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第十章
448:「東部探索隊」、遭難の危機に陥る
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インデストの電力不足が顕在化した頃、ロビー率いる「東部探索隊」は探索開始以来最大級の苦境に陥っていた。
彼らは過去三週間ばかり進んだ道を諦め、数キロの後退を余儀なくされていた。
選んだ道は、山肌を撫でる風が強烈に当たるものであったからだ。到底人の行き来に適さなかったのである。
彼らの行く手を阻んだ風は、彼らの後退をも許さなかった。
風は容赦なく斜面を撫でつけ、雪を巻き上げて彼らの視界を奪った。
彼らを率いるロビーは、風が止むまでその場に留まることを決めた。
手持ちの食料が心もとなくなりだした時期であり、このような探索に慣れぬ者の中には、不満を表明する者もあった。
最初にロビーに不満をぶちまけたのはオオイダであった。
「非常食に手をつけなきゃならないくらいに追い詰められているのに、何でこんなところに篭っているのよ! 飢え死にするのを待つだけじゃないの!」
「まだ一〇日分の食料はある。闇雲にここを飛び出して道に迷えばそれこそ取り返しがつかなくなる。今は吹雪が止むのを待つべきだ」
岩壁に反響する金切り声に多少の頭痛をおぼえながら、ロビーが反論する。
彼らが避難したのは二〇平方メートルほどの広さを持つ岩穴である。
二週間ほど前に見つけたこの岩穴は、探索に便利だとしてしばらくの間拠点として使われていた。
今は風を避けるためのシェルターの役割を果たしている。
オオイダが金切り声を張り上げられるのも、実のところこの岩穴のおかげだった。
テントと比較してはるかに快適なこの場所があるがゆえに、「東部探索隊」のメンバーは体力を温存できているのだ。
とは言うものの、時間が経つに連れてメンバーの不安は増すばかりである。
OP社で治安改革部隊を率いていたホンゴウや、セスを連れて「はじまりの丘」を往復したロビーなどはともかく、他のメンバーには悪天候のもと長い時間歩くような経験すらほとんどない。
岩穴に閉じこもって二日が過ぎた頃、カネサキがロビーに向けて提案した。
「動ける人がひとつ前の拠点に戻って、食料なりを持ってきた方がいいんじゃないの?」
全員が一緒に行動することを前提としていたロビーにとっては受け入れがたい提案であったが、ロビーはホンゴウの意見を仰いだ。
ホンゴウは直接の回答を避けたが、現在の天候で外に出るのは危険が大きいとして、現時点ではこの場に留まるようアドバイスした。
ロビーはホンゴウの意見を受け入れ、非常食の残りが四日分になるまでは、全員で天候の回復を待つ方針を固めた。
今回の探索でロビーは全員が一緒に行動しなければならないと決めている。
彼は今回の探索の目的を二つ考えていた。
一つはサブマリン島東部に何があるかを確かめ、それをセスに伝えること。
そしてもう一つは、セスに自らの目でそれを確かめるための道を確保すること。
後者を実現するためには、車椅子のセスが安全に移動できる道が求められる。
車椅子そのもので通行できなくとも、ロビーがおぶるなりして連れて行くことのできる道が必要である。
その点では今回のメンバーはうってつけ、といえなくもなかった。
「とぉえんてぃ? ず」の三人やメイは、女性であり、山歩きに慣れているとはいえない。
彼女等が問題なく通行できる道であれば、セスを連れて行くことができるとロビーは考えている。
特に四人の女性の中でもっとも小柄なメイが通行できることが一つの判断材料になるであろう。
しかし、現時点では音をあげてロビーに食って掛かるのはオオイダ一人である。
最初に音をあげるだろうと思われていたメイは、文句一つ言わず文字通り無言で探索に加わっていた。
彼女の場合、他人と話ができないので音をあげることすらできない可能性もある。
ロビーは辛うじて彼女とコミュニケーションが取れるコナカに頼み、メイの様子を観察させているが、コナカの報告にもメイが音をあげた、というものはなかった。
むしろ、メイについてはオオイダあたりに言わせれば、「何かに取りつかれたみたいで怖い」ということになる。
これは、多かれ少なかれメイを除く全メンバーが感じていることだ。
一言も口をきかずに黙々と歩き、休むときは一人メンバーの輪から外れて虚空を見つめている彼女である。そう思われるのも無理はなかった。
ロビーですら仕方ない、と思うことではあるが彼女の行動は他のメンバーに受け入れられているとはいえない。
特に話の輪に入ってこないので、その日のルートを確認するなどの話し合いの際に話を理解しているのかロビーでも判断がつかないのである。
(よくこんなのを秘書として使っていたよな……
見方によっちゃ見てくれは悪くないのかもしれないが、いくらなんでも扱いにくすぎるぜ……)
ここまで考えてロビーが、いかんと頭を振った。
あくまでも今はこの苦境を脱し、早く探索を再開することを優先しなければならない。
(考えて、判断しろよ、俺……)
ロビーの考えるとおり、状況を判断して決断するのはリーダーである彼自身だ。
彼らは過去三週間ばかり進んだ道を諦め、数キロの後退を余儀なくされていた。
選んだ道は、山肌を撫でる風が強烈に当たるものであったからだ。到底人の行き来に適さなかったのである。
彼らの行く手を阻んだ風は、彼らの後退をも許さなかった。
風は容赦なく斜面を撫でつけ、雪を巻き上げて彼らの視界を奪った。
彼らを率いるロビーは、風が止むまでその場に留まることを決めた。
手持ちの食料が心もとなくなりだした時期であり、このような探索に慣れぬ者の中には、不満を表明する者もあった。
最初にロビーに不満をぶちまけたのはオオイダであった。
「非常食に手をつけなきゃならないくらいに追い詰められているのに、何でこんなところに篭っているのよ! 飢え死にするのを待つだけじゃないの!」
「まだ一〇日分の食料はある。闇雲にここを飛び出して道に迷えばそれこそ取り返しがつかなくなる。今は吹雪が止むのを待つべきだ」
岩壁に反響する金切り声に多少の頭痛をおぼえながら、ロビーが反論する。
彼らが避難したのは二〇平方メートルほどの広さを持つ岩穴である。
二週間ほど前に見つけたこの岩穴は、探索に便利だとしてしばらくの間拠点として使われていた。
今は風を避けるためのシェルターの役割を果たしている。
オオイダが金切り声を張り上げられるのも、実のところこの岩穴のおかげだった。
テントと比較してはるかに快適なこの場所があるがゆえに、「東部探索隊」のメンバーは体力を温存できているのだ。
とは言うものの、時間が経つに連れてメンバーの不安は増すばかりである。
OP社で治安改革部隊を率いていたホンゴウや、セスを連れて「はじまりの丘」を往復したロビーなどはともかく、他のメンバーには悪天候のもと長い時間歩くような経験すらほとんどない。
岩穴に閉じこもって二日が過ぎた頃、カネサキがロビーに向けて提案した。
「動ける人がひとつ前の拠点に戻って、食料なりを持ってきた方がいいんじゃないの?」
全員が一緒に行動することを前提としていたロビーにとっては受け入れがたい提案であったが、ロビーはホンゴウの意見を仰いだ。
ホンゴウは直接の回答を避けたが、現在の天候で外に出るのは危険が大きいとして、現時点ではこの場に留まるようアドバイスした。
ロビーはホンゴウの意見を受け入れ、非常食の残りが四日分になるまでは、全員で天候の回復を待つ方針を固めた。
今回の探索でロビーは全員が一緒に行動しなければならないと決めている。
彼は今回の探索の目的を二つ考えていた。
一つはサブマリン島東部に何があるかを確かめ、それをセスに伝えること。
そしてもう一つは、セスに自らの目でそれを確かめるための道を確保すること。
後者を実現するためには、車椅子のセスが安全に移動できる道が求められる。
車椅子そのもので通行できなくとも、ロビーがおぶるなりして連れて行くことのできる道が必要である。
その点では今回のメンバーはうってつけ、といえなくもなかった。
「とぉえんてぃ? ず」の三人やメイは、女性であり、山歩きに慣れているとはいえない。
彼女等が問題なく通行できる道であれば、セスを連れて行くことができるとロビーは考えている。
特に四人の女性の中でもっとも小柄なメイが通行できることが一つの判断材料になるであろう。
しかし、現時点では音をあげてロビーに食って掛かるのはオオイダ一人である。
最初に音をあげるだろうと思われていたメイは、文句一つ言わず文字通り無言で探索に加わっていた。
彼女の場合、他人と話ができないので音をあげることすらできない可能性もある。
ロビーは辛うじて彼女とコミュニケーションが取れるコナカに頼み、メイの様子を観察させているが、コナカの報告にもメイが音をあげた、というものはなかった。
むしろ、メイについてはオオイダあたりに言わせれば、「何かに取りつかれたみたいで怖い」ということになる。
これは、多かれ少なかれメイを除く全メンバーが感じていることだ。
一言も口をきかずに黙々と歩き、休むときは一人メンバーの輪から外れて虚空を見つめている彼女である。そう思われるのも無理はなかった。
ロビーですら仕方ない、と思うことではあるが彼女の行動は他のメンバーに受け入れられているとはいえない。
特に話の輪に入ってこないので、その日のルートを確認するなどの話し合いの際に話を理解しているのかロビーでも判断がつかないのである。
(よくこんなのを秘書として使っていたよな……
見方によっちゃ見てくれは悪くないのかもしれないが、いくらなんでも扱いにくすぎるぜ……)
ここまで考えてロビーが、いかんと頭を振った。
あくまでも今はこの苦境を脱し、早く探索を再開することを優先しなければならない。
(考えて、判断しろよ、俺……)
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