホンゴウさん、アイネスさん、中味を確認してください」
ロビーが二人に運び込まれた物資の確認を頼んだ。この二人は几帳面であるから、このような場面ではあてになる。
すぐにアイネスがロビー宛のメモを見つけて差し出した。
自分で広げずに、速やかにロビーに手渡すのが彼らしい。
「……電子データにすればよいものを」
そうぼやきながらも、ロビーがメモを広げた。
紙でメモを残したのは、電子機器が使えなくなったときのことを考えたからなのだが、ロビーはそれには気付かなかった。
メモによれば五日前に輸送部隊が物資を運び入れたらしい。
輸送部隊は一日作業を行い通信用のアンテナを設置していた。
そして四日前に次の物資輸送のために引き上げたようだ。
「……本社と通信がつながるようになったらしい。ホンゴウさん、通信機は?」
ロビーの言葉にホンゴウがすばやく通信機を差し出す。
本来、通信機はロビーが持ち歩くものなのだが、悪条件の中で先頭を歩くことの危険を考慮して、後ろを歩くホンゴウに預けていたのである。
ホンゴウが時計に目をやった、社の就業時間内である。
「就業時間中ですから、本社と連絡を取られてはいかがですか?」
ホンゴウの提案に従って、ロビーが本社との間に通信を開く。
ロビーが機器操作をするのは、メンバーに機器操作に慣れている者が少ないためだ。
すぐに本社と接続がとれ、画面にエリックの姿が現れる。
「マネージャー、やっと通信がつながりましたよ。そっちは何かありましたか?」
ロビーが少しノイズの入ったエリックの姿に向けて話しかけた。
エリックは通信がつながったことについて一通りの評価を与えた後、「東部探索隊」の現状を尋ねてきた。
エリックはECN社本社の自席で、携帯端末の画面に映るノイズ交じりのロビーの映像を真剣に見つめている、
「東部探索隊」の成果は、ECN社の幹部にとって最大級の関心事である。特にエリックにとっては。
実際のところ、サクライがエリックに隊の状況を問う回数は多くない。
しかし、エリックは知っていた。
「東部探索隊」の状況について報告を求める声が社内のあちこちからあがっていることを。特に、古参幹部からの声が大きい。
「東部探索隊」事業には相当の資金が投入されているが、今のところ目立った成果はない。
もちろん、確実に成果が出る事業ではないし、成果が出るまでにそれなりの期間を要する性質のものであることは社内でも周知の事実である。
それでも投入した資金は単独のプロジェクトとしては社内でも最大級であったし、ECN社の本業となんら関係のない事業である。
事業が成功したところで得られるものがECN社に何をもたらすか、見当がつかないものがほとんどであった。
社長のミヤハラですら、漠然と収益の期待値はマイナスであろうと考えていたくらいである。
それでもこの事業を進めたのは、半分は彼の元上司、ウォーリー・トワの遺志だったからだ。
残りの半分は未開の地を最初に切り開くことによって得られるものの大きさを期待してのことである。
ウォーリーと接点のなかった多くの従業員や、得られるものの大きさを想像できない者が事業の成功をイメージできなかったとしても、それを責めることはできない。
成功のイメージを見せることこそ、エリックが事業の責任者として果たさねばならない義務であるからだ。
その義務を果たすため、エリックは隊が得た成果を一つも聞き逃すまいと必死になって画面を見つめている。社に対して説明できる何かを得るために。
自ら現地に足を運んで探索を行っているわけではない。
だが、エリックが「東部探索隊」事業に懸ける思いの強さは、探索を行っているメンバーに劣るものではないのだ。
拠点となるテントに入るや否や、ロビーに先んじてオオイダが目ざとく食べ物を見つけて手に取って口へと運ぼうとした。
「勝手に手をつけるな! 中味を確認してからだ!」
「オオイダさん!」
ロビーがアイネスに先んじて長い腕を伸ばしてオオイダからバウムクーヘンを取り上げた。
ここでオオイダの暴走を許したら、他のメンバーに示しがつかない。アイネスに先んじたのもこれが重大な場面になるとロビーが考えたからだった。
「ちょっとくらいいじゃないの、ケチ!」
オオイダが不満そうにロビーを睨んだが、ロビーは意に介さなかった。
いちいち相手にしていたら、自分の身がもたないからだ。
ロビーの判断を支持するかのように、カネサキもオオイダを睨んだ。
「ホンゴウさん、アイネスさん、中味を確認してください」
ロビーが二人に運び込まれた物資の確認を頼んだ。この二人は几帳面であるから、このような場面ではあてになる。
すぐにアイネスがロビー宛のメモを見つけて差し出した。
自分で広げずに、速やかにロビーに手渡すのが彼らしい。
「……電子データにすればよいものを」
そうぼやきながらも、ロビーがメモを広げた。
紙でメモを残したのは、電子機器が使えなくなったときのことを考えたからなのだが、ロビーはそれには気付かなかった。
メモによれば五日前に輸送部隊が物資を運び入れたらしい。
輸送部隊は一日作業を行い通信用のアンテナを設置していた。
そして四日前に次の物資輸送のために引き上げたようだ。
「……本社と通信がつながるようになったらしい。ホンゴウさん、通信機は?」
ロビーの言葉にホンゴウがすばやく通信機を差し出す。
本来、通信機はロビーが持ち歩くものなのだが、悪条件の中で先頭を歩くことの危険を考慮して、後ろを歩くホンゴウに預けていたのである。
ホンゴウが時計に目をやった、社の就業時間内である。
「就業時間中ですから、本社と連絡を取られてはいかがですか?」
ホンゴウの提案に従って、ロビーが本社との間に通信を開く。
ロビーが機器操作をするのは、メンバーに機器操作に慣れている者が少ないためだ。
すぐに本社と接続がとれ、画面にエリックの姿が現れる。
「マネージャー、やっと通信がつながりましたよ。そっちは何かありましたか?」
ロビーが少しノイズの入ったエリックの姿に向けて話しかけた。
エリックは通信がつながったことについて一通りの評価を与えた後、「東部探索隊」の現状を尋ねてきた。
エリックはECN社本社の自席で、携帯端末の画面に映るノイズ交じりのロビーの映像を真剣に見つめている、
「東部探索隊」の成果は、ECN社の幹部にとって最大級の関心事である。特にエリックにとっては。
実際のところ、サクライがエリックに隊の状況を問う回数は多くない。
しかし、エリックは知っていた。
「東部探索隊」の状況について報告を求める声が社内のあちこちからあがっていることを。特に、古参幹部からの声が大きい。
「東部探索隊」事業には相当の資金が投入されているが、今のところ目立った成果はない。
もちろん、確実に成果が出る事業ではないし、成果が出るまでにそれなりの期間を要する性質のものであることは社内でも周知の事実である。
それでも投入した資金は単独のプロジェクトとしては社内でも最大級であったし、ECN社の本業となんら関係のない事業である。
事業が成功したところで得られるものがECN社に何をもたらすか、見当がつかないものがほとんどであった。
社長のミヤハラですら、漠然と収益の期待値はマイナスであろうと考えていたくらいである。
それでもこの事業を進めたのは、半分は彼の元上司、ウォーリー・トワの遺志だったからだ。
残りの半分は未開の地を最初に切り開くことによって得られるものの大きさを期待してのことである。
ウォーリーと接点のなかった多くの従業員や、得られるものの大きさを想像できない者が事業の成功をイメージできなかったとしても、それを責めることはできない。
成功のイメージを見せることこそ、エリックが事業の責任者として果たさねばならない義務であるからだ。
その義務を果たすため、エリックは隊が得た成果を一つも聞き逃すまいと必死になって画面を見つめている。社に対して説明できる何かを得るために。
自ら現地に足を運んで探索を行っているわけではない。
だが、エリックが「東部探索隊」事業に懸ける思いの強さは、探索を行っているメンバーに劣るものではないのだ。
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